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第2章 王都と学園
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『七色の空を持つ楽園』
このシエル聖王国を讃える時に使われる言葉である。
豊かな自然と共に四季折々に見せる異なる美しさを表すものであり———またこの国でのみ現れる現象を示す言葉でもある。
空が突然明るく輝き、ざわ、と驚きと感嘆の響きが市中に広がった。
光が満ちる中、天から降り注ぐように七色を持つ光の柱がゆっくりと降りてくる。
辺り一面を輝かせるように照らしながら、光の柱はその下にある大きな白亜の神殿へと吸い込まれていった。
「…あれが女神の神託か———」
パンを買い求めようとしていた男が空を見上げ、ため息をもらした。
「お前さんは旅人かね。初めて見るのかい」
「ああ、噂には聞いていたが…何と美しい」
「運が良いよ。女神様の神託は一年に数度しかないからね」
「それはついているな」
「きっとこの旅は良いものになるだろうよ」
「ありがとう」
パン屋の主人と会話をしながら、旅人はもう一度光が消えたばかりの空を眩しそうに見上げた。
神殿の奥へと向かう複数の足音が響いていた。
「巫女!」
祭壇の前に跪いていた一人の女性が振り返った。
神官達を見上げる青い瞳の中には黄色や赤、緑…幾つもの色が混ざり合い、神秘的な光を湛えていた。
「…神託があったのか…?」
息を切らしながら、白髪の男が尋ねた。
予定外の神託が下ったと聞き、慌てて駆けつけたのだ。
無言で頷くと女性は立ち上がった。
腰まで伸びる黒髪がさらり、と揺れる。
『神官長』
よく響く、威厳のある声が赤い唇から聞こえた。
『王を諌めよ。王の心を我の元へ戻せ。それが出来なくばこの国は我の加護を失うであろう』
「なっ…」
神官達の間からどよめきが漏れた。
女神の加護を失う、それはこの国が終わる事を意味している。
『これは其方達への試練。我への信仰があれば乗り越えられよう』
そう告げると女性の身体から力が抜けた。
「アイリス!」
若い男性が駆け寄ると崩れ落ちそうになった女性の身体を支えた。
「———神官長…」
ゆっくりとアイリスは頭を上げた。
「…女神はひどくお怒りです」
周囲の者達が息を飲む音が響く。
「どうか…王を……」
「ああ…分かった。ご苦労だった巫女アイリスよ、もう休め」
アイリスと青年を残して神官達は足早に祭壇を後にした。
「アイリス…大丈夫か」
「ええ…フラビオ」
アイリスは微笑むと差し出された手を取った。
巫女として、女神の言葉をその身体に宿すには相当の魔力を使う。
五歳で神殿に召されてから十五年間、巫女として女神の言葉を伝え続けてきたアイリスに蓄積され続けてきた負担は相当なものになっている筈だ。
フラつきながら立ち上がったアイリスの身体をフラビオはそっと抱きしめた。
その負担の大きさから、巫女としての務めは長くても十年程度とされてきた。
だがアイリスが巫女となって以降、新たに巫女となれる『虹の瞳』を持つ子供が生まれることはなかった。
それは現国王が王位についてからの年月と重なる。
———この国はもう駄目かもしれない。
口には出さないが、神官達が皆心の中で思う事だった。
国王はこの国が女神の加護によって繁栄している事を忘れ、自らの力を奢り独裁政治を行なっている。
何度も神殿が警告していたが、それを無視し続け———とうとう女神による最終勧告が出てしまった。
この説得に失敗すれば、国力は落ち、この土地を狙っている隣国からの侵略を許すことになるだろう。
「フラビオ…」
相手の腕に身体を委ねて、アイリスは口を開いた。
「さっきは言えなかったけど…女神はもう、国王を見捨てているの」
フラビオが身体を強張らせたのを感じた。
「もうじき戦争が始まるわ。そうなったらもう…」
「アイリス」
フラビオは腕の中の恋人を強く抱きしめた。
