それでも日は昇る

阿部梅吉

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大事なのはいつも遊び心だ

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 「伊月君、ありがとう」

時刻は夕方。もう陽はすっかり落ちている。秋の夜は早い。辺りは暗く、人々の陰は闇に溶け込んでいた。

「私の本、買ってくれたんだ」

「あたりまえだろ」日向とはすでに駅で別れ、伊月と鈴木、二人が駅に向かって歩いている。

「光の作品なんだから」

「面白かった?」

「だから、さっき散々プレゼン聞いただろ。面白いのは当たり前だ」

伊月が鈴木の頭を掴んで、髪をぐちゃぐちゃにする。

「そういえば日向君にね、『お前は納得してんのかよお』」って言われた」

鈴木は、日向の声真似をする。

「あ、そ。納得も何も、何も問題ないだろ。俺はなんであいつが怒っているのかがわからん」

「正直、わかんないな、私も。別に何でもいいやって感じ。あの本には確かに特別思い入れがあるけど、なんか、別にどうでもいいやっていう気持ちもあって。なんていうか、書きあげて完成しちゃったら、もうその作品には興味がないっていうか。完成しちゃったら、自分の物でも他人の物でも、なんかそこら辺はもうどうでもよくって。盗作されるのはさすがに嫌だけど」

「ふうん、すげえなお前」

彼は本当に感心したように低い声で言う。

「だから、納得しているかしていないかって言えば、してるのかな? でも、わかんない。私の中で、あれはもう終わったことだから」

彼女は淡々と話す。

「そうだよな」

「うん」

月が二人を照らす。

「でもきっと、読んでいる人にとってはそうじゃないのかも」

「そうだな」

伊月は笑う。

「でもそれ、俺にじゃなくて日向に言えよ、今度」

「機会があったら」

「絶対言えよな。約束」

伊月が小指を出す。鈴木は笑い出す。

「案外、子供っぽいんだね、伊月君。指きりなんて久しぶり……」

「はやく」

地下鉄駅の階段の踊り場で、二人は小指を重ね、クロスさせた。お互い何も言わない。伊月の手は大きく、鈴木の指は細い。三秒ほど二人は指を繋げていたが、やがて伊月が手を引っ込めた。

「次は全国だねえ」

鈴木が笑う。

「わかってるって」

伊月が手をポケットに突っ込む。

「次は負けない」

「プライド高いなあ」

二人の声が地下に響いた。
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