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第2章 再会と出会い
01
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「最近フェールが変わったそうだな」
書類に向き合っていたオリエンスは王太子ユークの言葉に顔を上げた。
「ああ…そうですね」
氷の宰相との渾名が付けられるほど冷酷だと評判の、宰相補佐を務めるフェール・ノワールだが、最近はその表情やあたりも柔らかくなり笑顔を見せる事もある。
そして、元々見目は良いと評判だったが、その変化のお陰で王宮や貴族の女性達からの人気が高まっているのだという。
「妹のおかげでしょうか」
「ずっと領地で療養していたそうだな」
フェールの変化と共に、それまで存在を知られていなかった彼の妹が最近領地から王都の屋敷に出てきたという噂も流れるようになっていた。
そしてその妹の存在がフェールが柔らかくなった理由だと。
「ノワール公爵に娘がいたなど知らなかったぞ」
「これまで身体が弱くて外に出られなかったので、彼女の負担を減らすために存在は公にしていなかったとか」
長く行方不明だったとはいえ、五歳までロゼはこの世界で生きていた。
それなのにその存在をノワール家以外の者が知らなかった事を疑問に思い、オリエンスは公爵に尋ねてみたらそう返された。
成長して社交がこなせる身体になってからその存在を披露するつもりだったのだという。
「本当に妹なのか?」
「本当ですよ。ロゼ嬢はフェールにそっくりですし」
「お前は会ったことがあるのか」
オリエンスの言葉にユークは片眉を上げた。
「あ…ええ」
しまったという風に視線をそらせたオリエンスを緑色の瞳がじっと見つめる。
「公爵家の人間を私が知らないというのもおかしな話じゃないか、オリエンス」
視線を戻したオリエンスに、ユークは口角を上げた。
「是非そのロゼ嬢に会ってみたいものだな」
「殿下とのお茶会…?」
不機嫌そうな兄の言葉に、ロゼは首を傾げた。
「どうしても殿下が君に会いたいと言うんだよ」
帰宅したフェールと共に屋敷を訪れたオリエンスが代わりに答えた。
「でも私はまだ…王宮になんて行けません」
ロゼがこの世界に戻ってから二十日あまりが経っていた。
五歳からの十三年間を庶民として、しかも異世界で暮らしていたロゼは、当然公爵令嬢としての立ち振る舞いを知らず、母親に教育を受けている最中だった。
ずっと療養していたという事にしているからダンスなどは後回しにしているが、基本的なテーブルマナーや言葉遣いもあやふやで、とても王子様の前に出る自信はない。
「身体が弱くて淑女教育もままならなかったと伝えたんだけどね、そんな事はどうでもいいからと譲らなくて」
実際、あまりそういう事は気にしない人だからとオリエンスは言った。
ロゼが知る王太子ユークはゲーム画面の中の姿だけれど、確かに貴族令嬢らしからぬヒロインの振る舞いにも不快になる事はなかったと思う。
———そういえば、王宮には〝ヒロイン〟はいるのだろうか。
ロゼはゲームの事を思い出した。
こうやって攻略対象が三人いるという事は、あとの二人もいるのだろうし、ヒロインがいる可能性もある。
そしてもしも彼女がフェールを選んだならば…やがて自分の義姉になるのだろうか。
「立ち振る舞いにはうるさくないが、いつ何を要求されるか分からないからな」
ロゼがゲームの事に思いを馳せているとフェールがため息をついた。
「要求?」
「殿下は我儘でね、思い通りにならないとすぐ機嫌が悪くなるんだ」
首を傾げたロゼにオリエンスが答えた。
「お前が甘やかすからだろう」
フェールはオリエンスを睨みつけた。
「だから殿下も付け上がるんだ」
「本当に無理な事や理不尽な事は言わないよ。———ああ、それと」
オリエンスは兄妹を見た。
「王宮に行くなら、ロゼをランドにも会わせた方がいいと思うんだが」
「ランドに?何故」
フェールは眉をひそめた。
「ロゼが戻ってこれた理由や今は魔力がない事も、彼なら分かるかもしれないだろう」
「ランド…様?」
「フラーウム公爵家の当主で、魔力の事に詳しいんだ」
ああ、やはり攻略対象の…。
ロゼは心の中で頷いた。
