32 / 66
第3章 呪い
10
しおりを挟む
「失礼ですが…イリス様について調べさせて頂きました」
貴賓室にはイリスとクリストファー、レナルド、オレール、それに祭司長と二人の祭司がいた。
「それは先日の大神殿での事でですか」
「ええ、大神殿としてあのような現象は見過ごす訳にはまいりませんから」
祭司長はクリストファーを見た。
「お二人の母方の実家、スミアラ家は神官の家系なのですね。オービニエ領の近くにある、大神殿の管轄外になる神殿の」
「大神殿の管轄外?」
レナルドが聞き返した。
「そんな事があるのか?」
この国の各地にある神殿は全て大神殿が統轄していると聞いていた。
「大神殿でも全ての神殿を把握している訳ではありません。領主が個人的に建てたり、この国が成り立つ前からあるような古くて小さなものなどまでは管理しきれません。スミアラ家の仕える神殿は後者の様ですが」
レナルドにそう答えて、祭司長は再びクリストファーへと視線を戻した。
「かなり古い神殿という事は分かったのですが、創建や由来といったものは分かりませんでした。———古いといえばクリストファー様は古い神について詳しいようですし、神の言葉を伝える力も古にはあったと聞きます」
祭司長はイリスへと視線を送った。
「もう一つ。珍しい事にスミアラ家では女性も神官を継ぐそうですね。お母上も元々は神官だったとか」
レナルドはイリスを見た。
青い瞳は何か考え込んでいるように、じっと宙の一点を見つめている。
「それで、あなた方が知りたい事は分かったのですか」
「いいえ」
クリストファーの言葉に祭司長は首を振った。
「どうやらお二人は古い神や力といったものに関わりがあるらしい、と推測する事しかできません」
「確かに母は神官でしたが。昔の話です」
そう言うと、クリストファーはイリスの頭を撫でた。
「イリスが生まれてすぐの頃、ゆくゆくは神官としたいと向こうから話があったそうですが。魔力が高すぎて不安定だったので立ち消えになったと聞いています」
「イリスを…神官に?」
「正直、イリスの力は分からない事が多いです。神の声を聞くというのも、どう関係あるか」
「クリストファー様でも分かりませんか」
「そうですね」
祭司長に向かってクリストファーは答えた。
「そう言って誤魔化してきたんだね」
二人の話を聞いてフェリクスは頷いた。
「誤魔化しではありません。言える事だけを言ったんです」
「隠し事もしているんだろう」
フェリクスはクリストファーからイリスへと視線を移した。
「力を使って、身体は大丈夫かい」
「直後は魔力の使い過ぎで辛かったけれど、すぐに治ったわ」
「それは良かった。神の声が聞こえた事を、大神殿は何か言っていたかい」
「———それについてはまた改めて調べさせて欲しいと」
「そうか。スミアラの家にも伝えないとならないね」
ふう、とフェリクスは息を吐いた。
「王宮も大変だったよ。アルセーヌ殿下といた男達の取り調べに魔術局も駆り出されてね」
「魔術局が?」
「怪しい術を使うようなんだが、我々の魔術と違うから中々尋問が進まないんだ。クリストファー、〝スィスターン〟という言葉に聞き覚えはあるかい」
「———古い王国の名前でしょうか。西の方にあって短期間で滅んだ」
「連中はそこと関わりがあるらしいという事までは何とか分かったんだ」
「黒魔術や呪法といった怪しい術が盛んでしたね。殿下に取り憑こうとした邪神アポフィスも信仰されていた筈です」
「ああ、流石だね。明日はお前にも取り調べに同席してもらおうか。誰にも分からないし文献も見つからなくてね」
「この国の者達が知らな過ぎるだけでは?」
「アランブール王国はユーピテル神の力が強いからね、他の神の事は興味がないんだよ」
フェリクスはそう言いながら、イリスの頭を撫でた。
「力を使ったから疲れただろう。明日は学園も休みだし、ゆっくりお休み」
「はい、お父様」
イリスは頷いた。
貴賓室にはイリスとクリストファー、レナルド、オレール、それに祭司長と二人の祭司がいた。
「それは先日の大神殿での事でですか」
「ええ、大神殿としてあのような現象は見過ごす訳にはまいりませんから」
祭司長はクリストファーを見た。
「お二人の母方の実家、スミアラ家は神官の家系なのですね。オービニエ領の近くにある、大神殿の管轄外になる神殿の」
「大神殿の管轄外?」
レナルドが聞き返した。
「そんな事があるのか?」
この国の各地にある神殿は全て大神殿が統轄していると聞いていた。
「大神殿でも全ての神殿を把握している訳ではありません。領主が個人的に建てたり、この国が成り立つ前からあるような古くて小さなものなどまでは管理しきれません。スミアラ家の仕える神殿は後者の様ですが」
レナルドにそう答えて、祭司長は再びクリストファーへと視線を戻した。
「かなり古い神殿という事は分かったのですが、創建や由来といったものは分かりませんでした。———古いといえばクリストファー様は古い神について詳しいようですし、神の言葉を伝える力も古にはあったと聞きます」
祭司長はイリスへと視線を送った。
「もう一つ。珍しい事にスミアラ家では女性も神官を継ぐそうですね。お母上も元々は神官だったとか」
レナルドはイリスを見た。
青い瞳は何か考え込んでいるように、じっと宙の一点を見つめている。
「それで、あなた方が知りたい事は分かったのですか」
「いいえ」
