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5.接触
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「お嬢さん」
ぼんやりと海を眺めているとふいに声が聞こえてルーチェは振り返った。
一人の青年が立っていた。
二十代半ばくらいだろうか、仕立ての良い服をきちんと着こなし、綺麗な立ち姿から貴族なのであろうと推測できた。
「ご旅行ですか?お連れは?」
「…すぐ戻ってきます」
ルーチェがいるのは一等室の客のみが入れる展望デッキだから、そう変な人物ではないと思うが警戒しながらルーチェは答えた。
「私はマルコ・アイマーロといいます。失礼ですがお名前を伺っても?」
「…ルーシーですわ」
「ルーシー様はどちらへ行かれるんです?私はこれから仕事でベークマンへ向かう所です」
ベークマンは確か港からすぐ近くの、商業都市だったと記憶にある。
青年は商談にでも向かうのだろうか。
「…私は親戚を訪ねる所です」
「ご親戚はどちらに?」
にこやかな顔で、けれど食い下がってくるマルコにルーチェは内心眉をひそめた。
「…言っても分からないような小さな田舎ですわ」
「そうなんですか?」
距離を取ろうとしたルーチェに、逆にマルコはずい、近づいてくるとルーチェの肩に手を乗せた。
「綺麗なお嬢さん」
ルーチェの右耳にマルコの口が近づく。
「———」
反応のないルーチェに、マルコはおやというふうにわずかに首を傾げた。
「……私、右耳が聞こえませんの」
「え?」
ルーチェの言葉に、マルコは目を見開いた。
「あ…それは…失礼いたしました」
「お話相手でしたら他の方を当たって下さいますか」
「お嬢様!」
そこへサラが慌てて駆け寄ってきた。
ぱし、と音を立ててルーチェの肩に乗せられたままのマルコの手を払うと相手を睨みつける。
「———お嬢様に何かご用ですか」
「あ…いや…」
「さあもう戻りましょうお嬢様」
そう言ってサラはルーチェの手を引いた。
二人が船内へと入っていくのを見届けて、マルコも船内へと戻った。
廊下を歩き、ある部屋の前で立ち止まる。
ノックをすると返事を待たずにドアを開き、中へと入っていた。
「接触してきましたよ」
「ご苦労」
中には二人の男がいた。
「ルーシーと名乗って親戚の所に行くと言っていましたよ」
「まあ初対面の怪しい男に本当の事は言わないだろうな」
「…本当にルーチェ様なんですか?クラウディオ様」
「私が見間違えるはずがないだろう」
机の前の椅子に座っていた男が言った。
「どうして王子の婚約者がこんな船に乗っているんですか」
「それを探るように命じたのだが?」
「…途中で侍女らしき女が戻ってきて邪魔されたんですよ。ああでも、一つ収穫が」
マルコは机の前に立つとクラウディオに向いた。
「何だ」
「彼女、右耳が聞こえないんです」
「…何だと?」
「本人がそう言ったんです。耳元で甘い言葉をささやいてみたんですけど、全く反応しませんでした」
「甘い言葉…お前は何をやっているんだ」
「だってあんな可愛い子、王子の婚約者じゃなかったら口説いてますよ」
「ルーチェ・ドゥランテ様の片耳が聞こえないなどという話は聞いたことがありませんが」
それまで黙っていた、机の傍に立っていた男が口を開いた。
「ああ、聞いていない」
「この船に乗っている事と関係あるのでしょうか」
「———確か有名な療養所があったな」
「はい、バウスに」
「オネスト。下船したらルーチェ嬢がどこへ向かうか後を付けてくれ」
「承知しました」
「そこまでやるんですか?」
「外交官としての勘だ。放っておいてはよくないとな」
マルコを見てクラウディオは言った。
「それに彼女に関する噂があるだろう」
「…ああ、最近エルネスト殿下が婚約者ではない女性と懇意にしているというやつですね」
「そうだ。陛下も心配している」
「殿下ほどの立場になると色恋事も政情不安の種になりますからねえ」
「まったく…殿下は賢明な方だと思っていたのだがな」
