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第7章 月の女神と光の乙女
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ロゼの瞳から涙が溢れた。
『ロゼ…泣いているの?』
ふわりと光がロゼの側へやってくる。
『帰れなかった王妃のために泣いてくれるの?』
「違う…」
ロゼは首を振った。
「セレネが…可哀想…」
『私?』
魔女と蔑まれ封印され。
数百年もの間孤独に眠り続けていたのに。
それでも国の為にその力を使い…その為に犠牲になった者たちを悲しみ、己の力のなさを嘆き、また孤独に眠り続けていたのだ。
セレネの過去の記憶に触れたロゼには、あれだけの事をされたセレネがどうしてこれほどまでその子孫たちの事を気にかけられるのか不思議だった。
ヴァイスが言っていたように寛容なのか、それとも…
『私はね…寂しかったの』
ロゼの心を読んだかのようにセレネは言った。
「寂しい…」
『封印された後は誰も私を見てくれない、存在すらやがて忘れられてしまった。それなのに…肉体が朽ちてもまだ私の心は生きている。この魂を消す事も出来ず…ずっとひとりだった。だから頼られた事が嬉しかったの』
くるりとロゼの周りを光が一周した。
『でもそれもほんの一時の間。カレンを死なせてしまったせいでまた私はひとり…あの子だけが私の声を聞くことができたのに。私は…自分の欲のせいであの子を殺してしまったの』
「そんな事は…!」
『そしてね、ロゼ』
光はロゼの目の前で止まった。
『あなたが苦しい思いをするのも…私のせいなの』
長い眠りから目覚めたセレネは自分がいるのが湖ではない事に気づいた。
そこは白い空間だった。
何もないけれど…かすかに人の気配を感じた。
「ロゼ…ロゼ!」
「ああ可哀想に…」
「ロゼ…死んじゃやだ!」
外から声が聞こえる。
ここは…どこだろう。彼らは一体…
セレネは外へと意識を向けた。
ロゼという、生まれたばかりのノワール家の娘の中にセレネはいるようだった。
ロゼは魔力が高すぎて小さすぎる身体では耐えられず、瀕死の状態にあるらしい。
———自分のせい?
自分が…こんな幼い子の中に入ってしまったから。
どうしてここにいるのか分からなかった。
けれどロゼの魔力はセレネの魔力とそっくりで、引き寄せられてしまったようだ。
セレネがいるせいでロゼの魔力は増強されてしまい…このままではロゼは耐えきれずに死んでしまうだろう。
それはダメだ。
カレンだけでなく…こんな生まれたばかりの子まで殺してしまうのは。
セレネは必死に自身の魔力を抑えた。
すっかり回復したどころか、以前より強くなってしまった魔力を抑えるのは大変だったが、やがてロゼの身体も落ち着いてきた。
ロゼは家族に愛されていた。
そして苦しみながらもロゼも家族へ愛を返していた。
———ああ、愛されるという事はこんなにも幸せだったのか。
ロゼから伝わる感情によって、セレネも忘れていた幸福感を思い出していた。
だがロゼが五歳になった時にその事故は起きた。
それは偶然にもセレネが眠りについていた湖のほとりだった。
ロゼと兄フェール、そしてセレネ。
共鳴しあった三人の魔力が暴発し———ロゼは異世界へと飛ばされてしまった。
そこは文化の全く違う、不思議な世界だった。
魔力の存在しない世界で、そのせいかロゼの魔力も消えていた。
…このままこの世界にいれば、ロゼは健康的に生きられるのだろうか。
ふとセレネの脳裏に異世界から来た王妃の姿がよぎった。
自分の世界に帰りたい、家族に会いたいと泣いていた王妃。
そして家族に愛され、愛していたロゼ。
———ロゼも家に帰りたいと泣くだろう。
けれど元の世界に戻れば…また身体の弱いロゼに戻ってしまう。
迷ったセレネはロゼの記憶を封印した。
新しいロゼの家族は、雫と名付けたロゼを実の娘のように可愛がり、ロゼも健康的な身体で楽しそうに駆けずりまわっていた。
このままこの世界で幸せになれればいいのに。
そうセレネは願ったが、ロゼは時々、寂しげにどこか遠くを見つめていた。
その先にあるものは…失った幸せな記憶だろうか。
「雫ちゃんの目、とってもキレイ!」
八歳のロゼの前に現れたその少女の気配は———かつての王妃にとてもよく似ていた。