クリストファーの言葉に祭司長は首を振った。
「どうやらお二人は古い神や力といったものに関わりがあるらしい、と推測する事しかできません」
「確かに母は神官でしたが。昔の話です」
そう言うと、クリストファーはイリスの頭を撫でた。
「イリスが生まれてすぐの頃、ゆくゆくは神官としたいと向こうから話があったそうですが。魔力が高すぎて不安定だったので立ち消えになったと聞いています」
「イリスを…神官に?」
「正直、イリスの力は分からない事が多いです。神の声を聞くというのも、どう関係あるか」
「クリストファー様でも分かりませんか」
「そうですね」
祭司長に向かってクリストファーは答えた。
「そう言って誤魔化してきたんだね」
二人の話を聞いてフェリクスは頷いた。
「誤魔化しではありません。言える事だけを言ったんです」
「隠し事もしているんだろう」
フェリクスはクリストファーからイリスへと視線を移した。
「力を使って、身体は大丈夫かい」
「直後は魔力の使い過ぎで辛かったけれど、すぐに治ったわ」
「それは良かった。神の声が聞こえた事を、大神殿は何か言っていたかい」
「———それについてはまた改めて調べさせて欲しいと」
「そうか。スミアラの家にも伝えないとならないね」
ふう、とフェリクスは息を吐いた。
「王宮も大変だったよ。アルセーヌ殿下といた男達の取り調べに魔術局も駆り出されてね」
「魔術局が?」
「怪しい術を使うようなんだが、我々の魔術と違うから中々尋問が進まないんだ。クリストファー、〝スィスターン〟という言葉に聞き覚えはあるかい」
「———古い王国の名前でしょうか。西の方にあって短期間で滅んだ」
「連中はそこと関わりがあるらしいという事までは何とか分かったんだ」
「黒魔術や呪法といった怪しい術が盛んでしたね。殿下に取り憑こうとした邪神アポフィスも信仰されていた筈です」
「ああ、流石だね。明日はお前にも取り調べに同席してもらおうか。誰にも分からないし文献も見つからなくてね」
「この国の者達が知らな過ぎるだけでは?」
「アランブール王国はユーピテル神の力が強いからね、他の神の事は興味がないんだよ」
フェリクスはそう言いながら、イリスの頭を撫でた。
「力を使ったから疲れただろう。明日は学園も休みだし、ゆっくりお休み」
「はい、お父様」
イリスは頷いた。
3
あなたにおすすめの小説
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。
夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。
辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。
側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。
※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。
私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?
みこと。
恋愛
鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。
「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。
(あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)
現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。
そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。
なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?
この出会いが、クローディアに新しい道を拓く!
※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。
ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。
しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。
無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。
『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。
【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
【完結】ありのままのわたしを愛して
彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。
そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。
私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?
自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる