だからこの恋心は消すことにした。

朝比奈未涼

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6.失って気がついた

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「お前がこんなところで呑んでるなんて珍しいな」



離宮の談話室で何となくお酒を1人で呑んでいるとマテオが俺に物珍しいそうに声をかけてきた。



「そう?」

「そうだろ。なぁ、俺も一緒にいいか?」

「…好きにしたら」



俺が座っているソファの反対側のソファにマテオがドカッと座る。
そしてテーブルに並べられているお酒を物色し始めた。



「相変わらず甘いもんばっか呑んでんな」

「美味しいからね」

「俺は苦手だな」

「あっそ」



俺と会話をしながら慣れた手つきでマテオが自分のお酒を作る。
文句は言っているが呑まない選択がコイツにはない。
マテオは一口お酒を呑んで「あっま」と舌を出していた。




それから数十分くらい、俺たちは何となくくだらない世間話をしながらお酒を呑み続けていた。

マテオも俺もお酒には強い方なので気分こそいいものの、他に目立った変化はない。
お互いに少しだけ饒舌なくらいだ。



「ラナなんて一生結婚しなければいいのに。だからあの時も花冠を燃やしてやったんだよ」

「あはははっ!おまっ、それはやりすぎだろう!ラナもカイも災難だったな!」

「災難だったのは俺でしょ。あんなごっこ遊び見せられて気分が悪かったよ」

「はっ、嫉妬したのか?」

「…どうだろう」



目に涙を溜めて笑っているマテオを横目に、俺がアイツらに嫉妬していたのかどうか考えてみる。


あの時すごく気分が悪かったのは本当だ。
イラついて今すぐにでも2人を引き離したかった。

あの感情が嫉妬なのか?



「まぁ、ラナに結婚して欲しくない気持ちは同意するわ。その相手は俺じゃないと許せねぇのもな」

「相手がお前?」

「そう、この俺」



自信満々に笑っているマテオの横にこの前のラナを思い浮かべる。


…不愉快だ。



「お前でもダメだよ」

「ははっ、これはもう嫉妬確定だな」



愉快そうに笑っているマテオが不愉快で不愉快で仕方ない。
そう思ってギロリとマテオを睨んでみてもマテオはどこ吹く風だ。



「だけど自分の気持ちに気づくのがちっとばかし遅かったな、エイダン」

「は?」

「アイツの心はもうお前にはないだろ?」

「…」



マテオの言う通りだ。
ラナの心はもう俺のものではない。

俺は他の魔法使いたちと同じに成り下がってしまった。


カランッとコップの中の氷をマテオが鳴らす。
俺とマテオ以外誰もいない談話室にその音は静かに響いた。



「この氷みたいに溶けてなくなっちまったのかな」

「知らないよ」

「だろうな」



クスクス笑ってマテオがまたコップに口をつける。
そして今コップに入っているお酒を全部飲み干した。



「本当になくなっちまったんだろ、あれは」

「…」



ああ、気分が悪い。
認めたくない。

俺もラナが好きだったなんて。


だからずっと不愉快だったのだ。



*****



自分の気持ちを自覚して数日。
俺は暇さえあればいつもラナを観察していた。

そしてあることに気がついた。



「ねぇ」



ラナがこの時間に談話室で1人で本を読んでいたのはラナをずっと観察していたので知っていた。
だから俺は気づいたことを確かめてやろうと魔法でラナの前に現れた。



「エイダン?どうしたんですか?」



急に現れた俺に特に驚くことはなく、落ち着いた様子でラナが本から俺に視線をあげる。

普通の人間なら驚くが、日々魔法使いたちと過ごしているラナにとって、誰かが急に現れることは日常だった。



「お前からずっと微かにだけどカイとアランの魔力を感じる。何されたんだよ」



今までだったら絶対に気がつかなかったが、ここ数日は嫌と言うほどラナを観察していたので、このわずかな違いも見つけられた。

まるでマーキングされているみたいですごく不愉快だ。

嫌なものを見る目でラナを見ているとラナは「カイとアランですか?」と首を傾げて考え始めた。



「あ」



そして数秒考え込んだのちに何か心当たりを見つけたようでラナは素っ頓狂な声を上げた。



「わかったの?」

「…いや、えっと…」

「…何だよ」



ラナが言いづらそうに下を向いている。
何かやましいことがあるらしい。



「…人間如きが魔法使いである俺に隠し事ができるとでも思っている訳?お前の隠し事を暴く方法なんていくらでもあるから」

「そ、そうですよね…」



バカにしたように鼻で笑う俺とラナは未だに目を合わせようとしない。



「自分で言うか、俺に無理やり暴かれるか二択だよ」

「…はい」



ラナはしばらく下を向いたままだった。

…俺には言いたくないことなのだろう。
一体何をされたのか。


それでも少し経ってラナはついに下を向いたまま口を開いた。



「…カイとアランに魔法をかけてもらいました」

「魔法?」

「はい。おそらくそれの影響ではないでしょうか」



恐る恐る喋ったラナの小さな頭を見つめる。
小さくてきっと魔法を使わなくても一瞬で吹き飛んでしまう弱く脆いもの。

誰にでも殺されてしまいそうだ。

きっとこの愛らしくも弱々しい頭の主が発した言葉は本当なのだろう。
そしてその言葉に俺は納得していた。

カイとアランがラナに魔法をかけた。
それもずっとラナに魔力が残り続けるような強力な魔法を。

その魔法は一体なんなのか。


『アイツの心はもうお前にはないだろ?』
『この氷みたいに溶けてなくなっちまったのかな』


『本当になくなっちまったんだろ、あれは』


数日前の最悪なマテオとの会話がふと頭をよぎる。


まさか…



「お前、感情を消させたんでしょ?アイツらに」

「…」

「黙っているってことは肯定なんだね」



責めるような視線をラナに向けるが、ラナはそれでも下を向いているままで俺を見ようともしない。


あんなにも俺への恋心に乱されていたのに。
あんなにも愛おしく俺を想っていたはずなのに。

コイツはそれを捨てた。


どうしようもなく腹が立った。
俺にこんな想いをさせているラナに。


ガッと勢いよくラナの顔を両手で無理やり掴んで上を向かせる。



「…っ」



驚いている様子のラナと目が合う。
前までのラナならその瞳に複雑な感情を抱いていたのにそこには戸惑いしかない。



ムカつくムカつくムカつく!



俺はそんなラナにキスをした。



「…っ!エイダン!」



ラナがさらに目を見開き、俺の名前を呼ぶ。
口をまんまと開いたラナの中に俺は無理やり舌を入れてやった。



「ちょっ!んん!」



それからどんなにラナが暴れても俺はラナにキスをし続けた。
やっとラナから離れるとラナは涙を浮かべてやっとあの表情を浮かべていた。

顔を真っ赤にしている。俺が近づくだけで浮かべていたあの表情だ。
今は他の魔法使いたちと同じようにこうやって無理やり引き出すしかないものだ。



「いい気になるなよ。人間」

「え」



ニヤリと笑ってみせるとラナは不安そうに俺を見つめた。


必ずお前の恋心を取り戻してやる。
俺だけがお前を想うなんて嫌だ。


お前も一緒に堕ちろよ。
なぁ、ラナ。



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