すぐにロゼと親しくなった、ひかりという名の少女。
ああ…もしかしたら彼女ならば、ロゼを救えるかもしれない。
『そう思って…私は計画を立てたの』
「計画?」
『ロゼを元の世界に帰す事はいつでも出来たの。でもロゼの魔力を安定させる事は私には出来なかった…だから彼女、ひかりの力を借りる為の計画を』
十年かけて、魔力で二つの世界を繋いだ。
糸を絡めるように時間と空間を繋ぎ———向こうの世界の情報を、こちらの世界に存在するゲームの中へ流した。
そうしてひかりをルーチェとして過去に転生させ、ロゼを元の世界へ戻して再会させた。
『ルーチェの魔力があればロゼの魔力を安定させる事ができる…そう思ったし上手くいっていたけれど…あの男のせいでこんな事になってしまったの』
「こんな事って…私が魔力を暴発させた事?」
ロゼは改めて周囲を見渡した。
「ここは…私の心の中よね」
『ええ…正確には違うけれど』
「違う?」
『ここはあなたの中にある、私の魂の中。魔力が暴発した衝撃であなたの魂がここへ飛ばされたの』
「そうだったの…」
頷いて、それからロゼは首を傾げた。
「セレネは…ここから出られないの?」
『ええ…私たちの魔力は深く結びついているみたい』
光がまるで困っているように揺れた。
『———辛い思いを沢山させたのに…別の魂が心の中にいるなんて気持ち悪いでしょう。本当にごめんなさい』
「……いいえ…もしかして今までこうやって話をした事がなかったのも?」
『私の存在を知ったら辛いでしょう?』
「セレネ…あなたは本当に優しいのね」
ロゼは光へと手を伸ばした。
「私の中に別の人がいるのは変な感じだけれど…これまで私のために色々してくれたのでしょう。気持ち悪くなんてないし、感謝しているわ」
『ロゼ…』
「これからも、よろしくね」
『ありがとうロゼ…でもそろそろお別れなの』
「…え?」
『あなたやひかりをこの世界へ連れてくるのに魔力を沢山使ったわ。そろそろまた眠りにつく頃ね』
「それは…」
またセレネは、たった一人で何十年も、何百年も湖の中で眠るという事だろうか。
『あなたを通じてこの世界と向こうの世界で沢山の経験ができてとても幸せだったの。だからもう寂しくはないわ』
ロゼの気持ちを察したのかセレネはそう言った。
『でも眠りにつく前に…もう一つやらないとならない事があるの』
『ロゼ…泣いているの?』
ふわりと光がロゼの側へやってくる。
『帰れなかった王妃のために泣いてくれるの?』
「違う…」
ロゼは首を振った。
「セレネが…可哀想…」
『私?』
魔女と蔑まれ封印され。
数百年もの間孤独に眠り続けていたのに。
それでも国の為にその力を使い…その為に犠牲になった者たちを悲しみ、己の力のなさを嘆き、また孤独に眠り続けていたのだ。
セレネの過去の記憶に触れたロゼには、あれだけの事をされたセレネがどうしてこれほどまでその子孫たちの事を気にかけられるのか不思議だった。
ヴァイスが言っていたように寛容なのか、それとも…
『私はね…寂しかったの』
ロゼの心を読んだかのようにセレネは言った。
「寂しい…」
『封印された後は誰も私を見てくれない、存在すらやがて忘れられてしまった。それなのに…肉体が朽ちてもまだ私の心は生きている。この魂を消す事も出来ず…ずっとひとりだった。だから頼られた事が嬉しかったの』
くるりとロゼの周りを光が一周した。
『でもそれもほんの一時の間。カレンを死なせてしまったせいでまた私はひとり…あの子だけが私の声を聞くことができたのに。私は…自分の欲のせいであの子を殺してしまったの』
「そんな事は…!」
『そしてね、ロゼ』
光はロゼの目の前で止まった。
『あなたが苦しい思いをするのも…私のせいなの』
長い眠りから目覚めたセレネは自分がいるのが湖ではない事に気づいた。
そこは白い空間だった。
何もないけれど…かすかに人の気配を感じた。
「ロゼ…ロゼ!」
「ああ可哀想に…」
「ロゼ…死んじゃやだ!」
外から声が聞こえる。
ここは…どこだろう。彼らは一体…
セレネは外へと意識を向けた。
ロゼという、生まれたばかりのノワール家の娘の中にセレネはいるようだった。
ロゼは魔力が高すぎて小さすぎる身体では耐えられず、瀕死の状態にあるらしい。
———自分のせい?
