推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
1 / 108

1.鉄子に玉砕大作戦!

しおりを挟む




 「名付けて!鉄子に玉砕大作戦だ!」



放課後、廊下を移動していると、とある教室からそんなふざけた作戦の名前が聞こえてきた。

全く誰がこんなバカな話をしているのか。

呆れながらも少し気になったのでその場で足を止め、声の聞こえた教室の方へと聞き耳を立ててみる。
ちなみに鉄子とは私、鉄崎柚子てつさきゆずこのことである。

 

「お前はモテすぎなんだよ!悠里!だから鉄子に告白して玉砕するんだ!」



強くそう言い切った男子生徒の言葉に、私の心臓がドクンッと跳ねる。
男子生徒から出てきた名前、悠里とは、私の推し、沢村悠里くんだ。
どうやらあの教室内には同学年のスポーツ科の沢村悠里くんもいるらしい。

沢村くんはまだ3年生が引退していないにも関わらず、2年生にして我が校のバスケ部のエースであり、そのかっこよすぎる爽やかな見た目から〝バスケ部の王子〟と言われ、ファンを多数獲得している存在だ。
ちなみに私もそのファンの1人で、決して表には出さないが、こっそり沢村くんを推していた。

 

「イケメンで?優しくて?高身長で?バスケ部のエースで?そりゃ、女子が放っておかないよな?」



からかうような声に、周囲は笑う。



「毎日毎日悠里に告白告白。うちの大事なエースなのに告白の対応でほぼ部活に出られない、練習に参加できないってどういうことなんだよ」

 

そこに今度は呆れとも困惑ともつかない声が混じる。



「毎日最低、1~2人、多い時は5人以上に告白されて、それに毎度丁寧に受け答えしてりゃあ練習時間もなくなるわな」

「うちは強豪校の一つだぞ?今年は全国でのベスト8だって狙っているのにこれじゃあな…」


 
続けて、1人は不満げに、1人は不安げに声を上げた。
先ほどまで明るかった空気が、一気に重くなる。

教室内から聞こえる複数の男子生徒たちの困っているような声や、不満そうな声。
彼らの話の内容を聞き、私はすぐに教室内にいるのは、男子バスケ部の生徒たちと沢村くんだと察せた。

沢村くんが毎日告白されていることは、この学校では周知の事実であり、放課後の恒例行事にさえもなっていたが、まさかここまで深刻な状況になっていたとは。
そしてその告白に全て丁寧に対応していたなんて、やはり沢村くんは推せる。

 

「だからそこで鉄子に玉砕大作戦なんだよ!」

 

暗い空気が流れる中、私が足を止めるきっかけとなった作戦を、声高々に言う者が現れた。

 

「あの堅物風紀委員長に悠里が告白して、玉砕するんだ!その後は失恋で傷心中のフリをして、しばらく恋愛はいい、告白されると玉砕のトラウマが蘇る…とか言って悠里への告白の嵐を止めるんだよ!」

 

声だけしか聞こえないが、私への玉砕大作戦を推す男子生徒は、周りにそれはそれはもう熱く作戦内容を説明している。
そしてそんな彼の作戦に、バスケ部員たちは、ざわざわし始めた。



「いいんじゃねぇか?」

「それが一番丸く収まる気がするな」

「鉄子なら万が一がなさそうだしね」



何と失礼なやつらだ。

好き勝手に喋るバスケ部員たちに、呆れて小さなため息を吐く。

推しに告白されるんだぞ?万が一しかないでしょうが。
ごめんけど告白受け入れて彼女になっちゃうからね?
要は沢村くんがもうこれ以上告白されなければいいんでしょ?
だったら別に沢村くんを振らなくても、彼女として私が壁になればいいんじゃない?

 

「それはダメだろ」

 

賛成多数の中、たった1人だけが反対の声を上げる。
この透き通ったイケボは私の推し、沢村くんだ。



「好きでもないのに鉄崎さんに告白するなんて不誠実すぎるだろ。鉄崎さんで遊ぶようなものだ」



ただ1人、私のことを思って声音を低くした沢村くんに、胸がぎゅうっと締め付けられる。
私の推しはなんて優しいのだろうか。



「だったら今いるお前のことを好きな女子を全員何とかして普通に練習に出てこい」

「鉄子なら大丈夫だって。アイツは風紀を守ることに命かけてるから。恋なんてしている場合じゃないから。お前なんてバッサリ振られるよ」

「ちゃんと現実見ましょうね?」

 

唯一反対意見を言った沢村くんに、その場にいたバスケ部員たちが、様々な声をかける。
どれも沢村くんを責めるような内容のものだ。

その場いる複数人に責められて、沢村くんは黙ってしまった。
残念だ。推しの声が全く聞こえない。


 
「…わ、わかったよ」


 
耳を澄ませて沢村くんのお言葉を待っていると、やっと不服そうな沢村くんの声が聞こえてきた。



「すごく申し訳ないけど、俺には告白してくる子たちをどうすることもできないし…。こっそり力を借りることにするよ。振られて好奇の目に晒されるのは俺だし…」

 

な、な、これは夢なのではないか?
渋々だが、今沢村くんは私に告白する感じのお言葉を発さなかったか?

こ、告白してくれるの?推しが?私に?

とんでもないことを聞き届けた私は、彼らバスケ部の生徒たちに見つかり、この作戦がぱあにならないように、足音を立てることなく、静かにその場を後にした。
そして、推しに告白されることが確定してしまった私は、表向きは平静を保っていたが、心の中ではお祭り騒ぎだった。

告白されるのならぜひお付き合いまでしてしまいたい。
だってこんな幸運、一生私には巡ってこないかもしれないから。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。 ※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募予定作品です。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

譲れない秘密の溺愛

恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女

処理中です...