鬼の宴

さかばんばすぴす

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鬼の宴

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~●◯●~
木々の音でもカラスの声でもない。
ざわめきが耳を伝う。
自分より大きな…いや、普通の男より大きな『なにか』が自分たちの周りを歩いていた。
まるで異形のような、到底理解が及ばない声を上げて何かを呑んている。
江戸の街、又は神社の典型的な屋台のようなものが辺り一面に広がり、
赤いような行燈の光が近くを照らした。
『何か』は幸い自分たちには気づいていないらしく自分たちの話に夢中になっている
右にはくるるがいて、同じように観察しているようだ。

あれ?

「!!くとは?」
「喋ったと思ったら一番それかよ」

驚くほど冷静にくるるはツッコミをいれる。

「くとがいない理由はわからないが、取りあえずここを抜けたほうがいい…ッ」

瞬間、太鼓の音が響く。

一斉に群衆が動き出す。
ほとんどが長身で図体もでかいから瞬く間に流されてしまう。
やば、このままだとくるるとも別れてしまう!!
というかここどこだよ!!おれら鳥居をくぐっただけなのに!!
必死に手を出す、しかし触れるだけで届くことがない。
くるるのことが見えなくなりそうだ。
最大限に手をだす。
もう少し…もう少し…!!
掴んだ!!

「…餓鬼が何してんだよ!!」
「へ?」

くるるをつかんだはずの手は違う人の手を掴んだらしい。
あっけなくふり倒される。
さっきまで群衆で見えなかった顔がこっちを向けられる。
少なくとも、人の顔ではなかった。
ゴツい肌に特徴的な二本の角。
まるで阿修羅のような…いや鬼、といったほうが正確なのか?
よく見ると近くの人だと思っていたものは全て額に角がついており、
肌の色も、目の色も、人間の『ソレ』ではなかった。
彼は顔を赤く染めて『鬼殺し』を呑んでいる。
というか、呑まれている、酒に。
いや、鬼殺しを鬼が飲んでいいのか?
違う!そんなことよりこの場から逃げ出さないと!!
「ここはなあ?清く正しいちゃんとした鬼になってからくるとこだ!さっさと帰…」
そこまで言うとふと、無言になる。
「え…あ、あの…」
少し気まずくなって口を出すと、まて、と言葉を遮られる。
「お前…もしかして、」
少しわかった気がする。
もし、こいつが、本当に鬼だったら、
自分の種族は、たべられる側なのか??
「人間か?」
一目散に逃げ出す。
人間と言っているもんだか、それ以外に対処法が見当たらない。
口も回るわけではないし!!心理戦なんてむり!!!
後ろからおい!!と予想:鬼、が走ってくる。
なるべく天然の迷路の中を走る。
図体がでかいアイツはこんな小回りがきかないだろうし。
ある程度走ると声が聞こえなくなる。
どうやら巻けたようだ。
全速力で走ったからか息が切れる。

どうせならくるるもさがせばよかった。
というかそもそもないくとはどこにいるんだよ…

考えがまとまらない。お先真っ暗すぎる。

「この顔ががにげたやつか?」
「あ、はい!そうです!」
「まあ、よくあるか、ひびってにげるなんて、」
「実際こいつが例外なだけで大体はパニックになるぞ。」
「…」

すぐに見えにくい場所に移動し
次を考えるため息をつき、汗を拭った。
瞬間、額にある違和感のある凹凸に気がつく。

「え」
声がこぼれる。
そこにあったのは…
まるであいつのような…

「お、いた。」

後ろから声がする。
やば、
そう思ったときには猫のようにうなじあたりの着物の布を掴まれていた。

「はっけ~ん、お縄につけよ餓鬼め…って」



「こいつ…半対かよ…」

半対の意味がわからないが、たぶん、このことだろう。
額には現実逃避したいほどの代物、鬼の角がついていた。

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