自分が…こんな幼い子の中に入ってしまったから。
どうしてここにいるのか分からなかった。
けれどロゼの魔力はセレネの魔力とそっくりで、引き寄せられてしまったようだ。
セレネがいるせいでロゼの魔力は増強されてしまい…このままではロゼは耐えきれずに死んでしまうだろう。
それはダメだ。
カレンだけでなく…こんな生まれたばかりの子まで殺してしまうのは。
セレネは必死に自身の魔力を抑えた。
すっかり回復したどころか、以前より強くなってしまった魔力を抑えるのは大変だったが、やがてロゼの身体も落ち着いてきた。
ロゼは家族に愛されていた。
そして苦しみながらもロゼも家族へ愛を返していた。
———ああ、愛されるという事はこんなにも幸せだったのか。
ロゼから伝わる感情によって、セレネも忘れていた幸福感を思い出していた。
だがロゼが五歳になった時にその事故は起きた。
それは偶然にもセレネが眠りについていた湖のほとりだった。
ロゼと兄フェール、そしてセレネ。
共鳴しあった三人の魔力が暴発し———ロゼは異世界へと飛ばされてしまった。
そこは文化の全く違う、不思議な世界だった。
魔力の存在しない世界で、そのせいかロゼの魔力も消えていた。
…このままこの世界にいれば、ロゼは健康的に生きられるのだろうか。
ふとセレネの脳裏に異世界から来た王妃の姿がよぎった。
自分の世界に帰りたい、家族に会いたいと泣いていた王妃。
そして家族に愛され、愛していたロゼ。
———ロゼも家に帰りたいと泣くだろう。
けれど元の世界に戻れば…また身体の弱いロゼに戻ってしまう。
迷ったセレネはロゼの記憶を封印した。
新しいロゼの家族は、雫と名付けたロゼを実の娘のように可愛がり、ロゼも健康的な身体で楽しそうに駆けずりまわっていた。
このままこの世界で幸せになれればいいのに。
そうセレネは願ったが、ロゼは時々、寂しげにどこか遠くを見つめていた。
その先にあるものは…失った幸せな記憶だろうか。
「雫ちゃんの目、とってもキレイ!」
八歳のロゼの前に現れたその少女の気配は———かつての王妃にとてもよく似ていた。
すぐにロゼと親しくなった、ひかりという名の少女。
ああ…もしかしたら彼女ならば、ロゼを救えるかもしれない。
『そう思って…私は計画を立てたの』
「計画?」
『ロゼを元の世界に帰す事はいつでも出来たの。でもロゼの魔力を安定させる事は私には出来なかった…だから彼女、ひかりの力を借りる為の計画を』
十年かけて、魔力で二つの世界を繋いだ。
糸を絡めるように時間と空間を繋ぎ———向こうの世界の情報を、こちらの世界に存在するゲームの中へ流した。
そうしてひかりをルーチェとして過去に転生させ、ロゼを元の世界へ戻して再会させた。
『ルーチェの魔力があればロゼの魔力を安定させる事ができる…そう思ったし上手くいっていたけれど…あの男のせいでこんな事になってしまったの』
「こんな事って…私が魔力を暴発させた事?」
ロゼは改めて周囲を見渡した。
「ここは…私の心の中よね」
『ええ…正確には違うけれど』
「違う?」
『ここはあなたの中にある、私の魂の中。魔力が暴発した衝撃であなたの魂がここへ飛ばされたの』
「そうだったの…」
頷いて、それからロゼは首を傾げた。
「セレネは…ここから出られないの?」
『ええ…私たちの魔力は深く結びついているみたい』
光がまるで困っているように揺れた。
『———辛い思いを沢山させたのに…別の魂が心の中にいるなんて気持ち悪いでしょう。本当にごめんなさい』
「……いいえ…もしかして今までこうやって話をした事がなかったのも?」
『私の存在を知ったら辛いでしょう?』
「セレネ…あなたは本当に優しいのね」
ロゼは光へと手を伸ばした。
「私の中に別の人がいるのは変な感じだけれど…これまで私のために色々してくれたのでしょう。気持ち悪くなんてないし、感謝しているわ」
『ロゼ…』
「これからも、よろしくね」
『ありがとうロゼ…でもそろそろお別れなの』
「…え?」
『あなたやひかりをこの世界へ連れてくるのに魔力を沢山使ったわ。そろそろまた眠りにつく頃ね』
「それは…」
またセレネは、たった一人で何十年も、何百年も湖の中で眠るという事だろうか。
『あなたを通じてこの世界と向こうの世界で沢山の経験ができてとても幸せだったの。だからもう寂しくはないわ』
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