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火の章
3
「ここまでくればいいかな」
アリアを抱き上げたまま、ルキウスは庭園の中を歩いていた。
夜の庭園は静かで、ただルキウスの足音だけが響いていた。
「…あの…もう下ろして頂いても……」
「もう少し。この先に休憩できる所があるから」
中ほどにある東屋まで来ると、ようやくアリアを下ろしベンチへ座らせ、ルキウスはその隣へ腰を下ろした。
「まだ名前を聞いていなかった」
「あ…アリア・ガーランドと申します」
「ガーランド…東の辺境伯の」
「はい」
「私はルキウス・ローランド・ルースウッドだ」
鮮やかな翠色の瞳が、アリアの顔を間近で見つめた。
「ウィリアムと一緒にいたけれど、彼とはどういう関係?」
「…ウィリアム様は、私の姉の夫です」
「———義妹か」
ルキウスはふっと息を吐いた。
「もっと早くに連れてくればよかったのに」
そう言うと、アリアの白くて小さな手を握りしめる。
「君に決めた」
「え…?」
「———アリアがいい」
掴んだ手を引き寄せると、その甲に口づけを落とした。
「あ……」
思わず手を離そうとするアリアを掴む手に力を込めると、ぐいと身体を抱き寄せ、白い額へ唇を押し当てた。
腕の中の華奢な身体が強張るのも構わず、こめかみ、頬…と口づけを重ねていく。
「ルキ———」
「…!」
唇がアリアのそれに触れそうになった瞬間、強く赤い光がルキウスを包み込んだ。
『———何をやっているんだお前は』
二人の前にいつの間にかルキウスよりも赤い———燃えるような髪色と、同じ色の瞳を持った青年が立っていた。
「サラマンダー……」
『まったく。ガキが』
呆れたように大袈裟にため息をつくと、赤い青年はアリアに手を差し出した。
『大丈夫かい、アリア。こっちにおいで』
「ええ…ありがとう、サラマンダー」
「…え?知り合い…?」
『この子は風の加護付きだよ』
手を取ったアリアを引き寄せ、立ち上がらせると火の精霊サラマンダーはルキウスを見下ろした。
「風の?」
『シルフから王都にいる間は代わりに護って欲しいと頼まれているんだ。お前が王子じゃなかったらその頭を燃やしていたぞ』
「———そんなに怒るような事じゃないだろう」
ルキウスは拗ねたように頬を膨らませた。
『お前、アリアに何をしようとしたか分かっているのか』
「愛情表現だ」
『一方的に襲う事の何が愛情だ』
「やっと見つけたんだ!アリアは私の妃になるんだ、キスくらい…」
『ルキウス』
再び赤い光がルキウスを包み込むと、その身体が崩れ落ちた。
「殿下…!」
アリアは慌ててルキウスの側に寄った。
『少し眠らせただけだ』
「…ここまでしなくても…」
『彼は平静さを欠いているね』
見上げたアリアに、サラマンダーは言った。
『君の存在がずいぶん刺激を与えてしまったようだ』
「刺激?」
『君自身なのか、君の中の風の力なのか———それは分からないけれど』
「…私の事……妃って…」
アリアは眠るルキウスに視線を落とした。
「ルキウス殿下は…〝あの時〟の子ですよね」
『ああ』
「私は———」
「殿下!」
ブライアンが駆け込んできた。
「今の赤い光は…」
「サラマンダー様?!」
遅れてウィリアムとオスカーが息を切らしながら現れた。
『王子の目付役か』
サラマンダーは三人を振り返った。
『少し暴走していたからな。目を覚ましたらしっかり説教しておけ』
「はっ…」
『アリアは私の加護付きではないが、我らにとっても大事な娘だ。そのつもりで扱え』
「———はっ」
三人が深く頭を下げるのを見、サラマンダーはアリアに向いた。
『アリア。私の加護付きが迷惑をかけたね』
「いえ…」
『普段はもっと穏やかな奴だから。今日の事は許してやって欲しい』
「…はい」
サラマンダーの言葉に、アリアは笑みを浮かべて頷いた。
