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大事なのは出会いでは無くそこから一歩踏み出すかどうかだ 2
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俺らの関係が急速に深まったのは、桜の花が散ったあたりだったと思う。あの日、伊月は気持ち悪い程にこにこしながら俺に近づいてきた。
「なんだよ、にやにやして」
「俺さあ、新しい部活を作りたいと思うんだよねえ。どう思う?」
「いんじゃねえの、知らねえけど」
「文芸部作ろうと思うんだ、お前と」
「俺も入ってるのかよ」
「当たり前だろ、日向がいなくてどうする」
「そんなラノベみたいに簡単に言うな」
「まあまあ、俺ね、すごい人見つけちゃったんだ。後で紹介するから」
「大体お前、生徒会に入っているんじゃないのかよ」
気づいたら伊月はもうどこかに行っていて、俺の発言だけが虚しく響いた。
俺は昼休み、伊月から二つ隣の教室まで呼び出された。伊月が俺の顔を見ると、一人の女の子を手招きし、俺に近づいてきた。一人の女子も近づいてきた。ショートカットで眼鏡をかけている。
「こんにちは」
これといった特徴の無い女の子だった。身長は百五十センチくらい、体重はわからないけど四十五キロくらいだろうか。小柄な女の子、といった印象しか受けなかった。
「鈴木光(すずきひかる)さん。こいつは、日向(ひゅうが)昇(のぼる)」伊月が俺を紹介する。
「ども」
慌てて頭を下げる。
「初めまして」
気まずい。この女子も、どうやら俺と同じようにあまり社交的では無いらしい。俺らは特に話すことが無くなった。すかさず伊月にアイコンタクト。
「鈴木さん、実は小説を書いているそうなんだ。それも膨大にね。俺は一部見せてもらったんだけど、本当にすごいよ」
伊月が満面の笑みで俺に語り掛ける。若干うざい。
「いえ、そんな」
鈴木さんはマジで困っているみたいに謙遜した。
「とにかく、一度鈴木さんの作品を読んでみたら良いよ。本当にすごいから。あ、そうだ。今日の放課後、とりあえず五組集合ね」
伊月が嵐のように捲し立てる。俺と鈴木さんが口を挟む暇も無く、伊月は自分の言いたい事だけを伝えて消えた。あいつは自分のやりたいことを終えると、すぐに消えるらしい。
「あ、宜しくお願いします」
鈴木さんは再度俺に礼をして、教室の奥に引っ込んでしまった。俺は何が起きているのかよくわからなかった。
放課後、あいつの約束通り、俺は教室で待機していた。伊月は言い出しっぺのくせに、どこかに消えていた。突然、誰かの走ってくる音がした。
「入部希望届、もらってきた!」
少年漫画の主人公張りに、伊月が教室に駆け込んでくる。鈴木さんもいた。
「これにさ、名前書いてくれよ。印鑑が無ければ拇印で大丈夫だ。」
「俺が入るってことは、確定なの?」
「当たり前だろ、三人以上部員がいないと、部活にならない」
「あ、そう」俺は朱肉に親指をつける。
「最初からそういう計画だったわけか」
「まさか。単に言うのを忘れてただけだ」
あまりにも堂々としている伊月の態度に、俺は何が真実かどうかはどうでも良くなっていた。伊月のその圧倒的な行動力と熱意、加えて俺の不遜な態度に鈴木さんは明らかに戸惑っていた。
「あ、光(ひかる)、安心しろ。こいつ、口は悪いが、小説の知識だけはずば抜けているから。安心して良い」
それ、フォローになってなくね?俺がにらみつけると、
「? 本当のことだろ?」
と伊月が笑う。
俺らが普段のように、鈴木さん抜きでわあわあ言い合っていると、彼女は真顔で
「二人って仲良いんですねえ」
と言った。
「「よくねえよ」」
俺らがハモると鈴木さんが笑った。俺は怒った。伊月はにやにやしていた。その日は三人とも、左手の親指だけが赤くなった。
「なんだよ、にやにやして」
「俺さあ、新しい部活を作りたいと思うんだよねえ。どう思う?」
「いんじゃねえの、知らねえけど」
「文芸部作ろうと思うんだ、お前と」
「俺も入ってるのかよ」
「当たり前だろ、日向がいなくてどうする」
「そんなラノベみたいに簡単に言うな」
「まあまあ、俺ね、すごい人見つけちゃったんだ。後で紹介するから」
「大体お前、生徒会に入っているんじゃないのかよ」
気づいたら伊月はもうどこかに行っていて、俺の発言だけが虚しく響いた。
俺は昼休み、伊月から二つ隣の教室まで呼び出された。伊月が俺の顔を見ると、一人の女の子を手招きし、俺に近づいてきた。一人の女子も近づいてきた。ショートカットで眼鏡をかけている。
「こんにちは」
これといった特徴の無い女の子だった。身長は百五十センチくらい、体重はわからないけど四十五キロくらいだろうか。小柄な女の子、といった印象しか受けなかった。
「鈴木光(すずきひかる)さん。こいつは、日向(ひゅうが)昇(のぼる)」伊月が俺を紹介する。
「ども」
慌てて頭を下げる。
「初めまして」
気まずい。この女子も、どうやら俺と同じようにあまり社交的では無いらしい。俺らは特に話すことが無くなった。すかさず伊月にアイコンタクト。
「鈴木さん、実は小説を書いているそうなんだ。それも膨大にね。俺は一部見せてもらったんだけど、本当にすごいよ」
伊月が満面の笑みで俺に語り掛ける。若干うざい。
「いえ、そんな」
鈴木さんはマジで困っているみたいに謙遜した。
「とにかく、一度鈴木さんの作品を読んでみたら良いよ。本当にすごいから。あ、そうだ。今日の放課後、とりあえず五組集合ね」
伊月が嵐のように捲し立てる。俺と鈴木さんが口を挟む暇も無く、伊月は自分の言いたい事だけを伝えて消えた。あいつは自分のやりたいことを終えると、すぐに消えるらしい。
「あ、宜しくお願いします」
鈴木さんは再度俺に礼をして、教室の奥に引っ込んでしまった。俺は何が起きているのかよくわからなかった。
放課後、あいつの約束通り、俺は教室で待機していた。伊月は言い出しっぺのくせに、どこかに消えていた。突然、誰かの走ってくる音がした。
「入部希望届、もらってきた!」
少年漫画の主人公張りに、伊月が教室に駆け込んでくる。鈴木さんもいた。
「これにさ、名前書いてくれよ。印鑑が無ければ拇印で大丈夫だ。」
「俺が入るってことは、確定なの?」
「当たり前だろ、三人以上部員がいないと、部活にならない」
「あ、そう」俺は朱肉に親指をつける。
「最初からそういう計画だったわけか」
「まさか。単に言うのを忘れてただけだ」
あまりにも堂々としている伊月の態度に、俺は何が真実かどうかはどうでも良くなっていた。伊月のその圧倒的な行動力と熱意、加えて俺の不遜な態度に鈴木さんは明らかに戸惑っていた。
「あ、光(ひかる)、安心しろ。こいつ、口は悪いが、小説の知識だけはずば抜けているから。安心して良い」
それ、フォローになってなくね?俺がにらみつけると、
「? 本当のことだろ?」
と伊月が笑う。
俺らが普段のように、鈴木さん抜きでわあわあ言い合っていると、彼女は真顔で
「二人って仲良いんですねえ」
と言った。
「「よくねえよ」」
俺らがハモると鈴木さんが笑った。俺は怒った。伊月はにやにやしていた。その日は三人とも、左手の親指だけが赤くなった。
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