だからこの恋心は消すことにした。

朝比奈未涼

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5.消えた恋心

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以前みたいに戻れよ。
俺が好きだった可哀想で哀れな秘書官様に。


ラナが突然、俺を他の魔法使いたちと同じように扱うようになった。あの生ぬるい優しいだけの笑顔を俺にも向けるようになった。

最初は俺の気を引こうとバカなことをしているのだと思っていた。だから俺はアイツにあの笑顔を向けられる度にそっけない態度で姿を消した。
そんな姿を見せ続ければ、俺を大好きで大好きで仕方のない秘書官様ならすぐに自分の過ちに気づくだろうと、そう高を括っていた。
だがしかし、ラナがあのクソつまらない態度を変えることはなかった。


むしろ1ヶ月、嫌と言うほどラナを見てきて、気づいたことがある。

最初は気持ちをまた上手に隠しているのだと信じて疑わなかったが、もしかするとそうではないのかもしれない、と。
ここ1ヶ月のアイツはまるで俺への恋心を失ってしまったかのようにあっさりしているのだ。




「…ちょっとぉ。殺すんだったら綺麗に殺してくれない?服が汚れちゃうじゃない」



魔物と魔物の死骸の間から心底嫌そうな顔をしたアランが現れる。



「別に俺がどう魔物を殺そうが関係ないでしょ。任務はちゃんとしているんだし」

「そうだけど、血で汚れたアタシなんてラナに見せたくないもの」

「あっそ」




グチャッ


俺はアランに魔物の血が飛び散るようにわざとその場で力一杯魔物を踏みつける。
すると狙い通りに魔物から血が飛び、アランの方へ飛んで行った。



「うわ。アンタ本当最低ね」



心底嫌そうな顔をしているアランだが、アランの服には汚れ一つ付いていない。
今、俺がわざと飛び散らした血も難なく魔法で防いだ結果だ。



「ありがとう」

「褒めてないわよ」



ニヤリと嬉しそうに笑って見せれば、アランがそんな俺を見て呆れたようにため息をつく。



「ついこの前までは上機嫌に任務をしていたくせに今はこれだもの。気分で魔物をぐちゃぐちゃにしないでよ」

「…何のこと」

「とぼけんじゃないわよ」



確かに今の俺は気分が悪い。
だから魔物も必要以上に痛めつけた。

だけどそれを他人であるアランに指摘されるのはいい気分ではない。



「でもアタシはアンタを絶対助けない」

「は?」



何言っているんだ?コイツ?
アランが俺を助ける?


責めるような瞳で俺を睨むアランに俺は眉を顰める。



「助けて欲しいなんて言っていないし、助けて欲しいことなんてないけど」

「ふーん。そう。まぁ、それでいいんじゃない?」



アランは少しだけおかしそうに笑うと俺に背を向けてどこかへ歩き出した。


何がおかしいんだよ。




*****



天気のいい昼下がり。
離宮を何となく歩いているとラナとカイの楽しそうな笑い声が中庭の方から聞こえてきた。



「ふふ、やっぱりラナは何でも似合うね」

「ありがとうございます、カイ。カイにもきっと似合いますね」

「へへ、そうかな」



ラナの頭には白い花の冠が付けられており、そんなラナをカイが愛おしそうに見つめている。

前まではラナに特別な感情を抱く魔法使いたちを見てもラナの特別ではないアイツらを鼻で笑っていた。
可哀想で愚かだと思っていた。

それなのに。
今はどうしてこんなにも胸が騒がしいのだろうか。



「ねぇ、ラナ」

「はい?」

「今のラナ、何だか花嫁みたいだね」

「そうですか?」

「うん。結婚する時のラナはきっとこんな感じなんだろうな。とっても綺麗だよ」

「えへへ。何だか照れますね」



ラナの髪に遠慮がちに触れながら、まるで自分が花婿にでもなったかのような表情でカイがラナを見つめている。

ラナも満更でもなさそうで腹が立った。

お前の心は俺のものだろう。
何でそんな何とも思っていない魔法使いにそんな顔を見せるんだ。



「…ど、どうせだったらこのまま、その…結婚式の、…れ、練習…しちゃう?」

「結婚式のですか?」

「う、うん」



真っ赤な顔をしているカイにラナが首を傾げている。


断れよ。そんな誘いなんて。



「ふふ、いいですね」

「何でだよ」



ラナの返事が聞こえたと同時に我慢ならずに俺は思わず2人の間に魔法で現れた。



「エイダン?」



ラナが不思議そうにこちらを見ている。
ラナとそれからカイをギロリと睨めば、カイは気まずそうに俺から視線を逸らした。



「どうしたんですか?急に現れて。何か緊急の用事ですか?」



やはりラナの瞳は真っ直ぐでその奥に隠された恋心なんてものはない。
どの魔法使いにも向けられるただの優しい瞳だ。

俺への葛藤が綺麗さっぱり消えている。

それが俺を酷くイラつかせた。
ほんの少し前までは俺の一挙一動に振り回されていたはずなのに。


グシャッ


「あっ」



ラナの頭に置かれていた花の冠を乱暴に掴んで潰す。
そしてそれを空へ投げると俺は魔法で燃やしてみせた。



「な、何で…」



灰になった花の冠を悲しげにラナが見つめている。

他人の苦痛が俺は好きだ。
だからラナのこの表情も好きなはずだ。

それなのに。



「…」



どうしてこんなにも気持ちが晴れないのだろう。



「お前なんて一生結婚しなければいいんだよ。一生1人でいろよ」



俺は吐き捨てるようにラナにそう言うと魔法でその場から消えた。

何故かこれ以上あそこに留まりたくはなかった。




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