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季節は巡るが何も変わらないわけでは無い 2
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俺たちは新入生を迎えるべく、部活の勧誘ポスターを作った。絵は下手なので、俺はパソコンをなんとか駆使して作り上げた。前面に鈴木(桜木ヒカル)が部にいることと、ビブリオバトルで全国大会に出場したことをこれでもかと押し出すポスターにした。伊月はノリノリでそのポスターを印刷していたが、目立つことが嫌いな鈴木は少しだけ抵抗感を示していた。
案の定、鈴木を大々的に祭り上げたポスターの効果は抜群だった。一年のみならず、二年や三年も部室を覗きに来た。部活勧誘期間は一週間ほどあったが、生徒がかわるがわる鈴木を見に来た。その度に鈴木は、俺や伊月の後ろに隠れようとした。巣の中でしか生きられない小動物みたいに、鈴木は怯えていた。俺はだんだん冷やかしの連中にイライラしてきた。勧誘してから三日目、ついに俺は本音を新入生たちに話すことを決めた。
「鈴木は小さいころから毎日のように小説書いてるし、俺らも目標も見つけて、頑張って、でも楽しく本を読んでるんだよね。あんまり本に興味が無いなら、ここに来るのはやめて欲しいな」
一年相手に、俺は言ってしまった。なるべく怒らないで、笑顔で言うように心掛けたつもりだったが、いかんせん俺の見た目は優等生とはかけ離れているので、ちょっとビビらせてしまったみたいだ。それからはあまり冷やかしの連中が来なくなった。
伊月は
「別に注目されたり話題になること自体は悪くないのに、やっちゃったねえ」
と笑っていた。
俺の行動を非難しつつも、どこか優しい口調な気がした。とは言え、軽い気持ちで入部してくれそうな子が敬遠してしまった恐れもあるかもしれない。
「まあ、本が好きなら誰でも入部希望だよ」
伊月が新入生たちに優しく言う。当の鈴木は何も言わない。ただ黙々と自分の作業に没頭していて、我関せずだった。
「とりあえず来週からは入部できるし、明日は最後の新入生掻き入れ時ってことで、お茶会でもやらないか?」
伊月が提案する。
「そうだな、本当に本が好きな奴がいれば、俺も話してみたいしな。明日はお菓子でも持ち寄って、みんなで食べるか」
「お菓子……」
鈴木の気持ちが少しだけ動いた。
「じゃ、お菓子持ってくるか。早速、ポスター書くぞ。放送委員に言って、宣伝もしてもらおう」
伊月が紙とマジックを取り出す。
「え、明日やるんだろ?間に合わな」
伊月が満面の笑みで俺の肩を叩く。
「今から放送室に行ってくる!お前は手書きでいいから簡単なポスターを作っておいてくれ!それじゃあ!」
こういう時の伊月は早い。つくづく、奴の行動力には驚かされる。伊月は振り返るともういなかった。
「すごいなあ、鈴木君は。有言実行だねえ」
鈴木がしみじみ言う。
「俺、ポスターのレイアウト考えるよ。鈴木の方が字がきれいだから、手伝ってくれない?」
「あ、いいよ。一緒にポスター作ろうか」
鈴木が笑った。久々にこいつの笑顔を見た気がした。
翌日の金曜日、伊月の宣言通り、文芸部でお茶会を行うことが昼休みに放送された。正確には、伊月が書いた原稿をそのままそっくり俺が読み上げた。
「というわけで、放課後お待ちしております。お菓子もあるので皆さん気軽に来てください」
「文芸部部長、日向君でした、ありがとうございました」
俺は放送が終わってからも心臓が止まらなかった。全く練習無しのぶっつけ本番だったが、何とか乗り切ることが出来た。終わった後、後ろで見ていた伊月が拍手した。
「よかったぞ」
「お前といると心臓縮むわ」
「何、これくらいで縮むか」
「なんか、文芸部って楽しそうですねー、いっつも三人で一緒にいますし」
放送委員のはきはき喋るキノコ頭の女が俺に言う。
「それに、大会とか出てるんですよね?今年で部活を立ち上げて全国ですし。すごいですよねえ」
「あ、まあ……」
