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何に於いても変わることは避けられない 1
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と言っても、俺たちは今までとそんなにやることには変わりなかった。
お互いに連絡し、何の本を読んだとか、勉強がかったるいだの、かわいい服を買ったから見てほしいだの(女子はよく自分の服を写真に撮るのだろうか?それとも優理愛だけなのだろうか?)他愛のないことを連絡し合った。時間のある夜には電話した。
それでも、一般的な付き合いのある異性同士が行う会話とは少し俺たちの場合違っていた。好きだよ、愛しているよ、とは言わない。ただお互いがお互いを尊敬していたし、魅力的だと感じていた。その点に相違はなかったと思う。そういう意味では、普通の中高生とはいささか変わった恋愛を行っているのかもしれない。
「やっぱりか」
俺は伊月に事の顛末を話した。
「でも、付き合っているって言っても、そんな恋愛的な感情とはまた違うんだ」
俺は説明する。
「なんか、お互いがお互い刺激になっているっていうか、リスペクトしている感じなんだ」
「まあ、でも付き合ったことには変わりないだろう」
伊月が俺の方をポンポンと叩く。
「まあ、そうだけど」
「お祝いしなきゃ、だな。今日は二人で帰るぞ」
「わかったって。いちいちうるせえな。お前は何もないのかよ」
「この前、生徒会の子に告白されたが断ったよ」
「うっわあああ、隠していやがったんだ。そんなこと。ずっる」
「何がずるい。別に聞かれなかっただけだろう」
などと侃々諤々言い合った。
代替わりしてから文芸部の活動に毎日顔を出すことはなくなっていた。俺はいくつか文芸賞と一つの出版社の候補を出し、持ち込みのアポイントメントを取った。
そろそろ俺は本気で予備校に通うことを考えていた。伊月の力を頼るのも良いが、もう少し効率的にすぐに質問のできる環境が欲しかったし、英語の対策にももう少し力を入れてみたかった。模試では現代文がほとんど上位の成績だったが、俺はそれ以外、からきしだった。数学に至っては模試で百点満点中五点をたたき出し、教師から呼び出しを食らった。現代文の成績だけは抜群に良かったため笑われた程度で済んだのだが、教師も半ば俺の理系科目の散々な結果を諦めているようで、一言、
「お前は私立大学志望だよな?」
と言った。
それしか選択肢はなかった。
「はい」
そう言うしかない。
俺はその日、優理愛に成績のことを相談した。
【何かいい手はないかなあ】
【私がわかる範囲でなら、勉強を教えるけれど】
と連絡が来る。やはり思った通り、優理愛は頭がいいらしい。
【私が中学三年のころに通っていたS予備校はとても面白いところだったけれど】
駄目だ、話にならない。勉強を「面白い」なんて軽々しく言うやつと俺とでは次元が違い過ぎる。
【わかった】
それでも無料見学ができるらしく、俺はそこに行くことにした。行くだけタダなんだし。俺は鈴木も誘った。
「私はどうしよう、家庭教師つけようかな」
鈴木も成績のことで悩んでいるらしい。散々迷っていたが、結局俺と二人で見学に行くことになった。土曜日の十三時から英語の授業があるから、それをまず見に行って決めてみようとのことだった。
土曜日に折れた鈴木は駅で落ち合ってその塾に行った。すると、壁に見慣れた文字が張ってあった。模試成績上位者が乗っている紙が壁に貼られていたのだが、そのある一点に俺はくぎ付けになった。
有栖川優理愛。
何と二年生ながら、昨年の模試の成績上位者に載っていたらしい。俺は驚愕した。
すかさず俺はそれを写真に撮り、優理愛に連絡する。
【お前成績上位者だったのか?】
「何やっているの?」
と鈴木が言った。
びっくりした。俺は携帯に夢中で、隣の鈴木の存在を輪捨てかけていた。
「いや、知り合いが成績上位者にいたもんで、びっくりしちゃって、思わず写真撮っちゃった」
「へえ、すごいね。その人に勉強教えてもらえないかなあ。私、その人にならお金払ってもいいけど」
「あ……うん、聞いてみようかな、そうしたら」
俺たちはエレベーターに二人で乗った。俺に彼女ができたことを言おうか岩間いか迷っていたが、隠すことでも無いと思って俺は言うことにした。エレベーターが着いた。その瞬間、人が入ってきて、俺たちの声はかき消されてしまった。
予備校の授業は確かにわかりやすかった。後で先生の話を個別に聞きに行き、質問のしやすさなどを聞いた。授業の合間合間には質問もできるし、大学生以上がサポートに入る「チューター制度」を設けているらしく、先生でなくてもそちらに質問をしに行くことが可能だそうだ。俺はその説明を聞きながら、頭のどこかで優理愛に勉強を教わるのとどちらがいいのかを考えていた。
