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火の章
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「アリア!」
姿を見るなりルキウスが駆け寄ってきた。
「ルキウス殿下」
「良かった———会ってもらえなかったらどうしようと思っていた」
淑女の礼を取るより早く、ルキウスはアリアの手を取り、握りしめた。
「アリア。夜会の時は本当にごめん。不快な思いをしただろう」
「…いえ、大丈夫です」
ルキウスを見上げてアリアは笑みを浮かべた。
「丁寧なお手紙、ありがとうございました」
「アリア…」
「殿下」
思わずアリアを抱き寄せようと肩に手を掛けた所でオスカーの鋭い声が響いた。
「———テラスに席を用意したんだ。来て」
オスカーをちらと見て軽く息をつくと、アリアに手を添えたままルキウスはテラスへとエスコートした。
「本当は二人きりで会いたかったんだけど、周りが許してくれなくてね」
大きなパラソルの下、ティーセットの並べられたテーブルを挟んで二人は座った。
やや離れた場所には何人かの侍女や男達がいて、こちらの様子を伺っている。
「何故ですか?」
「夜会の時みたいに、私が君に何かしでかすんじゃないかと警戒されているんだ」
「———殿下は普段は穏やかな方だとサラマンダーから聞きました」
「…自制できているとは思っているけれど、君の事になると駄目みたいだ」
ルキウスの瞳が真っ直ぐにアリアを見つめる。
「今も…君に触れたくて仕方がない」
「…私……殿下の事、何も知りません」
強い翠色の視線から逸らす事も出来ず、ルキウスを見つめ返してアリアは言った。
「殿下もですよね?それなのにどうして…」
「確かにアリアの事は何も知らない。だけど初めて君を見た時、見つけたと思ったんだ。〝光〟をね」
「光…?」
「私には忘れられない〝光〟があるんだ」
すっと翠色の瞳が細められた。
「十年以上前、山道を馬車で移動していた時に突然馬が暴れて、外に投げ出されたんだ。ずいぶん遠くまで落ちたみたいで…森の中で全身傷だらけになって、もう死ぬんだと思った時に、歌が聞こえたんだ」
「金色の髪に、金色の瞳の…とても綺麗な女の人だった。光に包まれていて…あれは多分、精霊だったんだと思う。———あの光景がずっと忘れられないんだ」
立ち上がると、ルキウスは席を移動しアリアの隣へ座った。
「君にも〝光〟を感じるんだ。あの時見た光は近寄りがたい雰囲気だったけど……君は、ずっと触れていたくなる、優しい光だ」
ルキウスはアリアの手をそっと取った。
「アリア。私の側にいて欲しい。こうやっていつでも君に触れられるように」
「殿下……」
「———すぐに受け入れてくれなくていいから」
アリアを見つめてそう言うと、ルキウスは白い手の甲に恭しく口づけを落とした。
「光、か……」
夜。
部屋のソファに蹲るように座り、アリアは呟いた。
その声に反応するように、ふいに赤い光が現れた。
小さな光は大きくなり、やがて人の形を取った。
「サラマンダー」
アリアは目の前に立ったサラマンダーを見上げた。
『やあアリア。ルキウスはどうだった?』
「どうって…」
『彼は随分と君に惚れ込んでいるようだけど、君はどうなんだい』
「私…そういうのはよく分からないの」
『でも彼と結婚するのだろう?城の連中はもうそのつもりで動いているよ』
「———それは出来ないわ」
『何故?』
「昼間の話、聞いていたでしょう?…殿下に見られていたわ」
『ああ。あの時の事は一度も口にした事がなかったから、何も見なかったし覚えていないと思っていたんだがな』
サラマンダーは腕を組むとため息をついた。
『あんなにはっきりと見ていたとはね』
「見られたのに…結婚なんて出来ないわ」
『大丈夫。ルキウスはあの森で会ったのがアリアだという事には気付いていない』
サラマンダーはぽんとアリアの頭に手を乗せた。
『ルキウスが昔見たのは精霊。君は人間。別物だ』
「でも……いつか気付くかも」
『君が人間でい続ければバレないよ』
くしゃくしゃと、子供をあやすようにサラマンダーはアリアの頭を撫でた。
「…サラマンダーは…私が人間でいる事を望むの?」
『人間であれば、あの森から出られるだろう?城の精霊は皆君に城に入って欲しいと思っているよ』
「でも…シルフが……」
『あれに囚われる事はない』
サラマンダーはアリアを撫でる手を止めた。
『君は精霊の愛し子。君を護るのは風の精霊だけじゃない。君がどこにいても、誰かが護るから。だから安心して王家にお嫁においで』
