2 / 50
大事なのは出会いでは無くそこから一歩踏み出すかどうかだ 2
しおりを挟む
俺らの関係が急速に深まったのは、桜の花が散ったあたりだったと思う。あの日、伊月は気持ち悪い程にこにこしながら俺に近づいてきた。
「なんだよ、にやにやして」
「俺さあ、新しい部活を作りたいと思うんだよねえ。どう思う?」
「いんじゃねえの、知らねえけど」
「文芸部作ろうと思うんだ、お前と」
「俺も入ってるのかよ」
「当たり前だろ、日向がいなくてどうする」
「そんなラノベみたいに簡単に言うな」
「まあまあ、俺ね、すごい人見つけちゃったんだ。後で紹介するから」
「大体お前、生徒会に入っているんじゃないのかよ」
気づいたら伊月はもうどこかに行っていて、俺の発言だけが虚しく響いた。
俺は昼休み、伊月から二つ隣の教室まで呼び出された。伊月が俺の顔を見ると、一人の女の子を手招きし、俺に近づいてきた。一人の女子も近づいてきた。ショートカットで眼鏡をかけている。
「こんにちは」
これといった特徴の無い女の子だった。身長は百五十センチくらい、体重はわからないけど四十五キロくらいだろうか。小柄な女の子、といった印象しか受けなかった。
「鈴木光(すずきひかる)さん。こいつは、日向(ひゅうが)昇(のぼる)」伊月が俺を紹介する。
「ども」
慌てて頭を下げる。
「初めまして」
気まずい。この女子も、どうやら俺と同じようにあまり社交的では無いらしい。俺らは特に話すことが無くなった。すかさず伊月にアイコンタクト。
「鈴木さん、実は小説を書いているそうなんだ。それも膨大にね。俺は一部見せてもらったんだけど、本当にすごいよ」
伊月が満面の笑みで俺に語り掛ける。若干うざい。
「いえ、そんな」
鈴木さんはマジで困っているみたいに謙遜した。
「とにかく、一度鈴木さんの作品を読んでみたら良いよ。本当にすごいから。あ、そうだ。今日の放課後、とりあえず五組集合ね」
伊月が嵐のように捲し立てる。俺と鈴木さんが口を挟む暇も無く、伊月は自分の言いたい事だけを伝えて消えた。あいつは自分のやりたいことを終えると、すぐに消えるらしい。
「あ、宜しくお願いします」
鈴木さんは再度俺に礼をして、教室の奥に引っ込んでしまった。俺は何が起きているのかよくわからなかった。
放課後、あいつの約束通り、俺は教室で待機していた。伊月は言い出しっぺのくせに、どこかに消えていた。突然、誰かの走ってくる音がした。
「入部希望届、もらってきた!」
少年漫画の主人公張りに、伊月が教室に駆け込んでくる。鈴木さんもいた。
「これにさ、名前書いてくれよ。印鑑が無ければ拇印で大丈夫だ。」
「俺が入るってことは、確定なの?」
「当たり前だろ、三人以上部員がいないと、部活にならない」
「あ、そう」俺は朱肉に親指をつける。
「最初からそういう計画だったわけか」
「まさか。単に言うのを忘れてただけだ」
あまりにも堂々としている伊月の態度に、俺は何が真実かどうかはどうでも良くなっていた。伊月のその圧倒的な行動力と熱意、加えて俺の不遜な態度に鈴木さんは明らかに戸惑っていた。
「あ、光(ひかる)、安心しろ。こいつ、口は悪いが、小説の知識だけはずば抜けているから。安心して良い」
それ、フォローになってなくね?俺がにらみつけると、
「? 本当のことだろ?」
と伊月が笑う。
俺らが普段のように、鈴木さん抜きでわあわあ言い合っていると、彼女は真顔で
「二人って仲良いんですねえ」
と言った。
「「よくねえよ」」
俺らがハモると鈴木さんが笑った。俺は怒った。伊月はにやにやしていた。その日は三人とも、左手の親指だけが赤くなった。