俺は何て返せばいいのかわからない。
「全国に一応行ったけど、俺、何も結果残せなかったから」
「私たちも全国高校放送コンクールっていう大会があるんですよ。負けてられませんね」
「そうそう、隣の北条高校が毎回全国の常連でさ。俺たちも負けてらんないわな」
太いフレームの眼鏡をかけた男が、機材を片付けながら言う。
「応援しています」
俺はいつになく緊張して言った。
「俺も今年は優勝します」
「おお、格好いい」
放送部の女子が言う。
「まずは俺に勝てよ」
後ろで見守っていた伊月が茶々を入れる。
「お前には余裕で勝てるっつうの。俺は去年から読書領域広げて来たし」
「俺だって何もしてないわけじゃねえから」
「相変わらず仲良いですねえ」
と、放送女子が言う。
「「よくねえよ」」
声がハモる。一瞬の間の後、放送室に笑いが起きた。俺も笑った。久々にちゃんと笑った気がした。
「シンクロし過ぎですよお、やっぱ文芸部の人ってキャラ立ってて面白いですねえ」
女子が笑いながら言う。
「なんか、一年前にもこういうこと、なかったっけ?」
俺が言う。
季節は回った。外はもう桜が咲いている。俺たちは一つ、歳をとった。でも俺たちは、ただやみくもに生きて来た訳では無い。俺たちは必ずどこかへちょっとずつ移動している。俺たちは新入生を迎えるべく、部活の勧誘ポスターを作った。絵は下手なので、俺はパソコンをなんとか駆使して作り上げた。前面に鈴木(桜木ヒカル)が部にいることと、ビブリオバトルで全国大会に出場したことをこれでもかと押し出すポスターにした。伊月はノリノリでそのポスターを印刷していたが、目立つことが嫌いな鈴木は少しだけ抵抗感を示していた。
案の定、鈴木を大々的に祭り上げたポスターの効果は抜群だった。一年のみならず、二年や三年も部室を覗きに来た。部活勧誘期間は一週間ほどあったが、生徒がかわるがわる鈴木を見に来た。その度に鈴木は、俺や伊月の後ろに隠れようとした。巣の中でしか生きられない小動物みたいに、鈴木は怯えていた。俺はだんだん冷やかしの連中にイライラしてきた。勧誘してから三日目、ついに俺は本音を新入生たちに話すことを決めた。
「鈴木は小さいころから毎日のように小説書いてるし、俺らも目標も見つけて、頑張って、でも楽しく本を読んでるんだよね。あんまり本に興味が無いなら、ここに来るのはやめて欲しいな」
一年相手に、俺は言ってしまった。なるべく怒らないで、笑顔で言うように心掛けたつもりだったが、いかんせん俺の見た目は優等生とはかけ離れているので、ちょっとビビらせてしまったみたいだ。それからはあまり冷やかしの連中が来なくなった。伊月は
「別に注目されたり話題になること自体は悪くないのに、やっちゃったねえ」と笑っていた。俺の行動を非難しつつも、どこか優しい口調な気がした。とは言え、軽い気持ちで入部してくれそうな子が敬遠してしまった恐れもあるかもしれない。
「まあ、本が好きなら誰でも入部希望だよ」伊月が新入生たちに優しく言う。当の鈴木は何も言わない。ただ黙々と自分の作業に没頭していて、我関せずだった。
「とりあえず来週からは入部できるし、明日は最後の新入生掻き入れ時ってことで、お茶会でもやらないか?」伊月が提案する。
「そうだな、本当に本が好きな奴がいれば、俺も話してみたいしな。明日はお菓子でも持ち寄って、みんなで食べるか」
「お菓子……」鈴木の気持ちが少しだけ動いた。
「じゃ、お菓子持ってくるか。早速、ポスター書くぞ。放送委員に言って、宣伝もしてもらおう」伊月が紙とマジックを取り出す。
「え、明日やるんだろ?間に合わな」
伊月が満面の笑みで俺の肩を叩く。
「今から放送室に行ってくる!お前は手書きでいいから簡単なポスターを作っておいてくれ!それじゃあ!」こういう時の伊月は早い。つくづく、奴の行動力には驚かされる。伊月は振り返るともういなかった。
「すごいなあ、鈴木君は。有言実行だねえ」鈴木がしみじみ言う。
「俺、ポスターのレイアウト考えるよ。鈴木の方が字がきれいだから、手伝ってくれない?」
「あ、いいよ。一緒にポスター作ろうか。」鈴木が笑った。久々にこいつの笑顔を見た気がした。
翌日の金曜日、伊月の宣言通り、文芸部でお茶会を行うことが昼休みに放送された。正確には、伊月が書いた原稿をそのままそっくり俺が読み上げた。
「というわけで、放課後お待ちしております。お菓子もあるので皆さん気軽に来てください」
「文芸部部長、日向君でした、ありがとうございました」
俺は放送が終わってからも心臓が止まらなかった。全く練習無しのぶっつけ本番だったが、何とか乗り切ることが出来た。終わった後、後ろで見ていた伊月が拍手した。
「よかったぞ」
「お前といると心臓縮むわ」
「何、これくらいで縮むか」
「なんか、文芸部って楽しそうですねー、いっつも三人で一緒にいますし」放送委員のはきはき喋るキノコ頭の女が俺に言う。
「それに、大会とか出てるんですよね?今年で部活を立ち上げて全国ですし。すごいですよねえ」
「あ、まあ……。」俺は何て返せばいいのかわからない。
「全国に一応行ったけど、俺、何も結果残せなかったから」
「私たちも全国高校放送コンクールっていう大会があるんですよ。負けてられませんね」
「そうそう、隣の北条高校が毎回全国の常連でさ。俺たちも負けてらんないわな」太いフレームの眼鏡をかけた男が、機材を片付けながら言う。
「応援しています」俺はいつになく緊張して言った。
「俺も今年は優勝します」
「おお、格好いい」放送部の女子が言う。
「まずは俺に勝てよ」後ろで見守っていた伊月が茶々を入れる。
「お前には余裕で勝てるっつうの。俺は去年から読書領域広げて来たし」
「俺だって何もしてないわけじゃねえから」
「相変わらず仲良いですねえ」と、放送女子が言う。
「「よくねえよ」」声がハモる。一瞬の間の後、放送室に笑いが起きた。俺も笑った。久々にちゃんと笑った気がした。
「シンクロし過ぎですよお、やっぱ文芸部の人ってキャラ立ってて面白いですねえ」
女子が笑いながら言う。
「なんか、一年前にもこういうこと、なかったっけ?」俺が言う。
季節は回った。外はもう桜が咲いている。俺たちは一つ、歳をとった。でも俺たちは、ただやみくもに生きて来た訳では無い。俺たちは必ずどこかへちょっとずつ移動している。それでも、変わらないものは変わらない。
案の定、鈴木を大々的に祭り上げたポスターの効果は抜群だった。一年のみならず、二年や三年も部室を覗きに来た。部活勧誘期間は一週間ほどあったが、生徒がかわるがわる鈴木を見に来た。その度に鈴木は、俺や伊月の後ろに隠れようとした。巣の中でしか生きられない小動物みたいに、鈴木は怯えていた。俺はだんだん冷やかしの連中にイライラしてきた。勧誘してから三日目、ついに俺は本音を新入生たちに話すことを決めた。
「鈴木は小さいころから毎日のように小説書いてるし、俺らも目標も見つけて、頑張って、でも楽しく本を読んでるんだよね。あんまり本に興味が無いなら、ここに来るのはやめて欲しいな」
一年相手に、俺は言ってしまった。なるべく怒らないで、笑顔で言うように心掛けたつもりだったが、いかんせん俺の見た目は優等生とはかけ離れているので、ちょっとビビらせてしまったみたいだ。それからはあまり冷やかしの連中が来なくなった。
伊月は
「別に注目されたり話題になること自体は悪くないのに、やっちゃったねえ」
と笑っていた。
俺の行動を非難しつつも、どこか優しい口調な気がした。とは言え、軽い気持ちで入部してくれそうな子が敬遠してしまった恐れもあるかもしれない。
「まあ、本が好きなら誰でも入部希望だよ」
伊月が新入生たちに優しく言う。当の鈴木は何も言わない。ただ黙々と自分の作業に没頭していて、我関せずだった。
「とりあえず来週からは入部できるし、明日は最後の新入生掻き入れ時ってことで、お茶会でもやらないか?」
伊月が提案する。
「そうだな、本当に本が好きな奴がいれば、俺も話してみたいしな。明日はお菓子でも持ち寄って、みんなで食べるか」
「お菓子……」
鈴木の気持ちが少しだけ動いた。
「じゃ、お菓子持ってくるか。早速、ポスター書くぞ。放送委員に言って、宣伝もしてもらおう」
伊月が紙とマジックを取り出す。
「え、明日やるんだろ?間に合わな」
伊月が満面の笑みで俺の肩を叩く。
「今から放送室に行ってくる!お前は手書きでいいから簡単なポスターを作っておいてくれ!それじゃあ!」
こういう時の伊月は早い。つくづく、奴の行動力には驚かされる。伊月は振り返るともういなかった。
「すごいなあ、鈴木君は。有言実行だねえ」
鈴木がしみじみ言う。
「俺、ポスターのレイアウト考えるよ。鈴木の方が字がきれいだから、手伝ってくれない?」
「あ、いいよ。一緒にポスター作ろうか」
鈴木が笑った。久々にこいつの笑顔を見た気がした。
翌日の金曜日、伊月の宣言通り、文芸部でお茶会を行うことが昼休みに放送された。正確には、伊月が書いた原稿をそのままそっくり俺が読み上げた。
「というわけで、放課後お待ちしております。お菓子もあるので皆さん気軽に来てください」
「文芸部部長、日向君でした、ありがとうございました」
俺は放送が終わってからも心臓が止まらなかった。全く練習無しのぶっつけ本番だったが、何とか乗り切ることが出来た。終わった後、後ろで見ていた伊月が拍手した。
「よかったぞ」
「お前といると心臓縮むわ」
「何、これくらいで縮むか」
「なんか、文芸部って楽しそうですねー、いっつも三人で一緒にいますし」
放送委員のはきはき喋るキノコ頭の女が俺に言う。
「それに、大会とか出てるんですよね?今年で部活を立ち上げて全国ですし。すごいですよねえ」
「あ、まあ……」
俺は何て返せばいいのかわからない。
「全国に一応行ったけど、俺、何も結果残せなかったから」
「私たちも全国高校放送コンクールっていう大会があるんですよ。負けてられませんね」
「そうそう、隣の北条高校が毎回全国の常連でさ。俺たちも負けてらんないわな」
太いフレームの眼鏡をかけた男が、機材を片付けながら言う。
「応援しています」
俺はいつになく緊張して言った。
「俺も今年は優勝します」
「おお、格好いい」
放送部の女子が言う。
「まずは俺に勝てよ」
後ろで見守っていた伊月が茶々を入れる。
「お前には余裕で勝てるっつうの。俺は去年から読書領域広げて来たし」
「俺だって何もしてないわけじゃねえから」
「相変わらず仲良いですねえ」
と、放送女子が言う。
「「よくねえよ」」
声がハモる。一瞬の間の後、放送室に笑いが起きた。俺も笑った。久々にちゃんと笑った気がした。
「シンクロし過ぎですよお、やっぱ文芸部の人ってキャラ立ってて面白いですねえ」
女子が笑いながら言う。
「なんか、一年前にもこういうこと、なかったっけ?」
俺が言う。
季節は回った。外はもう桜が咲いている。俺たちは一つ、歳をとった。でも俺たちは、ただやみくもに生きて来た訳では無い。俺たちは必ずどこかへちょっとずつ移動している。俺たちは新入生を迎えるべく、部活の勧誘ポスターを作った。絵は下手なので、俺はパソコンをなんとか駆使して作り上げた。前面に鈴木(桜木ヒカル)が部にいることと、ビブリオバトルで全国大会に出場したことをこれでもかと押し出すポスターにした。伊月はノリノリでそのポスターを印刷していたが、目立つことが嫌いな鈴木は少しだけ抵抗感を示していた。
案の定、鈴木を大々的に祭り上げたポスターの効果は抜群だった。一年のみならず、二年や三年も部室を覗きに来た。部活勧誘期間は一週間ほどあったが、生徒がかわるがわる鈴木を見に来た。その度に鈴木は、俺や伊月の後ろに隠れようとした。巣の中でしか生きられない小動物みたいに、鈴木は怯えていた。俺はだんだん冷やかしの連中にイライラしてきた。勧誘してから三日目、ついに俺は本音を新入生たちに話すことを決めた。
「鈴木は小さいころから毎日のように小説書いてるし、俺らも目標も見つけて、頑張って、でも楽しく本を読んでるんだよね。あんまり本に興味が無いなら、ここに来るのはやめて欲しいな」
