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季節は巡るが何も変わらないわけでは無い 3
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変わるものは変わる。
放課後に部室に行くと、既に十人ほどの一年生が集まっていた。女子が多く、男子は二人しかいなかった。俺たちは持ち寄ったお菓子を紙皿に入れ、一年生に配った。
「じゃあ、簡単に自己紹介からするか。あ、途中退室は全然オーケーだから」
伊月が皆に聞こえるように言う。
「じゃ、お前から」
俺は背中を叩かれる。
「えっと、二年部長の日向です。本が好きで、本の知識だけはクソみたいにありますが、勉強はそんなに得意じゃありません。好きなジャンルは海外古典作品で、尊敬する作家はトルストイです。海外文学が好きな人が来てくれたら、それか部活に入って海外文学に目覚め得くれる人がいたら嬉しいです。宜しくお願いします」
ぱちぱちと拍手が起こった。一年の目は輝いている。この前まで中学生だったんだな、こいつら。
「じゃあ次は俺、二年副部長の伊月です。海外作品から、日本の作品まで幅広く読みます。好きな作品はたくさんありますが、社会学や哲学、心理学とかの評論にも興味があります。宜しくお願いします」
ぱちぱちと拍手が起こる。堂々した喋り方は、俺以上に部長らしい。
最後に、一人の人間に視線が集中する。一年の殆どは、鈴木目当てでここに来ているのだろう。そうでなくても、どこかで鈴木に期待しているのだろう。ポスターの効果は絶大だったらしい。鈴木は諦めたように立ち上がる。
「えっと、二年の、平部員の」
「エース頑張れ」
伊月が茶々を入れる。
「二年の、鈴木光です(鈴木の顔が赤くなった)。桜木ヒカルって名前で小説を書いています。それくらいしか能がありません。日向君みたいな小説の知識もないし、伊月君みたいな話術も特にありません。でも、小説を書くのはとても楽しくてやめられません。今年の目標は、もう一度賞を取って本を出版することです。宜しくお願いします」
鈴木が頭を下げると、盛大な拍手が起こった。俺も伊月も便乗して、大げさに拍手した。
「さすが、小説家!」
俺も加勢する。
「エース! エース!」
伊月も盛り上げようと一子だったが、鈴木自身はどうすれば良いのかわからないと言うように目を泳がせながら椅子に座った。
ひとしきり拍手が終わったところで、伊月が俺に言う。
「じゃあ、普段の活動について話すか」
俺はそれを受けて、説明を始める。
「基本的に、放課後は毎日ここの図書館の休憩スペースで活動している。時間の強制は無し。毎日六時半くらいに切り上げるかな。試験が近くなれば、勉強している時もあるけどね。なんせこの伊月君が天才なんで」
俺は伊月を指さす。
「日向は国語の天才だけどな」
俺はスルーする。
「活動内容としては、本を読んだり、小説を書いたり、ビブリオバトルに出たりかな。ちなみに、今年は絶対に全国で優勝しようと思っています。この全国大会は冬に行われるけど、定期的に本屋や市で開催されているから、腕試しにちょくちょく顔出す予定です。けど、基本的に自由参加ね。あと、文芸のコンクールがあればそれに的を絞って作品を出したりかな。今まで結構作品は作って来たけど、去年の鈴木の一作以外は実は全く賞が取れなかったし、今年はもっと賞に貪欲になろうかな、って考えています。まあだいたいこんな感じ。基本的に個人のペースで活動するけど、お互い必要な時は協力し合うって感じかな。伊月、何か俺、言い忘れてることある?」
「無い。完璧」
「そっか。じゃあ、何か新入生から、質問有る?」
三つ編みの女の子が手を挙げた。体は細く背は高い。目がきりっとしていて美人と言えるだろう。
「小説は一人で書くんですか?」
「今までは基本的に鈴木が一人で書いていました。俺と伊月がそれを読んで、修正したり、一緒にアイディアを出し合っていました」
「誰かと作品を作ることもありますか?」
「可能ならばやってみても面白いかもしれませんが、今のところそういう予定はないです。鈴木、伊月はどう思う?」
「うーん、俺はビブリオと、今年は弁論大会にも出たいし、そっちに集中しようかな」
「鈴木は?」
「私はまだ、去年出したアイディアが消化しきれていないから、当分は一人で作業するかもしれないかな……」
「とまあ、こんな感じで、俺らは独立独歩っていうか、それぞれが目標を勝手に自分で見つけて努力するスタイルなんだよね。でも、悪くないと思う。複数で小説を考えてみるのも面白い試みだと思う。次の質問は?」
「兼部は可能ですか?」
見るからに利発そうな眼鏡の男子が質問する。
「可能です。現にここにいる伊月は生徒会にも入っています。俺たちの活動は基本的に自己責任だし、本人が無理のない程度であれば掛け持ちをしてもらっても全く構いません。次は?」
「大会に出なくても、本を読んでいるだけでもいいですか?」
おかっぱの子が間髪を入れず言う。