「…戦争が始まったら…ここから逃げよう」
虹色の瞳が大きく見開かれた。
このシエル聖王国を讃える時に使われる言葉である。
豊かな自然と共に四季折々に見せる異なる美しさを表すものであり———またこの国でのみ現れる現象を示す言葉でもある。
空が突然明るく輝き、ざわ、と驚きと感嘆の響きが市中に広がった。
光が満ちる中、天から降り注ぐように七色を持つ光の柱がゆっくりと降りてくる。
辺り一面を輝かせるように照らしながら、光の柱はその下にある大きな白亜の神殿へと吸い込まれていった。
「…あれが女神の神託か———」
パンを買い求めようとしていた男が空を見上げ、ため息をもらした。
「お前さんは旅人かね。初めて見るのかい」
「ああ、噂には聞いていたが…何と美しい」
「運が良いよ。女神様の神託は一年に数度しかないからね」
「それはついているな」
「きっとこの旅は良いものになるだろうよ」
「ありがとう」
パン屋の主人と会話をしながら、旅人はもう一度光が消えたばかりの空を眩しそうに見上げた。
神殿の奥へと向かう複数の足音が響いていた。
「巫女!」
祭壇の前に跪いていた一人の女性が振り返った。
神官達を見上げる青い瞳の中には黄色や赤、緑…幾つもの色が混ざり合い、神秘的な光を湛えていた。
「…神託があったのか…?」
息を切らしながら、白髪の男が尋ねた。
予定外の神託が下ったと聞き、慌てて駆けつけたのだ。
無言で頷くと女性は立ち上がった。
腰まで伸びる黒髪がさらり、と揺れる。
『神官長』
よく響く、威厳のある声が赤い唇から聞こえた。
『王を諌めよ。王の心を我の元へ戻せ。それが出来なくばこの国は我の加護を失うであろう』
「なっ…」
神官達の間からどよめきが漏れた。
女神の加護を失う、それはこの国が終わる事を意味している。
『これは其方達への試練。我への信仰があれば乗り越えられよう』
そう告げると女性の身体から力が抜けた。
「アイリス!」
若い男性が駆け寄ると崩れ落ちそうになった女性の身体を支えた。
「———神官長…」
ゆっくりとアイリスは頭を上げた。
「…女神はひどくお怒りです」
周囲の者達が息を飲む音が響く。
「どうか…王を……」
「ああ…分かった。ご苦労だった巫女アイリスよ、もう休め」
アイリスと青年を残して神官達は足早に祭壇を後にした。
「アイリス…大丈夫か」
「ええ…フラビオ」
アイリスは微笑むと差し出された手を取った。
巫女として、女神の言葉をその身体に宿すには相当の魔力を使う。
五歳で神殿に召されてから十五年間、巫女として女神の言葉を伝え続けてきたアイリスに蓄積され続けてきた負担は相当なものになっている筈だ。
フラつきながら立ち上がったアイリスの身体をフラビオはそっと抱きしめた。
その負担の大きさから、巫女としての務めは長くても十年程度とされてきた。
だがアイリスが巫女となって以降、新たに巫女となれる『虹の瞳』を持つ子供が生まれることはなかった。
それは現国王が王位についてからの年月と重なる。
———この国はもう駄目かもしれない。
口には出さないが、神官達が皆心の中で思う事だった。
国王はこの国が女神の加護によって繁栄している事を忘れ、自らの力を奢り独裁政治を行なっている。
何度も神殿が警告していたが、それを無視し続け———とうとう女神による最終勧告が出てしまった。
この説得に失敗すれば、国力は落ち、この土地を狙っている隣国からの侵略を許すことになるだろう。
「フラビオ…」
相手の腕に身体を委ねて、アイリスは口を開いた。
「さっきは言えなかったけど…女神はもう、国王を見捨てているの」
フラビオが身体を強張らせたのを感じた。
「もうじき戦争が始まるわ。そうなったらもう…」
「アイリス」
フラビオは腕の中の恋人を強く抱きしめた。
「…戦争が始まったら…ここから逃げよう」
虹色の瞳が大きく見開かれた。
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