そう言ってクラウディオはため息をついた。
ぼんやりと海を眺めているとふいに声が聞こえてルーチェは振り返った。
一人の青年が立っていた。
二十代半ばくらいだろうか、仕立ての良い服をきちんと着こなし、綺麗な立ち姿から貴族なのであろうと推測できた。
「ご旅行ですか?お連れは?」
「…すぐ戻ってきます」
ルーチェがいるのは一等室の客のみが入れる展望デッキだから、そう変な人物ではないと思うが警戒しながらルーチェは答えた。
「私はマルコ・アイマーロといいます。失礼ですがお名前を伺っても?」
「…ルーシーですわ」
「ルーシー様はどちらへ行かれるんです?私はこれから仕事でベークマンへ向かう所です」
ベークマンは確か港からすぐ近くの、商業都市だったと記憶にある。
青年は商談にでも向かうのだろうか。
「…私は親戚を訪ねる所です」
「ご親戚はどちらに?」
にこやかな顔で、けれど食い下がってくるマルコにルーチェは内心眉をひそめた。
「…言っても分からないような小さな田舎ですわ」
「そうなんですか?」
距離を取ろうとしたルーチェに、逆にマルコはずい、近づいてくるとルーチェの肩に手を乗せた。
「綺麗なお嬢さん」
ルーチェの右耳にマルコの口が近づく。
「———」
反応のないルーチェに、マルコはおやというふうにわずかに首を傾げた。
「……私、右耳が聞こえませんの」
「え?」
ルーチェの言葉に、マルコは目を見開いた。
「あ…それは…失礼いたしました」
「お話相手でしたら他の方を当たって下さいますか」
「お嬢様!」
そこへサラが慌てて駆け寄ってきた。
ぱし、と音を立ててルーチェの肩に乗せられたままのマルコの手を払うと相手を睨みつける。
「———お嬢様に何かご用ですか」
「あ…いや…」
「さあもう戻りましょうお嬢様」
そう言ってサラはルーチェの手を引いた。
二人が船内へと入っていくのを見届けて、マルコも船内へと戻った。
廊下を歩き、ある部屋の前で立ち止まる。
ノックをすると返事を待たずにドアを開き、中へと入っていた。
「接触してきましたよ」
「ご苦労」
中には二人の男がいた。
「ルーシーと名乗って親戚の所に行くと言っていましたよ」
「まあ初対面の怪しい男に本当の事は言わないだろうな」
「…本当にルーチェ様なんですか?クラウディオ様」
「私が見間違えるはずがないだろう」
机の前の椅子に座っていた男が言った。
「どうして王子の婚約者がこんな船に乗っているんですか」
「それを探るように命じたのだが?」
「…途中で侍女らしき女が戻ってきて邪魔されたんですよ。ああでも、一つ収穫が」
マルコは机の前に立つとクラウディオに向いた。
「何だ」
「彼女、右耳が聞こえないんです」
「…何だと?」
「本人がそう言ったんです。耳元で甘い言葉をささやいてみたんですけど、全く反応しませんでした」
「甘い言葉…お前は何をやっているんだ」
「だってあんな可愛い子、王子の婚約者じゃなかったら口説いてますよ」
「ルーチェ・ドゥランテ様の片耳が聞こえないなどという話は聞いたことがありませんが」
それまで黙っていた、机の傍に立っていた男が口を開いた。
「ああ、聞いていない」
「この船に乗っている事と関係あるのでしょうか」
「———確か有名な療養所があったな」
「はい、バウスに」
「オネスト。下船したらルーチェ嬢がどこへ向かうか後を付けてくれ」
「承知しました」
「そこまでやるんですか?」
「外交官としての勘だ。放っておいてはよくないとな」
マルコを見てクラウディオは言った。
「それに彼女に関する噂があるだろう」
「…ああ、最近エルネスト殿下が婚約者ではない女性と懇意にしているというやつですね」
「そうだ。陛下も心配している」
「殿下ほどの立場になると色恋事も政情不安の種になりますからねえ」
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そう言ってクラウディオはため息をついた。
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