確か攻略対象の中では一番歳上、二十七歳にして既に公爵となっている、学者タイプの人だった。
ゲームでオリエンスの後、彼を攻略しようと始めて…少し進めた所でこの世界に戻ってきたのだ。
「そんな事知らなくともいいだろう」
「だが原因が分からないとまた同じ事が起きるかもしれない」
オリエンスの言葉にフェールはその顔を強張らせた。
「またロゼが別の世界に飛ばされる…その可能性もあるだろう」
「あ…」
ロゼは息を飲んだ。
ロゼの魔力はなくなっていたが、近くにいる時はフェールとの共鳴は続いているようだった。
———つまり、またあの時と同じ事が繰り返されるかもしれないのだ。
「ロゼについてフラーウム家に相談した事はないのか?」
「…先代の公爵に何度か見てもらっている。今の当主に受け継がれているかは分からないが」
フェールはそう言うとため息をついた。
「———確かに、ランドに会った方がいいのかもしれないが…」
「が?」
「ロゼを他の男に会わせたくない」
オリエンスとロゼは思わず顔を見合わせた。
「王宮などに行ったら男共の目に晒される。変な奴に捕まったらどうする」
「———ノワール公爵令嬢に手を出す奴もそうはいないと思うが」
そう言って、オリエンスは思案するように首を捻った。
「そうか…五家の中で未婚の娘はロゼだけか。きっとお披露目後に婚姻の申し込みが殺到するだろうな」
「お披露目……」
「聞いていないかい」
「…聞いてはいますけど…」
貴族の子息は成人した時にお披露目パーティを開く事になっていると両親から聞かされていた。
本来ならば十五歳の誕生日に行う事が多いが、ロゼはまず貴族令嬢としての教育を終えなければお披露目などできない。
だからまだ先の話だと思っていたし、それに結婚など…大学一年生の雫からすればまだまだ先の感覚だ。
「ロゼは嫁になど出さないぞ」
フェールはロゼを抱き寄せた。
「そういう訳にもいかないだろう」
「身体が弱くて結婚など無理だという事にしておけばいい」
「…兄馬鹿か」
「何とでも言え」
———確かに変わったな。
人前だという事を気にすることもなくロゼを抱きしめその頭にキスを落とすフェールに、オリエンスは苦笑した。
一度は失った妹が戻ってきたのだから仕方ないのかもしれないが…
いつも無表情な顔ばかり見てきたせいで、ロゼに向ける甘い顔と態度に違和感が拭えない。
「…まあともかく。殿下のお茶会には出てもらうから」
オリエンスは封筒を取り出すとロゼに差し出した。
「これは?」
「招待状だ。三日後だから準備をよろしく」
「え…三日?!」
「ごめんね、それ以上は引き延ばせなかったんだ」
笑顔でオリエンスは言った。
書類に向き合っていたオリエンスは王太子ユークの言葉に顔を上げた。
「ああ…そうですね」
氷の宰相との渾名が付けられるほど冷酷だと評判の、宰相補佐を務めるフェール・ノワールだが、最近はその表情やあたりも柔らかくなり笑顔を見せる事もある。
そして、元々見目は良いと評判だったが、その変化のお陰で王宮や貴族の女性達からの人気が高まっているのだという。
「妹のおかげでしょうか」
「ずっと領地で療養していたそうだな」
フェールの変化と共に、それまで存在を知られていなかった彼の妹が最近領地から王都の屋敷に出てきたという噂も流れるようになっていた。
そしてその妹の存在がフェールが柔らかくなった理由だと。
「ノワール公爵に娘がいたなど知らなかったぞ」
「これまで身体が弱くて外に出られなかったので、彼女の負担を減らすために存在は公にしていなかったとか」
長く行方不明だったとはいえ、五歳までロゼはこの世界で生きていた。
それなのにその存在をノワール家以外の者が知らなかった事を疑問に思い、オリエンスは公爵に尋ねてみたらそう返された。
成長して社交がこなせる身体になってからその存在を披露するつもりだったのだという。
「本当に妹なのか?」
「本当ですよ。ロゼ嬢はフェールにそっくりですし」
「お前は会ったことがあるのか」
オリエンスの言葉にユークは片眉を上げた。
「あ…ええ」
しまったという風に視線をそらせたオリエンスを緑色の瞳がじっと見つめる。
「公爵家の人間を私が知らないというのもおかしな話じゃないか、オリエンス」
