虹の瞳を継ぐ娘

冬野月子

文字の大きさ
36 / 66
第3章 呪い

14

しおりを挟む
その部屋にはフェリクスとクリストファー、そして手足を拘束されてベッドに横たわる少女がいた。

「ごめんね、疲れているのに呼び出して」
入ってきたイリスとレナルドを見てフェリクスが声をかけた。

「もう大丈夫よ。それでお父様、手伝いって?」
「この令嬢の呪いが解けなくてね」
そう言ってフェリクスは顎で少女を示した。
「この人…アルセーヌ殿下と一緒にいた…?」
「そう、クリストファーが試みているんだけどなかなか効かなくて。イリス、手伝ってくれるかい」

「呪いを解く?イリスが?」
「…シエルの神官は解呪が得意なの」
「ふーん…」

「あれ、イリスは殿下に自分の事を教えたの?」
イリスとレナルドの会話を聞いてフェリクスは尋ねた。
「…今朝、女神が夢に出てきて…。昨日の事もあったし…」

「そうか。その様子だと殿下に受け入れてもらえたようだね」
フェリクスはレナルドに向いた。
「殿下。イリスは私の娘ですが、女神ジュノーからの大切な預かりものでもあります。———殿下には、この子が負っているものを含めてイリスを受け入れる覚悟はございますか」

「ああ、もちろん。僕は何があってもイリスの傍にいる」
フェリクスに向かってレナルドは迷わず答えた。
「ありがとうございます。…クリストファー、お前もそろそろ殿下を認めてもいいんじゃないかな」
「私に剣で勝てば認めますよ」
「本当にお前も強情だね」
苦笑する父親を横目に、クリストファーはイリスへと向いた。

「それじゃあ始めようか、イリス」
「ええ」
イリスは腕輪を外すと、少女———ミアーの傍にある椅子へ座った。


「殿下」
フェリクスはレナルドを見た。
「イリス…巫女の力は〝媒体〟です」
「媒体?」
「他の者の魔力を自身に取り込んで使ったり変化させる事ができるんです。例えば神の声を聞いたりその力を宿すといったように」
「…これからやるのは?」
「クリストファーの力を増幅させます」

イリスは手を伸ばすとミアーの額に触れた。
反対側の手をクリストファーが握ると、手のひらの重なった間から光が溢れ出した。

ミアーの身体がびくりと震えた。
「……う…あぅ!」
苦しげな呻き声を上げるとその身体が大きく跳ねた。

「っ…」
イリスが眉根を寄せた。
はっと息を吐く。
「イリス…!」
昨日の倒れたイリスの姿が脳裏に浮かび、思わず駆け寄ろうとしたレナルドの肩をフェリクスが抑えた。
「殿下」
「フェリクス…イリスは大丈夫なのか」
「そこはクリストファーが見極めますから」

「ああっ」
大きく開かれたミアーの口から黒い影が飛び出るとすぐに霧散した。



「———ふう…」
大きく息を吐くと、イリスは椅子へともたれかかった。
「お疲れ」
クリストファーはイリスの前に膝を付くと、妹の顔を覗き込みその顔色を確認した。

「イリス…大丈夫か」
「ええ」
心配そうなレナルドにイリスは笑顔を向けた。
「…昨日はごっそり魔力を持っていかれたから辛かったけど、それに比べれば楽よ」

「クリストファー。どんな呪いか分かったのか」
「魂の束縛かと。随分と古い術を使っているようです」
クリストファーはフェリクスの問いに答えて立ち上がった。
「やはりスィスターンと関係があるのか」
「おそらくは」

「…ぅ……」
小さく呻くと、ミアーが瞳を開いた。
幾度か瞬きをすると不思議そうに周囲を見渡す。

「ここは…」
「ミアー・マクレーン嬢」
フェリクスがその傍へ立った。
「…はい」
「気分はいかがですか」
「え…あの……悪くはない…です」
「お話を伺ってもよろしいですか」
「?はい…」
「クリストファー、尋問を始めるから呼んできてくれ」

「尋問…?」
ミアーは呟くと、改めて周囲にいる人間を確認するように見渡した。
「え……殿下?!」
レナルドの姿を認めて目を見開く。
「あ、あの私?ここは…え?!」
慌てて上体を起こそうとしたが、自身の手足が拘束されているのに気づいて狼狽えるその様子は、自分が何故ここにいるか全く分かっていないようにみえた。

「マクレーン嬢、昨日の事を覚えていますか」
「昨日…?」
拘束を解きながら尋ねるフェリクスに、ミーアは首を傾げた。
「…昨日は…今日の魔術大会に備えて早く休もうと…」

「魔術大会?」
レナルドは思わず声を上げた。
「それはもう一ヶ月以上前の話だぞ」

「え…?」
「マクレーン嬢、では最後に覚えているのは?」
「え…あの…アルセーヌ殿下と対戦していて…」

「———あの時からの記憶がないのか?」
レナルドはイリスと顔を見合わせた。
「…ミアー様の魔力が変化したと感じた、あの時に呪いの術が発動したって事かしら」
「それでアルセーヌが…」

「呪い…?アルセーヌ殿下…?」
自分が何かをしでかしたらしいと察したミアーが顔を青ざめさせていると、クリストファーが尋問の役人を連れて戻ってきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?

みこと。
恋愛
 鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。 「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。 (あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)  現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。  そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。  なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?  この出会いが、クローディアに新しい道を拓く! ※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

処理中です...