一年相手に、俺は言ってしまった。なるべく怒らないで、笑顔で言うように心掛けたつもりだったが、いかんせん俺の見た目は優等生とはかけ離れているので、ちょっとビビらせてしまったみたいだ。それからはあまり冷やかしの連中が来なくなった。伊月は
「別に注目されたり話題になること自体は悪くないのに、やっちゃったねえ」と笑っていた。俺の行動を非難しつつも、どこか優しい口調な気がした。とは言え、軽い気持ちで入部してくれそうな子が敬遠してしまった恐れもあるかもしれない。
「まあ、本が好きなら誰でも入部希望だよ」伊月が新入生たちに優しく言う。当の鈴木は何も言わない。ただ黙々と自分の作業に没頭していて、我関せずだった。
「とりあえず来週からは入部できるし、明日は最後の新入生掻き入れ時ってことで、お茶会でもやらないか?」伊月が提案する。
「そうだな、本当に本が好きな奴がいれば、俺も話してみたいしな。明日はお菓子でも持ち寄って、みんなで食べるか」
「お菓子……」鈴木の気持ちが少しだけ動いた。
「じゃ、お菓子持ってくるか。早速、ポスター書くぞ。放送委員に言って、宣伝もしてもらおう」伊月が紙とマジックを取り出す。
「え、明日やるんだろ?間に合わな」
伊月が満面の笑みで俺の肩を叩く。
「今から放送室に行ってくる!お前は手書きでいいから簡単なポスターを作っておいてくれ!それじゃあ!」こういう時の伊月は早い。つくづく、奴の行動力には驚かされる。伊月は振り返るともういなかった。
「すごいなあ、鈴木君は。有言実行だねえ」鈴木がしみじみ言う。
「俺、ポスターのレイアウト考えるよ。鈴木の方が字がきれいだから、手伝ってくれない?」
「あ、いいよ。一緒にポスター作ろうか。」鈴木が笑った。久々にこいつの笑顔を見た気がした。
翌日の金曜日、伊月の宣言通り、文芸部でお茶会を行うことが昼休みに放送された。正確には、伊月が書いた原稿をそのままそっくり俺が読み上げた。
「というわけで、放課後お待ちしております。お菓子もあるので皆さん気軽に来てください」
「文芸部部長、日向君でした、ありがとうございました」
俺は放送が終わってからも心臓が止まらなかった。全く練習無しのぶっつけ本番だったが、何とか乗り切ることが出来た。終わった後、後ろで見ていた伊月が拍手した。
「よかったぞ」
「お前といると心臓縮むわ」
「何、これくらいで縮むか」
「なんか、文芸部って楽しそうですねー、いっつも三人で一緒にいますし」放送委員のはきはき喋るキノコ頭の女が俺に言う。
「それに、大会とか出てるんですよね?今年で部活を立ち上げて全国ですし。すごいですよねえ」
「あ、まあ……。」俺は何て返せばいいのかわからない。
「全国に一応行ったけど、俺、何も結果残せなかったから」
「私たちも全国高校放送コンクールっていう大会があるんですよ。負けてられませんね」
「そうそう、隣の北条高校が毎回全国の常連でさ。俺たちも負けてらんないわな」太いフレームの眼鏡をかけた男が、機材を片付けながら言う。
「応援しています」俺はいつになく緊張して言った。
「俺も今年は優勝します」
「おお、格好いい」放送部の女子が言う。
「まずは俺に勝てよ」後ろで見守っていた伊月が茶々を入れる。
「お前には余裕で勝てるっつうの。俺は去年から読書領域広げて来たし」
「俺だって何もしてないわけじゃねえから」
「相変わらず仲良いですねえ」と、放送女子が言う。
「「よくねえよ」」声がハモる。一瞬の間の後、放送室に笑いが起きた。俺も笑った。久々にちゃんと笑った気がした。
「シンクロし過ぎですよお、やっぱ文芸部の人ってキャラ立ってて面白いですねえ」
女子が笑いながら言う。
「なんか、一年前にもこういうこと、なかったっけ?」俺が言う。
季節は回った。外はもう桜が咲いている。俺たちは一つ、歳をとった。でも俺たちは、ただやみくもに生きて来た訳では無い。俺たちは必ずどこかへちょっとずつ移動している。それでも、変わらないものは変わらない。
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