視線を戻したオリエンスに、ユークは口角を上げた。
「是非そのロゼ嬢に会ってみたいものだな」
「殿下とのお茶会…?」
不機嫌そうな兄の言葉に、ロゼは首を傾げた。
「どうしても殿下が君に会いたいと言うんだよ」
帰宅したフェールと共に屋敷を訪れたオリエンスが代わりに答えた。
「でも私はまだ…王宮になんて行けません」
ロゼがこの世界に戻ってから二十日あまりが経っていた。
五歳からの十三年間を庶民として、しかも異世界で暮らしていたロゼは、当然公爵令嬢としての立ち振る舞いを知らず、母親に教育を受けている最中だった。
ずっと療養していたという事にしているからダンスなどは後回しにしているが、基本的なテーブルマナーや言葉遣いもあやふやで、とても王子様の前に出る自信はない。
「身体が弱くて淑女教育もままならなかったと伝えたんだけどね、そんな事はどうでもいいからと譲らなくて」
実際、あまりそういう事は気にしない人だからとオリエンスは言った。
ロゼが知る王太子ユークはゲーム画面の中の姿だけれど、確かに貴族令嬢らしからぬヒロインの振る舞いにも不快になる事はなかったと思う。
———そういえば、王宮には〝ヒロイン〟はいるのだろうか。
ロゼはゲームの事を思い出した。
こうやって攻略対象が三人いるという事は、あとの二人もいるのだろうし、ヒロインがいる可能性もある。
そしてもしも彼女がフェールを選んだならば…やがて自分の義姉になるのだろうか。
「立ち振る舞いにはうるさくないが、いつ何を要求されるか分からないからな」
ロゼがゲームの事に思いを馳せているとフェールがため息をついた。
「要求?」
「殿下は我儘でね、思い通りにならないとすぐ機嫌が悪くなるんだ」
首を傾げたロゼにオリエンスが答えた。
「お前が甘やかすからだろう」
フェールはオリエンスを睨みつけた。
「だから殿下も付け上がるんだ」
「本当に無理な事や理不尽な事は言わないよ。———ああ、それと」
オリエンスは兄妹を見た。
「王宮に行くなら、ロゼをランドにも会わせた方がいいと思うんだが」
「ランドに?何故」
フェールは眉をひそめた。
「ロゼが戻ってこれた理由や今は魔力がない事も、彼なら分かるかもしれないだろう」
「ランド…様?」
「フラーウム公爵家の当主で、魔力の事に詳しいんだ」
ああ、やはり攻略対象の…。
ロゼは心の中で頷いた。
確か攻略対象の中では一番歳上、二十七歳にして既に公爵となっている、学者タイプの人だった。
ゲームでオリエンスの後、彼を攻略しようと始めて…少し進めた所でこの世界に戻ってきたのだ。
「そんな事知らなくともいいだろう」
「だが原因が分からないとまた同じ事が起きるかもしれない」
オリエンスの言葉にフェールはその顔を強張らせた。
「またロゼが別の世界に飛ばされる…その可能性もあるだろう」
「あ…」
ロゼは息を飲んだ。
ロゼの魔力はなくなっていたが、近くにいる時はフェールとの共鳴は続いているようだった。
———つまり、またあの時と同じ事が繰り返されるかもしれないのだ。
「ロゼについてフラーウム家に相談した事はないのか?」
「…先代の公爵に何度か見てもらっている。今の当主に受け継がれているかは分からないが」
フェールはそう言うとため息をついた。
「———確かに、ランドに会った方がいいのかもしれないが…」
「が?」
「ロゼを他の男に会わせたくない」
オリエンスとロゼは思わず顔を見合わせた。
「王宮などに行ったら男共の目に晒される。変な奴に捕まったらどうする」
「———ノワール公爵令嬢に手を出す奴もそうはいないと思うが」
そう言って、オリエンスは思案するように首を捻った。
「そうか…五家の中で未婚の娘はロゼだけか。きっとお披露目後に婚姻の申し込みが殺到するだろうな」
「お披露目……」
「聞いていないかい」
「…聞いてはいますけど…」
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いつも無表情な顔ばかり見てきたせいで、ロゼに向ける甘い顔と態度に違和感が拭えない。
「…まあともかく。殿下のお茶会には出てもらうから」
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