お互いに連絡し、何の本を読んだとか、勉強がかったるいだの、かわいい服を買ったから見てほしいだの(女子はよく自分の服を写真に撮るのだろうか?それとも優理愛だけなのだろうか?)他愛のないことを連絡し合った。時間のある夜には電話した。
それでも、一般的な付き合いのある異性同士が行う会話とは少し俺たちの場合違っていた。好きだよ、愛しているよ、とは言わない。ただお互いがお互いを尊敬していたし、魅力的だと感じていた。その点に相違はなかったと思う。そういう意味では、普通の中高生とはいささか変わった恋愛を行っているのかもしれない。
「やっぱりか」
俺は伊月に事の顛末を話した。
「でも、付き合っているって言っても、そんな恋愛的な感情とはまた違うんだ」
俺は説明する。
「なんか、お互いがお互い刺激になっているっていうか、リスペクトしている感じなんだ」
「まあ、でも付き合ったことには変わりないだろう」
伊月が俺の方をポンポンと叩く。
「まあ、そうだけど」
「お祝いしなきゃ、だな。今日は二人で帰るぞ」
「わかったって。いちいちうるせえな。お前は何もないのかよ」
「この前、生徒会の子に告白されたが断ったよ」
「うっわあああ、隠していやがったんだ。そんなこと。ずっる」
「何がずるい。別に聞かれなかっただけだろう」
などと侃々諤々言い合った。
代替わりしてから文芸部の活動に毎日顔を出すことはなくなっていた。俺はいくつか文芸賞と一つの出版社の候補を出し、持ち込みのアポイントメントを取った。
そろそろ俺は本気で予備校に通うことを考えていた。伊月の力を頼るのも良いが、もう少し効率的にすぐに質問のできる環境が欲しかったし、英語の対策にももう少し力を入れてみたかった。模試では現代文がほとんど上位の成績だったが、俺はそれ以外、からきしだった。数学に至っては模試で百点満点中五点をたたき出し、教師から呼び出しを食らった。現代文の成績だけは抜群に良かったため笑われた程度で済んだのだが、教師も半ば俺の理系科目の散々な結果を諦めているようで、一言、
「お前は私立大学志望だよな?」
と言った。
それしか選択肢はなかった。
「はい」
そう言うしかない。
俺はその日、優理愛に成績のことを相談した。
【何かいい手はないかなあ】
【私がわかる範囲でなら、勉強を教えるけれど】
と連絡が来る。やはり思った通り、優理愛は頭がいいらしい。
【私が中学三年のころに通っていたS予備校はとても面白いところだったけれど】
駄目だ、話にならない。勉強を「面白い」なんて軽々しく言うやつと俺とでは次元が違い過ぎる。
【わかった】
それでも無料見学ができるらしく、俺はそこに行くことにした。行くだけタダなんだし。俺は鈴木も誘った。
「私はどうしよう、家庭教師つけようかな」
鈴木も成績のことで悩んでいるらしい。散々迷っていたが、結局俺と二人で見学に行くことになった。土曜日の十三時から英語の授業があるから、それをまず見に行って決めてみようとのことだった。
土曜日に折れた鈴木は駅で落ち合ってその塾に行った。すると、壁に見慣れた文字が張ってあった。模試成績上位者が乗っている紙が壁に貼られていたのだが、そのある一点に俺はくぎ付けになった。
有栖川優理愛。
何と二年生ながら、昨年の模試の成績上位者に載っていたらしい。俺は驚愕した。
すかさず俺はそれを写真に撮り、優理愛に連絡する。
【お前成績上位者だったのか?】
「何やっているの?」
と鈴木が言った。
びっくりした。俺は携帯に夢中で、隣の鈴木の存在を輪捨てかけていた。
「いや、知り合いが成績上位者にいたもんで、びっくりしちゃって、思わず写真撮っちゃった」
「へえ、すごいね。その人に勉強教えてもらえないかなあ。私、その人にならお金払ってもいいけど」
「あ……うん、聞いてみようかな、そうしたら」
俺たちはエレベーターに二人で乗った。俺に彼女ができたことを言おうか岩間いか迷っていたが、隠すことでも無いと思って俺は言うことにした。エレベーターが着いた。その瞬間、人が入ってきて、俺たちの声はかき消されてしまった。
予備校の授業は確かにわかりやすかった。後で先生の話を個別に聞きに行き、質問のしやすさなどを聞いた。授業の合間合間には質問もできるし、大学生以上がサポートに入る「チューター制度」を設けているらしく、先生でなくてもそちらに質問をしに行くことが可能だそうだ。俺はその説明を聞きながら、頭のどこかで優理愛に勉強を教わるのとどちらがいいのかを考えていた。
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