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epilogue
II. Guardians of Gaia
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表ではツキが調停官を待っていた。
「昼の面」の街並みは明るく生気に満ちていた。
建物のかたちや数は宵闇通りとたいして変わらないように見えるが、陽のあたり方や街行く人々の表情でこれほど景観に違いが出るのかといつも驚かされる。
「お疲れさま、どうだった?」
キャットピープルのツキは、猫耳と尻尾を隠せば、姿は人間とほとんど変わらない。
見た目は若いが、先代のときからもう何十年も調停官の雑用をこなしていた。
「べつにどうも……いつもとおなじ。サードエルディアスの出現には驚いていたみたいだけど」
「昼の面」に付き添うのはもっぱらツキの役目である。
ヴァンパイアのヨルはもとより、ワーウルフのシンラも人間の多い「昼の面」には出てこない。
シンラは出てこれないわけではなかったが、『ウィンドトーカー』という部族柄、街の喧噪を好まないのだ。
逆にガルシアのようにあえて人混みにまぎれてゆく部族もいる。
そして他にも人間に対して友好的な部族があった。
「こんにちは!」
ツキの背後から少女が顔を出した。
物怖じしない勝ち気な瞳が興味深そうに調停官を見つめていた。
「あなたは……?」
「アレクサンドラ・キッチンよ。『クシー』でいいわ」
名前だけ聞いても何者でなんの用があるのかさっぱりわからない。
ただ、「人間」ではないようである。
サディは差し出された手を握りながらツキを見たが、ツキもよくわからないといった表情をしている。
「あなたが戻ったら説明するって言ってたから……場所が場所だし、『中』で説明があったのかと」
「中」とは、いまサディが居た会議室のことである。
サディがなにも聞いてないと首を振ると、少女は「委員会とは関係ないわ。まあ、道々説明するから」と言って勝手に歩きだした。
宵闇通りに戻るとヨルとシンラが待っていた。
「ワーウルフだな」
シンラが少女を見るなり言った。
「部族は?」
「『ガーディアンズ・オブ・ガイア』よ」
「『大地の守護者たち』か」
『ガーディアンズ・オブ・ガイア』は「ガイア(大地)の守護者」と呼ばれるだけあって、大自然に深く根ざし、決して争いを起こさないもっとも温厚な部族と言われていた。
その穏健派の部族が、この不穏な地域に現れたのはなぜか?
「なんだか騒がしいからちょっと様子を見てこいって言われたのよ」
「調査してこいってこと?」
「長はただ、見て感じたことを教えてくれればいいって言ってたわ」
「本当にそれだけ?」
ツキが疑わしそうな目で見る。
「本当よ。だから、しばらくこちらにご厄介になってもいいかしら」
少女は屈託の無い声で言った。
本当に『ガイアの守護者』ならとくに危険はないだろうということで一同意見は一致した。
少女の件が落ち着くと、話は委員会のことに移った。
「フレイヤ様も言っていたけど、委員会には調停官にも教えられない『機密』があるみたいね」
「身体張ってるのはこっちだろう。なんのために戦ってなんのために死ぬのか、理由は大事だぜ」
「下っ端は理想も信念も持たず、ただ『任務』に死ぬべき、か」
ヨルとシンラは現在の調停官のことが本当に気に入っていたのでぞんざいな扱い方に不平を唱えたが、それを本人に言っても仕方のないことであることは十分わかっていた。
だから余計に気分が悪かった。
「なんだかあたし場違いなとこに来ちゃったみたいね……」
本来、陰謀とも殺戮とも縁のない部族である『ガーディアンズ・オブ・ガイア』のクシー・キッチンは、街の雰囲気も含めたここの空気の重さにため息をついた。
「この街に場違いなものなどいないわ」
若き調停官は少女のほうを向いて言った。
「光が強くなれば、影もまた濃くなっていくもの。でもここは黄昏の街。光と闇が曖昧な街。そして、誰もあなたの存在に異議を唱えることのない街よ」
