風の精霊の愛し子は王子に見染められ人の心を知る

冬野月子

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水の章

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海が見たいと言われ、ウィリアムが案内したのは港が一望できる岬だった。

「綺麗…」
どこまでも広がる青い海に、いくつもの白い船体が太陽の光を反射して輝いていた。
雲一つない空では鳥達が優雅に弧を描いている。
遠くから見ても活気があるのが分かるくらい、港には多くの船が集まっていた。


「向こうに見えるのがシャルリー王国です」
水平線の先の島影を指してウィリアムが説明した。
「意外に近いんだな」
「そうですね。船ならあっという間に着きますし、この海は波も穏やかで交流も盛んです」

「船…」
「乗ってみたい?」
ルキウスはアリアの顔を覗き込んだ。

「いつか船に乗ってあの国へ行ってみようか」
「連れて行ってくれますか?」
「ああ」
アリアと顔を見合わせるとウィリアムはその手を取った。
「あそこまで行ってみよう」


「追わなくていいのか?」
二人が岬の先端の方へ小走りに行くのを眺めるブライアンにウィリアムが尋ねた。
「ここなら視界も開けているし人気もない。周囲に気を配っておけば問題ないだろ」
「警備の事だけじゃなくて…。二人きりにするなと言われているんじゃなかったか」

「俺はそんな野暮な事はしないよ」
ブライアンはにっと口角を上げた。
「いつも誰かが側にいたら仲も進展しないだろ」
「…それは、そうだが」
「オスカー達は過保護すぎるんだ。殿下だって立場はわきまえているだろうし、もう子供じゃない。自力で自制させるのも大事だ」
「しかし…」
「自分の昔を振り返ってみろよ」
そう言うとブライアンはウィリアムの肩を叩いた。
「殿下も初めての恋らしいからな。失敗する事もあるだろうが、まあ、信用してやれよ」

「———そうだな…」
寄り添いながら海を眺めるルキウスとアリアを見ながらウィリアムは呟いた。




岬から戻ってくると、エイダが暗い顔で出迎えた。

「…どうした?」
「クリフ様がいらしたのだけれど…」
「叔父上が?」
「クレイグと揉めていたの」
「———ああ、結婚の件か」
「ええ…それでついさっき、クレイグが出て行ってしまったの」
「叔父上は?」
「まだいらっしゃるわ」
「そうか。会おう」
ウィリアムは急ぎ足で去って行った。

「結婚…?」
「クレイグが全く結婚しようとしないから、クレイグのお父様が独断で相手を決めたのよ」
思わず聞き返したアリアにエイダが説明した。
「もうかなり話が進んでいて取り止められないんですって」
「え…」

「———それは不快な話だな」
隣で話を聞いていたルキウスが実感がこもった声で言った。
「私も散々言われたし、アリアに出会えなければ同じように勝手に相手を決められていたかと思うと…ぞっとしないな」
見上げたアリアと顔を合わせて小さく笑みをもらす。
「望む相手と結婚できるとは限らないし、家の事情もある…難しいな」
「……」
俯くように、アリアは頷いた。



夜になってクレイグは戻ってきたが、アリアと顔を合わせる事はなくそのままウィリアムの部屋に行ってしまった。

クレイグが戻ってすぐに激しい雨が降り始めた。
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