アリアを抱き上げたまま、ルキウスは庭園の中を歩いていた。
夜の庭園は静かで、ただルキウスの足音だけが響いていた。
「…あの…もう下ろして頂いても……」
「もう少し。この先に休憩できる所があるから」
中ほどにある東屋まで来ると、ようやくアリアを下ろしベンチへ座らせ、ルキウスはその隣へ腰を下ろした。
「まだ名前を聞いていなかった」
「あ…アリア・ガーランドと申します」
「ガーランド…東の辺境伯の」
「はい」
「私はルキウス・ローランド・ルースウッドだ」
鮮やかな翠色の瞳が、アリアの顔を間近で見つめた。
「ウィリアムと一緒にいたけれど、彼とはどういう関係?」
「…ウィリアム様は、私の姉の夫です」
「———義妹か」
ルキウスはふっと息を吐いた。
「もっと早くに連れてくればよかったのに」
そう言うと、アリアの白くて小さな手を握りしめる。
「君に決めた」
「え…?」
「———アリアがいい」
掴んだ手を引き寄せると、その甲に口づけを落とした。
「あ……」
思わず手を離そうとするアリアを掴む手に力を込めると、ぐいと身体を抱き寄せ、白い額へ唇を押し当てた。
腕の中の華奢な身体が強張るのも構わず、こめかみ、頬…と口づけを重ねていく。
「ルキ———」
「…!」
唇がアリアのそれに触れそうになった瞬間、強く赤い光がルキウスを包み込んだ。
『———何をやっているんだお前は』
二人の前にいつの間にかルキウスよりも赤い———燃えるような髪色と、同じ色の瞳を持った青年が立っていた。
「サラマンダー……」
『まったく。ガキが』
呆れたように大袈裟にため息をつくと、赤い青年はアリアに手を差し出した。
『大丈夫かい、アリア。こっちにおいで』
「ええ…ありがとう、サラマンダー」
「…え?知り合い…?」
『この子は風の加護付きだよ』
手を取ったアリアを引き寄せ、立ち上がらせると火の精霊サラマンダーはルキウスを見下ろした。
「風の?」
『シルフから王都にいる間は代わりに護って欲しいと頼まれているんだ。お前が王子じゃなかったらその頭を燃やしていたぞ』
「———そんなに怒るような事じゃないだろう」
ルキウスは拗ねたように頬を膨らませた。
『お前、アリアに何をしようとしたか分かっているのか』
「愛情表現だ」
『一方的に襲う事の何が愛情だ』
「やっと見つけたんだ!アリアは私の妃になるんだ、キスくらい…」
『ルキウス』
再び赤い光がルキウスを包み込むと、その身体が崩れ落ちた。
「殿下…!」
アリアは慌ててルキウスの側に寄った。
『少し眠らせただけだ』
「…ここまでしなくても…」
『彼は平静さを欠いているね』
見上げたアリアに、サラマンダーは言った。
『君の存在がずいぶん刺激を与えてしまったようだ』
「刺激?」
『君自身なのか、君の中の風の力なのか———それは分からないけれど』
「…私の事……妃って…」
アリアは眠るルキウスに視線を落とした。
「ルキウス殿下は…〝あの時〟の子ですよね」
『ああ』
「私は———」
「殿下!」
ブライアンが駆け込んできた。
「今の赤い光は…」
「サラマンダー様?!」
遅れてウィリアムとオスカーが息を切らしながら現れた。
『王子の目付役か』
サラマンダーは三人を振り返った。
『少し暴走していたからな。目を覚ましたらしっかり説教しておけ』
「はっ…」
『アリアは私の加護付きではないが、我らにとっても大事な娘だ。そのつもりで扱え』
「———はっ」
三人が深く頭を下げるのを見、サラマンダーはアリアに向いた。
『アリア。私の加護付きが迷惑をかけたね』
「いえ…」
『普段はもっと穏やかな奴だから。今日の事は許してやって欲しい』
「…はい」
サラマンダーの言葉に、アリアは笑みを浮かべて頷いた。
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