笑顔でそう言うと、サラマンダーはもう一度アリアの頭を撫でた。
姿を見るなりルキウスが駆け寄ってきた。
「ルキウス殿下」
「良かった———会ってもらえなかったらどうしようと思っていた」
淑女の礼を取るより早く、ルキウスはアリアの手を取り、握りしめた。
「アリア。夜会の時は本当にごめん。不快な思いをしただろう」
「…いえ、大丈夫です」
ルキウスを見上げてアリアは笑みを浮かべた。
「丁寧なお手紙、ありがとうございました」
「アリア…」
「殿下」
思わずアリアを抱き寄せようと肩に手を掛けた所でオスカーの鋭い声が響いた。
「———テラスに席を用意したんだ。来て」
オスカーをちらと見て軽く息をつくと、アリアに手を添えたままルキウスはテラスへとエスコートした。
「本当は二人きりで会いたかったんだけど、周りが許してくれなくてね」
大きなパラソルの下、ティーセットの並べられたテーブルを挟んで二人は座った。
やや離れた場所には何人かの侍女や男達がいて、こちらの様子を伺っている。
「何故ですか?」
「夜会の時みたいに、私が君に何かしでかすんじゃないかと警戒されているんだ」
「———殿下は普段は穏やかな方だとサラマンダーから聞きました」
「…自制できているとは思っているけれど、君の事になると駄目みたいだ」
ルキウスの瞳が真っ直ぐにアリアを見つめる。
「今も…君に触れたくて仕方がない」
「…私……殿下の事、何も知りません」
強い翠色の視線から逸らす事も出来ず、ルキウスを見つめ返してアリアは言った。
「殿下もですよね?それなのにどうして…」
「確かにアリアの事は何も知らない。だけど初めて君を見た時、見つけたと思ったんだ。〝光〟をね」
「光…?」
「私には忘れられない〝光〟があるんだ」
すっと翠色の瞳が細められた。
「十年以上前、山道を馬車で移動していた時に突然馬が暴れて、外に投げ出されたんだ。ずいぶん遠くまで落ちたみたいで…森の中で全身傷だらけになって、もう死ぬんだと思った時に、歌が聞こえたんだ」
「金色の髪に、金色の瞳の…とても綺麗な女の人だった。光に包まれていて…あれは多分、精霊だったんだと思う。———あの光景がずっと忘れられないんだ」
立ち上がると、ルキウスは席を移動しアリアの隣へ座った。
「君にも〝光〟を感じるんだ。あの時見た光は近寄りがたい雰囲気だったけど……君は、ずっと触れていたくなる、優しい光だ」
ルキウスはアリアの手をそっと取った。
「アリア。私の側にいて欲しい。こうやっていつでも君に触れられるように」
「殿下……」
「———すぐに受け入れてくれなくていいから」
アリアを見つめてそう言うと、ルキウスは白い手の甲に恭しく口づけを落とした。
「光、か……」
夜。
部屋のソファに蹲るように座り、アリアは呟いた。
その声に反応するように、ふいに赤い光が現れた。
小さな光は大きくなり、やがて人の形を取った。
「サラマンダー」
アリアは目の前に立ったサラマンダーを見上げた。
『やあアリア。ルキウスはどうだった?』
「どうって…」
『彼は随分と君に惚れ込んでいるようだけど、君はどうなんだい』
「私…そういうのはよく分からないの」
『でも彼と結婚するのだろう?城の連中はもうそのつもりで動いているよ』
「———それは出来ないわ」
『何故?』
「昼間の話、聞いていたでしょう?…殿下に見られていたわ」
『ああ。あの時の事は一度も口にした事がなかったから、何も見なかったし覚えていないと思っていたんだがな』
サラマンダーは腕を組むとため息をついた。
『あんなにはっきりと見ていたとはね』
「見られたのに…結婚なんて出来ないわ」
『大丈夫。ルキウスはあの森で会ったのがアリアだという事には気付いていない』
サラマンダーはぽんとアリアの頭に手を乗せた。
『ルキウスが昔見たのは精霊。君は人間。別物だ』
「でも……いつか気付くかも」
『君が人間でい続ければバレないよ』
くしゃくしゃと、子供をあやすようにサラマンダーはアリアの頭を撫でた。
「…サラマンダーは…私が人間でいる事を望むの?」
『人間であれば、あの森から出られるだろう?城の精霊は皆君に城に入って欲しいと思っているよ』
「でも…シルフが……」
『あれに囚われる事はない』
サラマンダーはアリアを撫でる手を止めた。
『君は精霊の愛し子。君を護るのは風の精霊だけじゃない。君がどこにいても、誰かが護るから。だから安心して王家にお嫁においで』
笑顔でそう言うと、サラマンダーはもう一度アリアの頭を撫でた。
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