「全然大丈夫です。基本的に俺も本を読んでばかりいるので。でも、誰かに自分の好きなことを広めてみたらもっと面白いかもしれませんよ。他に質問は有りますか?」
ショートボブの、たれ目の女の子が手を挙げた。
「鈴木さんに質問します。どうやったら小説が書けるようになりますか?」
この部屋の視線が一気に鈴木に集中した。本当のことを言うと、皆鈴木の才能の秘密を知りたがっていたのだ。この部屋の温度が高くなったような気がした。俺は鈴木の言葉を待った。
「うーん……」
鈴木は長考した。答えまでの時間が長い程、一年の期待は高まる。
「正直、わかんないです。子供のころから作家になりたくて、ずっと話を書いてきたし、なんとなくおもしろいなあと思うことがあれば小説にしちゃいます」
「アイディアが無くなることは無いんですか?」
たれ目の子がさらに質問する。
「今のところは、手が追い付いていない状態です」
へえーっと思わず一年生から声が漏れる。少しだけ場がざわざわし始めた。
「何か他に質問は有りますか?」
俺は声を張り上げる。
別の男の子が手を挙げた。目が丸くて、元気そうな子だ。
「鈴木さんに質問します。何か小説を書くときに気を付けていることはありますか?」
「うーん……、あるのかもしれないし、ないかもしれない。細かい事を言えばたくさんあるかもしれませんが、特に気を付けていることはありません。私は自分のやりたいように、書きたいことを書いているので……」
また少しだけ、部屋がざわつく。誰もお菓子に手を付けない。一年はやはり、作家としての鈴木に興味津々なだけなのかもしれない。俺は少しだけうんざりした気分になった。
「質問が無いのなら、一旦終わり。あと、残りたい人は残って、自由に本を読むなりお菓子を食べるなりして下さい。本の話をしたい人もまだまだ質問がある人も是非残って下さい。解散」
部屋はまだざわざわしていた。十人以上いた新入生は半分ほど減り、半分は部屋に残った。
「俺、先輩の作品読みましたよお」
背の高い元気そうな男子が鈴木に言った。目が輝いていて、日本犬のような顔つきをしている。
「俺普段、そんなに本とかは読まないんです。特定の作家しか読まなくて。でも、先輩の本は読みやすかったし、一晩で読んじゃいました。高校入学して、あの本を書いた人がいるなんてめっちゃびっくりしました」
鈴木は不意を突かれたように、吃驚した顔をした。鈴木の動作が止まる。
「ありがとう」
小さな声で鈴木が言う。
「先生って呼んでいいですか?」
日本犬のような目をして彼が言う。
「え? うーん」
他の一年生も鈴木の発言に注目していた。
「有名人だな」
伊月が笑う。
「俺のポスター効果かな」
放課後に部室に行くと、既に十人ほどの一年生が集まっていた。女子が多く、男子は二人しかいなかった。俺たちは持ち寄ったお菓子を紙皿に入れ、一年生に配った。
「じゃあ、簡単に自己紹介からするか。あ、途中退室は全然オーケーだから」
伊月が皆に聞こえるように言う。
「じゃ、お前から」
俺は背中を叩かれる。
「えっと、二年部長の日向です。本が好きで、本の知識だけはクソみたいにありますが、勉強はそんなに得意じゃありません。好きなジャンルは海外古典作品で、尊敬する作家はトルストイです。海外文学が好きな人が来てくれたら、それか部活に入って海外文学に目覚め得くれる人がいたら嬉しいです。宜しくお願いします」
ぱちぱちと拍手が起こった。一年の目は輝いている。この前まで中学生だったんだな、こいつら。
「じゃあ次は俺、二年副部長の伊月です。海外作品から、日本の作品まで幅広く読みます。好きな作品はたくさんありますが、社会学や哲学、心理学とかの評論にも興味があります。宜しくお願いします」
ぱちぱちと拍手が起こる。堂々した喋り方は、俺以上に部長らしい。
最後に、一人の人間に視線が集中する。一年の殆どは、鈴木目当てでここに来ているのだろう。そうでなくても、どこかで鈴木に期待しているのだろう。ポスターの効果は絶大だったらしい。鈴木は諦めたように立ち上がる。
「えっと、二年の、平部員の」
「エース頑張れ」
伊月が茶々を入れる。
「二年の、鈴木光です(鈴木の顔が赤くなった)。桜木ヒカルって名前で小説を書いています。それくらいしか能がありません。日向君みたいな小説の知識もないし、伊月君みたいな話術も特にありません。でも、小説を書くのはとても楽しくてやめられません。今年の目標は、もう一度賞を取って本を出版することです。宜しくお願いします」
鈴木が頭を下げると、盛大な拍手が起こった。俺も伊月も便乗して、大げさに拍手した。
「さすが、小説家!」
俺も加勢する。
「エース! エース!」
伊月も盛り上げようと一子だったが、鈴木自身はどうすれば良いのかわからないと言うように目を泳がせながら椅子に座った。
ひとしきり拍手が終わったところで、伊月が俺に言う。
「じゃあ、普段の活動について話すか」
俺はそれを受けて、説明を始める。
