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一人で楽しめる術を見つけるだけでは勿体ない 2
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「あ、日向君、あと伊月君」
俺は主催者の方に呼ばれた。頭が薄くて、明るそうなおじさんだ。
「あ、はい」
俺はいきなりのことで戸惑った。
「すごいね、君、外見に似合わずガルシア・マルケスなんか読んでいるんだ。初めはやんちゃな兄ちゃんが出て来たなあって思ったけどね、いい意味で裏切られたよ」
とおじさんはケタケタ笑う。
「あ、俺、本を読むしか能がないんで」
俺は素直な感想を述べる。
「それにしても近くで改めて見ると君、大きいねえ」
「まあ、はい」俺が返答に困っている間、主催者さんがポケットから一枚の紙を取り出す。
「これ、俺の名刺」
俺は生まれて初めて、他人から名刺をもらった。轟(とどろき)彰(あき)浩(ひろ)、K書店S支店店長、ビブリオバトルS県委員会委員長。
「そこに俺のフェイスブックスのアカウントも載ってるから、気軽に連絡して。冬は中高生限定の全国大会もあるしさ。きっと僕も行くし、また会えたら良いね」
「全国大会」
俺は主催者の言葉を繰り返す。
「あれ、お前ら、全国出ないの?てっきり出ると思ってた」
轟さんは伊月と俺を交互に指さす。
「全国」
俺は振り返り、伊月の顔を見る。
「知ってただろ」
思わず腕をどつく。
「うん。もうお前の分も応募してある」
「なんでだよ」
どつくだけじゃ足りないので、頭もはたいておいた。
「伊月君って、そういうとこあるよね」
珍しく鈴木もあきれ顔だ。
「後から棄権は出来るけど、後から応募は出来ないだろ?それになんかここんとこ、お前の話しかけるなオーラがすごかったからさ」
伊月は笑いながら取り繕う。
「ま、いいわ。ありがと」
とりあえず感謝だ。無茶苦茶だが、伊月の言っていることは正しい。どうせ出たいと思っていても、今日の大会が終わるまでは伊月の話も頭に入ってこなかっただろう。
「あはは、君たち、仲良いねえ」
優しい目で轟さんが言う。俺はもう突っ込むのをやめた。轟さんのゆっくりした気の抜けるような声のせいだろうか、どんど気力がなくなっていく。
「とにかく、今日はお疲れさま。これ、表彰状入れ」
轟さんが、表彰状を筒に入れてくれた。轟さんはそれをぶっきらぼうに渡す。コンビニの会計で店員にパンを渡すようなノリで。
「じゃな」
そう言って轟さんは、他の参加者の所へ行ってしまった。嵐のようにいきなり現れていきなり消える。ちょっと前までの伊月みたいだ。
「あの、日向さん」
俺の声を誰かが読んだ。低い、女の声だった。見ると、綺麗な顔立ちの女が俺の後ろにいた。アイドルみたいな顔の子だ。名前は忘れたが確か太宰の本を紹介した子だ。
「日向さんは海外文学にお詳しいんですか?」
丸い二つの目が、俺を凝視していた。近くで見るとまつ毛が長い。
「えっと、どちら様でしたっけ?」
「海野です」
顔に似合わず、声は若干低めだ。
「桂陽高校の方でしたよね?」
伊月が口を挟む。さすがの記憶力。
「あ、そうです。桂陽高校二年です。私、日本の作家しか今まで読んでいなくって。日向さんの話を聞いて、海外の作品にも興味が出てきて」
それは俺にとって、すごく嬉しくなる言葉だった。今までにない感触だった。
「あー、こいつ、本の知識だけは凄まじいからな」
後ろから聞こえる伊月の言葉も、取りたてて腹が立たない。俺はその時初めて、自分の趣味を誰かと共有する喜びを知った。自分が好きなものに、俺がきっかけで誰かが興味を持ってくれる。それはすごく嬉しい事だった。俺はいつも、自分自身のためだけに本を読んできたし、伊月を除いて、自分の好きなことについて誰かと語りたいと思ったことは殆ど無かった。俺は初めての感覚に、なんか背中がかゆかった。
「俺、太宰も好きだけど、今、嵌りが米文だから……」
「何かおすすめはありますか?」
少し顔を赤くして海野さんが言う。俺はなんだかうれしいようなこそばいような不思議な気分になる。
俺は必死に頭を働かせ、読みやすそうな作品を彼女に教えた。海野さんは真剣に俺の話を聞いてくれ、忘れないように携帯に作品名をメモした。ふと伊月の方を見ると、奴は他の参加者たちに囲まれていた。
「結構、最近の作品とか知っているんですね」
社会人らしい眼鏡の男性が伊月に言う。
「文芸雑誌とか読み込んでるの?」
「人並みですかねえ」
俺は原作者の鈴木がここにいることがばれやしないか、冷や冷やしながら奴を見ていた。が、案外誰にも気づかれなかった。
あ、そう言えば忘れてたが、鈴木は……?
