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第4章 西からの風
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「申し訳ございませんがそれは出来ません」
相手を見上げて、イリスは拒否の言葉を口にした。
「つれないな。まあそういう所も可愛らしいのだが」
女生徒達が見たら黄色い悲鳴をあげそうな、甘い笑顔でヘンリクはそう返してイリスの手を取った。
「我が姫よ、どうか私に姫の時間を少し頂けないだろうか」
手の甲に軽く口づけを落としながら、熱を帯びた瞳が上目遣いでイリスを見つめる。
…甘い。醸し出す空気が甘い。
甘すぎて胸焼けしそう。
背筋がぞわぞわするのを感じながらイリスは思わず一歩後ずさった。
二人きりにならないようにしていたのに。
必ずレナルドかオレールと共に行動していたのに。
ほんの僅か、一人になった隙をついてこの王太子はイリスを人気のない所へ連れ出すと、滞在している屋敷に招待したいと誘ってきたのだ。
「私は婚約者のいる身です。そのような場所に行くわけにはまいりません」
「先に越されはしたが諦めるつもりはない。それに私の事をよく知る前に断られるのは心外だ。———姫には私と向き合って欲しいのだ」
距離を取ろうとしたイリスを、ヘンリクは取ったままだった手を引き寄せてその顔を覗き込んだ。
「姫よ、どうか私に心を開いてはくれないか」
直近に見つめられてイリスは息を飲んだ。
どうにもこの王太子は苦手だ。
イリスを見つめる瞳はひどく熱を帯びている。
行動は強引なくせに、その口から出る言葉は甘く響く。
今までに出会ったことのないタイプだった。
レナルドも強引といえば強引だが、ヘンリクに比べればよほどさっぱりしている。
この異国の王太子から滲み出る甘さと熱量が苦手なのだ。
それに———
「…どうして…私を姫と呼ぶのですか」
視線を逸らしながらイリスは言った。
何故か初めて会った時からヘンリクはイリスの事を〝姫〟と呼ぶ。
それもヘンリクを苦手に思う一因だった。
「それは貴女が、私が探していた姫だからだ」
「探していた…?」
「我がサルマントの王妃には条件がある。黒い髪に青い瞳である事———本当ならば虹色の瞳がいいのだが」
「虹…色の?」
思わずイリスはヘンリクを見た。
「サルマント王家の最初の王妃は、我が国を守る海の守護神オーケアノスの姫君だった。彼女は黒い髪と虹色の瞳を持っていたという。以来、同じ色彩を持つ娘を王妃として迎え入れる事が習わしとなっていたが、いつしか虹色の瞳を持つ娘は生まれなくなったそうだ」
イリスを見つめてヘンリクは言った。
「貴女の瞳は虹色ではないが…吸い寄せられるような、海のように澄んだ美しい瞳だ。我が国にも同じ色彩を持つ令嬢達はいるが、どれもピンとこなかった。だが初めて会った時に確信した———貴女が探し求めていた私の虹の姫だと」
「そんな話は聞いた事がないな」
クリストファーはイリスの話を聞くと眉をひそめた。
「…だが、もしかしたらシエル聖王国が生まれる前の話なのかもしれないな」
「昔は虹色の瞳を持つ人が巫女以外にもいたという事なのかしら…」
「その辺りも含めてスミアラの家で調べてもらうか…分かるといいが」
そう言ってクリスファーはため息をついた。
「しかし…まさかそんな伝承があったとは。いいかイリス、絶対に王太子に瞳を見られるな」
「ええ…分かっているわ」
イリスは頷くと、気づいたように顔を上げた。
「そうだ、ユーピテル様なら知っているかしら」
「え?」
「神様なのだから昔の事も詳しいでしょう。明日は大神殿に行く日だから聞いてみるわ」
「そうだな。ならば私も行こう」
クリストファーはそう答えた。
相手を見上げて、イリスは拒否の言葉を口にした。
「つれないな。まあそういう所も可愛らしいのだが」
女生徒達が見たら黄色い悲鳴をあげそうな、甘い笑顔でヘンリクはそう返してイリスの手を取った。
「我が姫よ、どうか私に姫の時間を少し頂けないだろうか」
手の甲に軽く口づけを落としながら、熱を帯びた瞳が上目遣いでイリスを見つめる。
…甘い。醸し出す空気が甘い。
甘すぎて胸焼けしそう。
背筋がぞわぞわするのを感じながらイリスは思わず一歩後ずさった。
二人きりにならないようにしていたのに。
必ずレナルドかオレールと共に行動していたのに。
ほんの僅か、一人になった隙をついてこの王太子はイリスを人気のない所へ連れ出すと、滞在している屋敷に招待したいと誘ってきたのだ。
「私は婚約者のいる身です。そのような場所に行くわけにはまいりません」
「先に越されはしたが諦めるつもりはない。それに私の事をよく知る前に断られるのは心外だ。———姫には私と向き合って欲しいのだ」
距離を取ろうとしたイリスを、ヘンリクは取ったままだった手を引き寄せてその顔を覗き込んだ。
「姫よ、どうか私に心を開いてはくれないか」
直近に見つめられてイリスは息を飲んだ。
どうにもこの王太子は苦手だ。
イリスを見つめる瞳はひどく熱を帯びている。
行動は強引なくせに、その口から出る言葉は甘く響く。
今までに出会ったことのないタイプだった。
レナルドも強引といえば強引だが、ヘンリクに比べればよほどさっぱりしている。
この異国の王太子から滲み出る甘さと熱量が苦手なのだ。
それに———
「…どうして…私を姫と呼ぶのですか」
視線を逸らしながらイリスは言った。
何故か初めて会った時からヘンリクはイリスの事を〝姫〟と呼ぶ。
それもヘンリクを苦手に思う一因だった。
「それは貴女が、私が探していた姫だからだ」
「探していた…?」
「我がサルマントの王妃には条件がある。黒い髪に青い瞳である事———本当ならば虹色の瞳がいいのだが」
「虹…色の?」
思わずイリスはヘンリクを見た。
「サルマント王家の最初の王妃は、我が国を守る海の守護神オーケアノスの姫君だった。彼女は黒い髪と虹色の瞳を持っていたという。以来、同じ色彩を持つ娘を王妃として迎え入れる事が習わしとなっていたが、いつしか虹色の瞳を持つ娘は生まれなくなったそうだ」
イリスを見つめてヘンリクは言った。
「貴女の瞳は虹色ではないが…吸い寄せられるような、海のように澄んだ美しい瞳だ。我が国にも同じ色彩を持つ令嬢達はいるが、どれもピンとこなかった。だが初めて会った時に確信した———貴女が探し求めていた私の虹の姫だと」
「そんな話は聞いた事がないな」
クリストファーはイリスの話を聞くと眉をひそめた。
「…だが、もしかしたらシエル聖王国が生まれる前の話なのかもしれないな」
「昔は虹色の瞳を持つ人が巫女以外にもいたという事なのかしら…」
「その辺りも含めてスミアラの家で調べてもらうか…分かるといいが」
そう言ってクリスファーはため息をついた。
「しかし…まさかそんな伝承があったとは。いいかイリス、絶対に王太子に瞳を見られるな」
「ええ…分かっているわ」
イリスは頷くと、気づいたように顔を上げた。
「そうだ、ユーピテル様なら知っているかしら」
「え?」
「神様なのだから昔の事も詳しいでしょう。明日は大神殿に行く日だから聞いてみるわ」
「そうだな。ならば私も行こう」
クリストファーはそう答えた。
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