「基本的に、放課後は毎日ここの図書館の休憩スペースで活動している。時間の強制は無し。毎日六時半くらいに切り上げるかな。試験が近くなれば、勉強している時もあるけどね。なんせこの伊月君が天才なんで」
俺は伊月を指さす。
「日向は国語の天才だけどな」
俺はスルーする。
「活動内容としては、本を読んだり、小説を書いたり、ビブリオバトルに出たりかな。ちなみに、今年は絶対に全国で優勝しようと思っています。この全国大会は冬に行われるけど、定期的に本屋や市で開催されているから、腕試しにちょくちょく顔出す予定です。けど、基本的に自由参加ね。あと、文芸のコンクールがあればそれに的を絞って作品を出したりかな。今まで結構作品は作って来たけど、去年の鈴木の一作以外は実は全く賞が取れなかったし、今年はもっと賞に貪欲になろうかな、って考えています。まあだいたいこんな感じ。基本的に個人のペースで活動するけど、お互い必要な時は協力し合うって感じかな。伊月、何か俺、言い忘れてることある?」
「無い。完璧」
「そっか。じゃあ、何か新入生から、質問有る?」
三つ編みの女の子が手を挙げた。体は細く背は高い。目がきりっとしていて美人と言えるだろう。
「小説は一人で書くんですか?」
「今までは基本的に鈴木が一人で書いていました。俺と伊月がそれを読んで、修正したり、一緒にアイディアを出し合っていました」
「誰かと作品を作ることもありますか?」
「可能ならばやってみても面白いかもしれませんが、今のところそういう予定はないです。鈴木、伊月はどう思う?」
「うーん、俺はビブリオと、今年は弁論大会にも出たいし、そっちに集中しようかな」
「鈴木は?」
「私はまだ、去年出したアイディアが消化しきれていないから、当分は一人で作業するかもしれないかな……」
「とまあ、こんな感じで、俺らは独立独歩っていうか、それぞれが目標を勝手に自分で見つけて努力するスタイルなんだよね。でも、悪くないと思う。複数で小説を考えてみるのも面白い試みだと思う。次の質問は?」
「兼部は可能ですか?」
見るからに利発そうな眼鏡の男子が質問する。
「可能です。現にここにいる伊月は生徒会にも入っています。俺たちの活動は基本的に自己責任だし、本人が無理のない程度であれば掛け持ちをしてもらっても全く構いません。次は?」
「大会に出なくても、本を読んでいるだけでもいいですか?」
おかっぱの子が間髪を入れず言う。
「全然大丈夫です。基本的に俺も本を読んでばかりいるので。でも、誰かに自分の好きなことを広めてみたらもっと面白いかもしれませんよ。他に質問は有りますか?」
ショートボブの、たれ目の女の子が手を挙げた。
「鈴木さんに質問します。どうやったら小説が書けるようになりますか?」
この部屋の視線が一気に鈴木に集中した。本当のことを言うと、皆鈴木の才能の秘密を知りたがっていたのだ。この部屋の温度が高くなったような気がした。俺は鈴木の言葉を待った。
「うーん……」
鈴木は長考した。答えまでの時間が長い程、一年の期待は高まる。
「正直、わかんないです。子供のころから作家になりたくて、ずっと話を書いてきたし、なんとなくおもしろいなあと思うことがあれば小説にしちゃいます」
「アイディアが無くなることは無いんですか?」
たれ目の子がさらに質問する。
「今のところは、手が追い付いていない状態です」
へえーっと思わず一年生から声が漏れる。少しだけ場がざわざわし始めた。
「何か他に質問は有りますか?」
俺は声を張り上げる。
別の男の子が手を挙げた。目が丸くて、元気そうな子だ。
「鈴木さんに質問します。何か小説を書くときに気を付けていることはありますか?」
「うーん……、あるのかもしれないし、ないかもしれない。細かい事を言えばたくさんあるかもしれませんが、特に気を付けていることはありません。私は自分のやりたいように、書きたいことを書いているので……」
また少しだけ、部屋がざわつく。誰もお菓子に手を付けない。一年はやはり、作家としての鈴木に興味津々なだけなのかもしれない。俺は少しだけうんざりした気分になった。
「質問が無いのなら、一旦終わり。あと、残りたい人は残って、自由に本を読むなりお菓子を食べるなりして下さい。本の話をしたい人もまだまだ質問がある人も是非残って下さい。解散」
部屋はまだざわざわしていた。十人以上いた新入生は半分ほど減り、半分は部屋に残った。
「俺、先輩の作品読みましたよお」
背の高い元気そうな男子が鈴木に言った。目が輝いていて、日本犬のような顔つきをしている。
「俺普段、そんなに本とかは読まないんです。特定の作家しか読まなくて。でも、先輩の本は読みやすかったし、一晩で読んじゃいました。高校入学して、あの本を書いた人がいるなんてめっちゃびっくりしました」
鈴木は不意を突かれたように、吃驚した顔をした。鈴木の動作が止まる。
「ありがとう」
小さな声で鈴木が言う。
「先生って呼んでいいですか?」
日本犬のような目をして彼が言う。
「え? うーん」
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