「なんだよ、にやにやして」
「俺さあ、新しい部活を作りたいと思うんだよねえ。どう思う?」
「いんじゃねえの、知らねえけど」
「文芸部作ろうと思うんだ、お前と」
「俺も入ってるのかよ」
「当たり前だろ、日向がいなくてどうする」
「そんなラノベみたいに簡単に言うな」
「まあまあ、俺ね、すごい人見つけちゃったんだ。後で紹介するから」
「大体お前、生徒会に入っているんじゃないのかよ」
気づいたら伊月はもうどこかに行っていて、俺の発言だけが虚しく響いた。
俺は昼休み、伊月から二つ隣の教室まで呼び出された。伊月が俺の顔を見ると、一人の女の子を手招きし、俺に近づいてきた。一人の女子も近づいてきた。ショートカットで眼鏡をかけている。
「こんにちは」
これといった特徴の無い女の子だった。身長は百五十センチくらい、体重はわからないけど四十五キロくらいだろうか。小柄な女の子、といった印象しか受けなかった。
「鈴木光(すずきひかる)さん。こいつは、日向(ひゅうが)昇(のぼる)」伊月が俺を紹介する。
「ども」
慌てて頭を下げる。
「初めまして」
気まずい。この女子も、どうやら俺と同じようにあまり社交的では無いらしい。俺らは特に話すことが無くなった。すかさず伊月にアイコンタクト。
「鈴木さん、実は小説を書いているそうなんだ。それも膨大にね。俺は一部見せてもらったんだけど、本当にすごいよ」
伊月が満面の笑みで俺に語り掛ける。若干うざい。
「いえ、そんな」
鈴木さんはマジで困っているみたいに謙遜した。
「とにかく、一度鈴木さんの作品を読んでみたら良いよ。本当にすごいから。あ、そうだ。今日の放課後、とりあえず五組集合ね」
伊月が嵐のように捲し立てる。俺と鈴木さんが口を挟む暇も無く、伊月は自分の言いたい事だけを伝えて消えた。あいつは自分のやりたいことを終えると、すぐに消えるらしい。
「あ、宜しくお願いします」
鈴木さんは再度俺に礼をして、教室の奥に引っ込んでしまった。俺は何が起きているのかよくわからなかった。
放課後、あいつの約束通り、俺は教室で待機していた。伊月は言い出しっぺのくせに、どこかに消えていた。突然、誰かの走ってくる音がした。
「入部希望届、もらってきた!」
少年漫画の主人公張りに、伊月が教室に駆け込んでくる。鈴木さんもいた。
「これにさ、名前書いてくれよ。印鑑が無ければ拇印で大丈夫だ。」
「俺が入るってことは、確定なの?」
「当たり前だろ、三人以上部員がいないと、部活にならない」
「あ、そう」俺は朱肉に親指をつける。
「最初からそういう計画だったわけか」
「まさか。単に言うのを忘れてただけだ」
あまりにも堂々としている伊月の態度に、俺は何が真実かどうかはどうでも良くなっていた。伊月のその圧倒的な行動力と熱意、加えて俺の不遜な態度に鈴木さんは明らかに戸惑っていた。
「あ、光(ひかる)、安心しろ。こいつ、口は悪いが、小説の知識だけはずば抜けているから。安心して良い」
それ、フォローになってなくね?俺がにらみつけると、
「? 本当のことだろ?」
と伊月が笑う。
俺らが普段のように、鈴木さん抜きでわあわあ言い合っていると、彼女は真顔で
「二人って仲良いんですねえ」
と言った。
「「よくねえよ」」
俺らがハモると鈴木さんが笑った。俺は怒った。伊月はにやにやしていた。その日は三人とも、左手の親指だけが赤くなった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる