虹の瞳を継ぐ娘

冬野月子

文字の大きさ
38 / 66
第3章 呪い

16

しおりを挟む
「祭司長、それは事実か」
「はい…他に聞く事の出来る者も、過去の事例もないため証明するのは難しいですが。状況から判断して間違いないかと」
「ふむ」
国王はイリスへ向いた。

「イリス。神の声が聞こえるというのは、どう聞こえるのだ?」
「はい…」
それまで俯き気味だったイリスは顔を上げた。
「———頭の中に、突然声が聞こえました」
「それは人と同じ言葉でか」
「はい、とても威厳のある…けれど優しい声です」
「これまで何回声を聞いた」
「初めて大神殿に行った時と、先日の二回です」
「それ以降は聞いておらぬか」
「はい」

「二回ほどイリス様に大神殿に来ていただき、試してみましたがあの件以降はないようです」
祭司長が言葉を継いだ。
「そもそも神の声を聞くという事は本来ならばありえない事。アルセーヌ殿下の危機に際し、イリス様を通じて特別にお言葉とお力を与えて下されたと思われます」

「ふむ…オービニエよ」
「はい」
「そなたの娘の力はどういうものなのだ」

「———それは、私にも分かりかねます」
フェリクスはそう言って頭を下げた。
「魔術局一の研究家と言われるお前でも分からぬ事があるか」
「オービニエ家の魔術師としての血と、母方の神官の血が互いに強く出てしまったせいかと推測しておりますが」
「イリス様の力については大神殿の方でも調べていきますが、この事はなるべく知られない方がよろしいでしょう」
祭司長が口を開いた。
「イリス様や、婚約者のレナルド殿下を利用しようとする者が出てくるかもしれません」
「———そうだな」
神の声が聞こえるという事は、場合によっては国王や祭司長よりも立場が上になる事もある。
それにこの事が国民や国外にまで知られたら、大きな騒ぎとなるであろう。

「あの場にいた者達には固く口止めを誓わせております」
「分かった。ではこの場の者達も皆、この事は禁秘とするように」
全員が頷くのを確認すると、国王はイリスに向いた。

「イリス。そなたの力、この国の為に正しく使うのだぞ」
「はい。承知しております」
答えてイリスは深く頭を下げた。




「ほら、夜も綺麗だろう」
すっかり日も暮れてしまい、王宮で夕食を取る事になったイリスを、レナルドはその前に物見塔へと連れてきた。

「わあ…星を大地に蒔いたみたい」
眼下に広がる、小さな灯りが瞬く景色を見下ろしてイリスは声を上げた。
「寒くない?」
「いいえ、風が気持ちいいわ」
並んで二人、しばらく夜の街並みを見下ろした。


「レナルド…ありがとう」
「え?」
レナルドはイリスを見た。
「私がシエルの巫女だっていう事、黙っていてくれて」

「———イリスを守る為に、君の家族が秘密にしてきた事だろう」
自分を見つめるイリスに、レナルドは笑みで返した。
「僕だってイリスの家族になるんだから。秘密は守るよ」
「…ありがとう」
嬉しそうに目を細めたイリスの髪へ手を伸ばすと、その身体を抱き寄せた。

「イリス。愛している」
ゆっくりと、抱きしめる腕に力を込める。
「…私も…レナルドが好きよ」
呟くようなイリスの言葉に、レナルドは目を見開くとその顔を覗き込んだ。

「———初めて好きって言ってくれた」
「…え?」
「いつも僕が言うばかりだったから」
「……それは…」
瞳を瞬かせると、イリスは目を伏せた。
「怖かったから…」
「怖い?」
「私の力や血筋の事を知ったら…レナルドはどう思うんだろうって。それに私は…女神の巫女だから、女神が一番なの。だから…」

「それでも、僕はイリスを愛しているよ」
レナルドはイリスの頬に手を添えると顔を上げさせた。
「君が何者でも、その瞳に何を映そうとも———誰を一番に想おうとも。僕はイリスを愛し続けるし、イリスの為にできる事をする」
「レナルド…」

「僕はずっとイリスの傍にいるから」
レナルドの唇がそっとイリスのそれに触れた。

「今日は邪魔が入らなくてよかった」
「…ふふっ」
思わず笑みを漏らしたイリスの唇にもう一度唇を重ねると、レナルドは愛しい人を強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?

みこと。
恋愛
 鉛色の髪と目を持つクローディアは"鉱石姫"と呼ばれ、婚約者ランバートからおざなりに扱われていた。 「俺には"宝石姫"であるタバサのほうが相応しい」そう言ってランバートは、新年祭のパートナーに、クローディアではなくタバサを伴う。 (あんなヤツ、こっちから婚約破棄してやりたいのに!)  現代日本にはなかった身分差のせいで、伯爵令嬢クローディアは、侯爵家のランバートに逆らえない。  そう、クローディアは転生者だった。現代知識で鉱石を扱い、カイロはじめ防寒具をドレス下に仕込む彼女は、冷えに苦しむ他国の王女リアナを助けるが──。  なんとリアナ王女の正体は、王子リアンで?  この出会いが、クローディアに新しい道を拓く! ※小説家になろう様でも「私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね? 〜不実な婚約者を見限って。冷え性令嬢は、熱愛を希望します」というタイトルで掲載しています。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

処理中です...