それでも日は昇る

阿部梅吉

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結局のところどれだけ受け止められるかにかかっている 1

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 鈴木の小説は無事に出版社に送られた。大会の翌週の部活は休みになった。テストが近かったからだ。俺は特に勉強もせず、鈴木と一緒にいた。珍しくその日は鈴木の方から連絡が来た。部活は無かったが、俺たちは何時も通り図書館で落ち合った。人々はコートをまとい、温かいものを求めるようになっていた。もうすぐ雪の降る季節だった。

「良い詩が出来たの」

いきなり鈴木が言った。それはすごく唐突なことだった。前後も左右も無かった。その言葉はいきなり、俺の目の前に現れた。

「普段こんなものは人に見せないんだからね、心して見てよ」

「わかった」

俺は原稿に印刷された文字を見た。


もう誰も私の方を見ない
ただ私は誰かが訪れるのを待つだけ
来る日も来る日も
今はもうあの子はすっかり人気者
誰も私に見向きしない
もう誰も私の方を見ない
あの子が言う
貴方は素晴らしいのよ
そんなのただの嘘っぱちだと思ってた
かつて着ていた衣装は
もう今やあの子の物
スポットライトを存分に浴びて
私はずっとあそこにいたのに

あなたは素晴らしいのよ
わかってる
本当は彼女も素晴らしいって
あなたは素晴らしいのよ
わかってる
本当は私にもいいところがあるって
あなたは素晴らしいのよ
わかってる
自分が一番素晴らしいって
でも本当はあなただって素晴らしいって
私たちは混ざり合える
私たちは混ざり合える
そして生まれ変わる
私は生まれ変わるの

誰もかれもがステージに立つ訳では無いけど
誰かが立つのを見てるだけ
ならば文句は言わせない
いつの時代でも
登れないなら下るなんて
そんな奴は脚で蹴落とす
誰も私に見向きはしない
私もだれのことだって見ない
私は自分自身につぶやくの
私は素晴らしいわよって

(※)私たちは混ざり合える
私たちは混ざり合える
そして生まれ変わるの
私は生まれ変わるの

私はそうやって走るの
あなたたちはどうして走るの
普通って言葉に押しつぶされそうになって
泣いている人を見捨てないで
きっとあなたにしか救えない
あなたは素晴らしいの
たったそれだけ

あなたは素晴らしいのよ
わかってる
本当は彼女も素晴らしいって
あなたは素晴らしいのよ
わかってる
本当は私にもいいところがある
あなたは素晴らしいのよ
わかってる
自分が一番素晴らしいって
でも本当はあなただって素晴らしいって
私たちは混ざり合える
私たちは混ざり合える
そして生まれ変わるの
私は生まれ変わるの


 俺は原稿に三回きっちり目を通した。

「何かの歌なの?」

「そう」

鈴木は平然と答える。歌詞と詩は別物だ、と思ったが俺は何も言わなかった。

「すごくいい歌だと思う。何処かに応募した方が良いよ」

「詩は専門外だし、比喩が無ければ隠喩も無いけど」

鈴木は淡々と答える。

「大丈夫だよ」

俺は言った。

「大丈夫」

「ありがとう」

鈴木はため息をついた。下を見て、俺を見て、下を見て、また俺を見た。

「伊月君てさ、彼女いるんだよね」
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