それでも日は昇る

阿部梅吉

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たとえ何もできなくてもそこにいるだけで価値がある 2

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そうだ。

彼女のあの言葉に、俺は救われてしまったのだ。

俺は無意識に、人には何かしらできないと価値がないと思い込んでいた。
だから必死に俺は何かを探し、もがいていた。
もがいた結果、鈴木みたいにうまく小説が書けたわけじゃないし、伊月みたいに堂々としゃべれるようになったわけでもない。
でもだからと言って、俺が小説を書いたことやビブリオバトルに出たことが全く無駄になったかと言うと、そうではないはずだ。俺自身の自信にもなったし、後輩に指導できるようにもなった。人と関わることがこんなにも楽しいことだと教えてくれたのは、あいつらで、頑張ったのは俺だ。もがいたのは俺自身だった。

 そのことにやっと気づかせてくれたが優理愛だった。なんでそんな簡単なことに気付かなかったのだろう。俺も、あの『老人と海』の老人のように迷いながらも踏ん張っていたのだ。

 「あ、ああ」

俺はあの言葉を聞いた瞬間、泣きそうになった。でもそれを悟られないように、俺は目つきを普段より一段と悪くした。

「別に何ができなくても、人には価値があると思うのよ、私は。ほら、『戦争と平和』の最期らへんで、ピエールが出会った捕虜が言っていたでしょう?『何もかもに、誰もかれもに何かしら意味がある』って。だから死ぬことを悲しんではいけないですし、少なくとも生きているいるうちは自分を全肯定した方がいいと思いません?」

優理愛はすらすらと言う。やっぱり文学の話になるとしゃべれるんだな。

「そうだな、合理的だな」

俺は鼻をずず、とすすった。

「そうでしょう?」

彼女は得意げになっていった。その笑顔がまたどこか上品だが、幼さも垣間見えて魅力的だ。

「合理的な世の中になるととても生きやすいと思うの」

「なるほど」

彼女の言うことはわかるようでわからなかった。要するに俺と付き合いたいということらしいが、それをこんなにも回りくどく言う女子は他にいないだろう。

「じゃあ、そういう風に生きよう」

そんなふうにして、俺はあいつの彼氏になり、あいつは俺の彼女になった。
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