辺りを見回す。あいつは小さいから分かり辛い。
「あ、日向君。さっき、主催者の方に名刺貰ったよ」
鈴木が無邪気に俺に言う。やっぱり気づく人は気づくらしい。光の正体を。
「私も貰いました」
海野さんがにっこりと笑った。俺はほっと一息ついた。
俺は主催者の方に呼ばれた。頭が薄くて、明るそうなおじさんだ。
「あ、はい」
俺はいきなりのことで戸惑った。
「すごいね、君、外見に似合わずガルシア・マルケスなんか読んでいるんだ。初めはやんちゃな兄ちゃんが出て来たなあって思ったけどね、いい意味で裏切られたよ」
とおじさんはケタケタ笑う。
「あ、俺、本を読むしか能がないんで」
俺は素直な感想を述べる。
「それにしても近くで改めて見ると君、大きいねえ」
「まあ、はい」俺が返答に困っている間、主催者さんがポケットから一枚の紙を取り出す。
「これ、俺の名刺」
俺は生まれて初めて、他人から名刺をもらった。轟(とどろき)彰(あき)浩(ひろ)、K書店S支店店長、ビブリオバトルS県委員会委員長。
「そこに俺のフェイスブックスのアカウントも載ってるから、気軽に連絡して。冬は中高生限定の全国大会もあるしさ。きっと僕も行くし、また会えたら良いね」
「全国大会」
俺は主催者の言葉を繰り返す。
「あれ、お前ら、全国出ないの?てっきり出ると思ってた」
轟さんは伊月と俺を交互に指さす。
「全国」
俺は振り返り、伊月の顔を見る。
「知ってただろ」
思わず腕をどつく。
「うん。もうお前の分も応募してある」
「なんでだよ」
どつくだけじゃ足りないので、頭もはたいておいた。
「伊月君って、そういうとこあるよね」
珍しく鈴木もあきれ顔だ。
「後から棄権は出来るけど、後から応募は出来ないだろ?それになんかここんとこ、お前の話しかけるなオーラがすごかったからさ」
伊月は笑いながら取り繕う。
「ま、いいわ。ありがと」
とりあえず感謝だ。無茶苦茶だが、伊月の言っていることは正しい。どうせ出たいと思っていても、今日の大会が終わるまでは伊月の話も頭に入ってこなかっただろう。
「あはは、君たち、仲良いねえ」
優しい目で轟さんが言う。俺はもう突っ込むのをやめた。轟さんのゆっくりした気の抜けるような声のせいだろうか、どんど気力がなくなっていく。
「とにかく、今日はお疲れさま。これ、表彰状入れ」
轟さんが、表彰状を筒に入れてくれた。轟さんはそれをぶっきらぼうに渡す。コンビニの会計で店員にパンを渡すようなノリで。
「じゃな」
そう言って轟さんは、他の参加者の所へ行ってしまった。嵐のようにいきなり現れていきなり消える。ちょっと前までの伊月みたいだ。
「あの、日向さん」
俺の声を誰かが読んだ。低い、女の声だった。見ると、綺麗な顔立ちの女が俺の後ろにいた。アイドルみたいな顔の子だ。名前は忘れたが確か太宰の本を紹介した子だ。
「日向さんは海外文学にお詳しいんですか?」
丸い二つの目が、俺を凝視していた。近くで見るとまつ毛が長い。
「えっと、どちら様でしたっけ?」
「海野です」
顔に似合わず、声は若干低めだ。
「桂陽高校の方でしたよね?」
伊月が口を挟む。さすがの記憶力。
「あ、そうです。桂陽高校二年です。私、日本の作家しか今まで読んでいなくって。日向さんの話を聞いて、海外の作品にも興味が出てきて」
それは俺にとって、すごく嬉しくなる言葉だった。今までにない感触だった。
「あー、こいつ、本の知識だけは凄まじいからな」
後ろから聞こえる伊月の言葉も、取りたてて腹が立たない。俺はその時初めて、自分の趣味を誰かと共有する喜びを知った。自分が好きなものに、俺がきっかけで誰かが興味を持ってくれる。それはすごく嬉しい事だった。俺はいつも、自分自身のためだけに本を読んできたし、伊月を除いて、自分の好きなことについて誰かと語りたいと思ったことは殆ど無かった。俺は初めての感覚に、なんか背中がかゆかった。
「俺、太宰も好きだけど、今、嵌りが米文だから……」
「何かおすすめはありますか?」
少し顔を赤くして海野さんが言う。俺はなんだかうれしいようなこそばいような不思議な気分になる。
俺は必死に頭を働かせ、読みやすそうな作品を彼女に教えた。海野さんは真剣に俺の話を聞いてくれ、忘れないように携帯に作品名をメモした。ふと伊月の方を見ると、奴は他の参加者たちに囲まれていた。
「結構、最近の作品とか知っているんですね」
社会人らしい眼鏡の男性が伊月に言う。
「文芸雑誌とか読み込んでるの?」
「人並みですかねえ」
俺は原作者の鈴木がここにいることがばれやしないか、冷や冷やしながら奴を見ていた。が、案外誰にも気づかれなかった。
あ、そう言えば忘れてたが、鈴木は……?
辺りを見回す。あいつは小さいから分かり辛い。
「あ、日向君。さっき、主催者の方に名刺貰ったよ」
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