それがこの街のたったひとつの良いところだ、と。
Ouroboros
END
「昼の面」の街並みは明るく生気に満ちていた。
建物のかたちや数は宵闇通りとたいして変わらないように見えるが、陽のあたり方や街行く人々の表情でこれほど景観に違いが出るのかといつも驚かされる。
「お疲れさま、どうだった?」
キャットピープルのツキは、猫耳と尻尾を隠せば、姿は人間とほとんど変わらない。
見た目は若いが、先代のときからもう何十年も調停官の雑用をこなしていた。
「べつにどうも……いつもとおなじ。サードエルディアスの出現には驚いていたみたいだけど」
「昼の面」に付き添うのはもっぱらツキの役目である。
ヴァンパイアのヨルはもとより、ワーウルフのシンラも人間の多い「昼の面」には出てこない。
シンラは出てこれないわけではなかったが、『ウィンドトーカー』という部族柄、街の喧噪を好まないのだ。
逆にガルシアのようにあえて人混みにまぎれてゆく部族もいる。
そして他にも人間に対して友好的な部族があった。
「こんにちは!」
ツキの背後から少女が顔を出した。
物怖じしない勝ち気な瞳が興味深そうに調停官を見つめていた。
「あなたは……?」
「アレクサンドラ・キッチンよ。『クシー』でいいわ」
名前だけ聞いても何者でなんの用があるのかさっぱりわからない。
ただ、「人間」ではないようである。
サディは差し出された手を握りながらツキを見たが、ツキもよくわからないといった表情をしている。
「あなたが戻ったら説明するって言ってたから……場所が場所だし、『中』で説明があったのかと」
「中」とは、いまサディが居た会議室のことである。
サディがなにも聞いてないと首を振ると、少女は「委員会とは関係ないわ。まあ、道々説明するから」と言って勝手に歩きだした。
宵闇通りに戻るとヨルとシンラが待っていた。
「ワーウルフだな」
シンラが少女を見るなり言った。
「部族は?」
「『ガーディアンズ・オブ・ガイア』よ」
「『大地の守護者たち』か」
『ガーディアンズ・オブ・ガイア』は「ガイア(大地)の守護者」と呼ばれるだけあって、大自然に深く根ざし、決して争いを起こさないもっとも温厚な部族と言われていた。
その穏健派の部族が、この不穏な地域に現れたのはなぜか?
「なんだか騒がしいからちょっと様子を見てこいって言われたのよ」
「調査してこいってこと?」
「長はただ、見て感じたことを教えてくれればいいって言ってたわ」
「本当にそれだけ?」
ツキが疑わしそうな目で見る。
「本当よ。だから、しばらくこちらにご厄介になってもいいかしら」
少女は屈託の無い声で言った。
本当に『ガイアの守護者』ならとくに危険はないだろうということで一同意見は一致した。
少女の件が落ち着くと、話は委員会のことに移った。
「フレイヤ様も言っていたけど、委員会には調停官にも教えられない『機密』があるみたいね」
「身体張ってるのはこっちだろう。なんのために戦ってなんのために死ぬのか、理由は大事だぜ」
「下っ端は理想も信念も持たず、ただ『任務』に死ぬべき、か」
ヨルとシンラは現在の調停官のことが本当に気に入っていたのでぞんざいな扱い方に不平を唱えたが、それを本人に言っても仕方のないことであることは十分わかっていた。
だから余計に気分が悪かった。
「なんだかあたし場違いなとこに来ちゃったみたいね……」
本来、陰謀とも殺戮とも縁のない部族である『ガーディアンズ・オブ・ガイア』のクシー・キッチンは、街の雰囲気も含めたここの空気の重さにため息をついた。
「この街に場違いなものなどいないわ」
若き調停官は少女のほうを向いて言った。
「光が強くなれば、影もまた濃くなっていくもの。でもここは黄昏の街。光と闇が曖昧な街。そして、誰もあなたの存在に異議を唱えることのない街よ」
それがこの街のたったひとつの良いところだ、と。
Ouroboros
END
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