だからこの恋心は消すことにした。

朝比奈未涼

文字の大きさ
5 / 19

5.消えた恋心

しおりを挟む




以前みたいに戻れよ。
俺が好きだった可哀想で哀れな秘書官様に。


ラナが突然、俺を他の魔法使いたちと同じように扱うようになった。あの生ぬるい優しいだけの笑顔を俺にも向けるようになった。

最初は俺の気を引こうとバカなことをしているのだと思っていた。だから俺はアイツにあの笑顔を向けられる度にそっけない態度で姿を消した。
そんな姿を見せ続ければ、俺を大好きで大好きで仕方のない秘書官様ならすぐに自分の過ちに気づくだろうと、そう高を括っていた。
だがしかし、ラナがあのクソつまらない態度を変えることはなかった。


むしろ1ヶ月、嫌と言うほどラナを見てきて、気づいたことがある。

最初は気持ちをまた上手に隠しているのだと信じて疑わなかったが、もしかするとそうではないのかもしれない、と。
ここ1ヶ月のアイツはまるで俺への恋心を失ってしまったかのようにあっさりしているのだ。




「…ちょっとぉ。殺すんだったら綺麗に殺してくれない?服が汚れちゃうじゃない」



魔物と魔物の死骸の間から心底嫌そうな顔をしたアランが現れる。



「別に俺がどう魔物を殺そうが関係ないでしょ。任務はちゃんとしているんだし」

「そうだけど、血で汚れたアタシなんてラナに見せたくないもの」

「あっそ」




グチャッ


俺はアランに魔物の血が飛び散るようにわざとその場で力一杯魔物を踏みつける。
すると狙い通りに魔物から血が飛び、アランの方へ飛んで行った。



「うわ。アンタ本当最低ね」



心底嫌そうな顔をしているアランだが、アランの服には汚れ一つ付いていない。
今、俺がわざと飛び散らした血も難なく魔法で防いだ結果だ。



「ありがとう」

「褒めてないわよ」



ニヤリと嬉しそうに笑って見せれば、アランがそんな俺を見て呆れたようにため息をつく。



「ついこの前までは上機嫌に任務をしていたくせに今はこれだもの。気分で魔物をぐちゃぐちゃにしないでよ」

「…何のこと」

「とぼけんじゃないわよ」



確かに今の俺は気分が悪い。
だから魔物も必要以上に痛めつけた。

だけどそれを他人であるアランに指摘されるのはいい気分ではない。



「でもアタシはアンタを絶対助けない」

「は?」



何言っているんだ?コイツ?
アランが俺を助ける?


責めるような瞳で俺を睨むアランに俺は眉を顰める。



「助けて欲しいなんて言っていないし、助けて欲しいことなんてないけど」

「ふーん。そう。まぁ、それでいいんじゃない?」



アランは少しだけおかしそうに笑うと俺に背を向けてどこかへ歩き出した。


何がおかしいんだよ。




*****



天気のいい昼下がり。
離宮を何となく歩いているとラナとカイの楽しそうな笑い声が中庭の方から聞こえてきた。



「ふふ、やっぱりラナは何でも似合うね」

「ありがとうございます、カイ。カイにもきっと似合いますね」

「へへ、そうかな」



ラナの頭には白い花の冠が付けられており、そんなラナをカイが愛おしそうに見つめている。

前まではラナに特別な感情を抱く魔法使いたちを見てもラナの特別ではないアイツらを鼻で笑っていた。
可哀想で愚かだと思っていた。

それなのに。
今はどうしてこんなにも胸が騒がしいのだろうか。



「ねぇ、ラナ」

「はい?」

「今のラナ、何だか花嫁みたいだね」

「そうですか?」

「うん。結婚する時のラナはきっとこんな感じなんだろうな。とっても綺麗だよ」

「えへへ。何だか照れますね」



ラナの髪に遠慮がちに触れながら、まるで自分が花婿にでもなったかのような表情でカイがラナを見つめている。

ラナも満更でもなさそうで腹が立った。

お前の心は俺のものだろう。
何でそんな何とも思っていない魔法使いにそんな顔を見せるんだ。



「…ど、どうせだったらこのまま、その…結婚式の、…れ、練習…しちゃう?」

「結婚式のですか?」

「う、うん」



真っ赤な顔をしているカイにラナが首を傾げている。


断れよ。そんな誘いなんて。



「ふふ、いいですね」

「何でだよ」



ラナの返事が聞こえたと同時に我慢ならずに俺は思わず2人の間に魔法で現れた。



「エイダン?」



ラナが不思議そうにこちらを見ている。
ラナとそれからカイをギロリと睨めば、カイは気まずそうに俺から視線を逸らした。



「どうしたんですか?急に現れて。何か緊急の用事ですか?」



やはりラナの瞳は真っ直ぐでその奥に隠された恋心なんてものはない。
どの魔法使いにも向けられるただの優しい瞳だ。

俺への葛藤が綺麗さっぱり消えている。

それが俺を酷くイラつかせた。
ほんの少し前までは俺の一挙一動に振り回されていたはずなのに。


グシャッ


「あっ」



ラナの頭に置かれていた花の冠を乱暴に掴んで潰す。
そしてそれを空へ投げると俺は魔法で燃やしてみせた。



「な、何で…」



灰になった花の冠を悲しげにラナが見つめている。

他人の苦痛が俺は好きだ。
だからラナのこの表情も好きなはずだ。

それなのに。



「…」



どうしてこんなにも気持ちが晴れないのだろう。



「お前なんて一生結婚しなければいいんだよ。一生1人でいろよ」



俺は吐き捨てるようにラナにそう言うと魔法でその場から消えた。

何故かこれ以上あそこに留まりたくはなかった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

処理中です...