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17.あなたが好き
しおりを挟むsideラナ
エイダンの拠点という名の雪山の中にある家に来て、1ヶ月。
私はずっと幸せで幸せで、最高に楽しく甘い日々をエイダンと共に過ごしていた。
時に優しく、時に意地悪なエイダンとのたった2人だけの生活。
雪山という閉ざされた環境での生活だが、大好きな人との閉ざされた世界は案外悪くなかった。
それでもこの生活には大きな問題があった。
エイダンが私の想いを一切信じないのだ。
ここへエイダンに連れて来られた日、エイダンの想いを知り、私は天にも昇る気持ちになった。
あんなにも知ることが恐ろしかったエイダンの想いを改めて知り、嬉しかった。
いずれ終わるかもしれない関係になることを恐れていた自分がバカらしくなった。
そんなことを恐れて、エイダンと結ばれない未来を選ぶなんて、何てバカな選択を選ぼうとしていたのだろうか。
お互いに想いが通じ合い、一緒に居られる幸せはきっと何にも代え難いものだ。
嬉しくて嬉しくて、すぐにでもエイダンとの関係を深めたかった私だったが、エイダンは何故か私の想いを信じようとはしなかった。
ならばエイダンが私の想いを信じられるようにと目一杯私の想いをエイダンに伝えた。
言葉で、態度で、視線で、たくさんたくさん〝アナタが好き〟だと表現した。
エイダンはそんな私をいつも甘い瞳で見つめてくれる。
だけどふとした瞬間にその瞳から光がよく消えていた。
そんなエイダンを見る度に私は思った。
ーーーーああ、エイダンはまだ私の想いを信じ切れないのだ、と。
家の掃除をしながら、何となく窓の外を見る。
そこには一面の銀世界が広がっており、少し開けた場所の向こうには木しかない。
雪と自然しかない美しい場所。
初めてこの景色を見た時は嬉しくなってよく雪遊びをしたものだ。
そして未だに空き時間を見つけては、ちょくちょく雪を触って遊んでいる。
今はたくさん雪を集めて、大きな雪のお城を作ることに挑戦中だ。
ここにはエイダンの魔法により何でも揃っている。
困ることは何もない。何不自由ない生活。
さらにそこには愛する人、エイダンまでいるのだ。
幸せに決まっている。ずっと続いてもいいとさえ思える。
けれど、ここへ来て、もう1ヶ月だ。
エイダンに与えられていた休暇は2週間。
任務の最終日から合わせても、私たちは少なくとも2週間は音信不通の状態だ。
そろそろ離宮の魔法使いたちや王宮が私たちの所在を心配し、探し始める頃だろう。
私たちの居場所はおそらくエイダンの魔法によって見つからないようになっている。
きっと探しても探しても彼らは私たちを見つけられないはずだ。
そんな状況になれば誰だって心配するし、不安になるものだ。
ここでの生活は楽しいけれど、誰かを心配させたり、不安にさせたくはない。
それに私には彼ら魔法使いたちの秘書官としての仕事がある。
きっと私の代わりの秘書官はたくさんいるだろうけど、私のように長く続けられる秘書官はなかなか現れないだろう。
秘書官が何度も何度も変わることは魔法使いたちにとっても、国にとってもよくないはずだ。
それに何より私は彼らにも会いたい。
彼らはエイダンとはまた違うが、大事な存在なのだ。
だからこそ、私は帰りたい。
その為にもエイダンに私の気持ちを信じてもらい、一緒に帰れるようにしないといけない。
「…外に何があるの」
そんなことを考えながらも、ずっと窓の外を見つめていると、どこか暗い声でエイダンが私に話しかけてきた。
「雪ですね、それから木…とか」
窓の外からエイダンへと視線を向ける。
するとそこには仄暗い表情でこちらをじっと見つめるエイダンがいた。
美しい、私の大好きな人。
彼はどこか辛そうにしていた。
「…どう、したんですか?」
初めて見るエイダンの表情に驚きながらも、私は質問する。
一体何がエイダンにそんな表情をさせているのか。
「これ、飲んで」
心配している私なんてよそにエイダンがそう言って笑う。だが、その目は暗く、とてもじゃないが、楽しそうには見えなかった。
「…そ、それは何ですか?」
エイダンが今まさに私に飲ませようとしているものに不安げに視線を向ける。
エイダンの手にある小瓶には何か液体が入っている。
ピンクと紫が混ざり合う途中のようなその液体はどこかキラキラと怪しく光っていた。
とてもじゃないが、安全なものには見えない。
本能的に危険物ではないかと警戒してしまう。
「ああ、これ?惚れ薬だよ」
「え」
私の質問にあっけらかんと答えたエイダンに言葉を失う。
…今、エイダンは惚れ薬って言った?
私にそんなものを飲ませるの?
今の状況をなかなか飲み込むことができず、固まっていると、エイダンは歪んだ笑みを浮かべて、その美しい口を開いた。
「お前の心以外全部手に入れさえできればいいと思ってたけど違った。俺はお前の心も欲しくなった。だからお前の心も俺のものにする。いいよね?」
「よ、よくないですよ!」
微笑むエイダンに私はやっと言葉を発する。
もし、私が今この薬を飲んでしまったら。
エイダンは本当に私の想いを信じられなくなってしまう。
私がいくらエイダンを好きだと言っても、それは薬によるものだと思ってしまう。
そうではないのに。
私は本当にエイダンが好きなのに!
このままではエイダンがずっと苦しいままではないか。
「…うるさい」
焦る私なんて気にもせず、鬱陶しそうにエイダンが私を窓際へと追いやる。
細身とはいえ、私よりもずっと大きいエイダンに覆い被さられたことによって、私からあっという間に逃げ場がなくなった。
そのままエイダンはグイッと私の顎を掴み、無理矢理私を上へと向かせる。
「…エ、エイダンっ。やめてくださいっ」
逃げ場はないが抗うことを止めるわけにはいかない。
私は何とか顔を横へと逸そうとする。
「やめない」
けれど、私の力ではエイダンには敵わず、顔を逸らすことさえもできなかった。
どうすれば惚れ薬を飲まずにすむのだろうか。このままではダメなのに。
泣きそうになりながらも何とか堪えていると、エイダンの消え入りそうな声が耳に届いた。
「そんなに嫌なんだ」
どこか辛そうに笑うエイダンに胸が痛くなる。
嫌ではない。むしろその薬を飲んだとしても私には効果がないのだ。私はもうエイダンのことが好きだから。
ただエイダンがもっと苦しくなるだけなのに。
「わ、私はエイダンが好きです。エイダンと同じなんです。だからそんなもの飲む必要がないんですよ。こんなことやめましょう」
頬を赤くして、必死にエイダンに自分の想いを伝える。どうか今度こそ私の想いが正しく伝わって欲しいと祈りながら。
すると、私の顎を掴んでいたエイダンの手が下へと落ちた。
私の想いがちゃんと伝わった?
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