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2.手のかかる後輩。
しおりを挟む鉄崎柚子。鷹野高校進学科所属の風紀委員会委員長。
その真面目さと圧倒的迫力からくる怖さから、生徒たちから〝鉄子〟と呼ばれ、恐れられており、高校1年生の秋、前風紀委員長から異例の抜擢を受け、風紀委員会委員長となった。
その後、2年生でもその役目を務め、今、校門の前で腕組みをして立っている。
昨日の出来事によって、今にもにやけてしまいそうな顔に目一杯力を入れて。
「お、おい。鉄子がとんでもない剣幕で立っているぞ」
1人の男子生徒が、不安げにこちらを見る。
「しっ、聞こえるぞ、バカ。夏休み明けだから気合い入ってるんだよ。昨日も何人の生徒が泣かされていたか」
そんな男子生徒に、もう1人の男性生徒が声をひそめた。
「と、とりあえずちゃんとした服装だよね?校則違反していないよね?私」
私の前を今、まさに通ろうとしている女子生徒は、顔面蒼白で、自身の服装の再確認をしている。
校門前にいる私をチラチラと見ながら、複数の生徒たちが校舎へと向かっていく。
そんな生徒たちに、私は一人一人視線を向け、校則違反者はいないか確認していた。
そう、今は夏休み明けの9月。
夏休み明けといえば、みんな気が緩む時期だ。
そんな時期だからこそ、校則違反をする者も多い。
じっと生徒の波を見ていると、向こうの方から一際目立つ存在が現れた。
あの校則を派手に破っている金髪は…。
「 華守千晴!止まりなさい!」
私は強い口調で、金髪の男、千晴の前に立ちはだかった。
「あ、先輩だ。おはよー」
私に声をかけられて、何故か嬉しそうに笑うこの男は、驚くほど校則を破っていた。
まずは特徴的なふわふわの猫毛の金髪。
さらには制服まで着崩しており、ネクタイもゆるゆる。
目鼻立ちが整っており、スッとした美人で、さらに細身だが、高身長でスタイルもいい為、全てがまるでおしゃれに見え、そういうものかもしれないと思ってしまうが、全部が全部、校則違反だ。
このオール校則違反で、何とうちの高校の進学科の1生生だとは、驚きを通り越して、信じられないものがある。
うちの高校は普通科、進学科、スポーツ科の3つの科があり、進学科の生徒は比較的真面目な生徒が多く、校則もちろん守る生徒が多いのだ。
だいたい校則を破っているのは、普通科の生徒かスポーツ科の生徒だ。
それが何故、進学科の生徒であるコイツが、こんなダイナミックに校則違反をしているのか。
「ネクタイくらいちゃんと締める!」
千晴に近づき、乱暴に千晴のネクタイを締める。
だが、千晴はそんな私に抵抗することなく、されるがままだった。
いつもいつも何故かこれなのだ。
「全く毎度毎度!服装くらいちゃんとしなさい!髪も似合ってるけど戻しなさい!」
「えぇ?別にいいじゃん。服は先輩が直してくれるし、髪もこの方が先輩構ってくれるし。似合ってるみたいだしよくない?」
「よくないわ!校則くらい守れ!」
目の前でヘラヘラしている千晴の耳を、怒りに任せて、思いっきり引っ張ってみるが、千晴は「痛ぁーい」と言うだけで、何故か嬉しそうだ。
頭が痛くなる。
そんな私たちのやり取りを生徒たちは、今日も遠巻きに見ていた。
「さすが鉄子先輩だ…。あの華守相手に引けを取らないなんて…」
1人の男子生徒は、感心したようにこちらを見ている。
「は、華守くんって、イケメンだけど怖いよね…」
1人の女子生徒は、怖がりながらも同じように。
「この前も街でガラの悪い人たちといたらしいよ。ヤクザとかあっち系の人と交流があるんだって」
「目が合うと殴られるらしいぜ」
「で、でもかっこいいよねぇ…」
「鉄子すげぇ」
様々な生徒がこちらに視線を向けて、思い思いに好きなことを口にしていた。
憧れ、恐怖、羨望。
様々な視線を一斉に集める千晴に、私は大変だな、と思う。
だが、同時に仕方ないとも思っていた。
この見た目というだけで噂の的なのに、素行まで悪いとなると、目立って仕方ない上に、いろいろ言いたくもなる。
生徒たちの声が聞こえたのか、千晴はどこか不満そうな顔をしていた。
何を言われても平気そうな顔をしている千晴だったが、思うところがあるみたいだ。
ここはちょっと注意するべきか。
「ちょっと…」
遠巻きに見ていた生徒たちに注意する為に、千晴から離れようとしたその時、千晴がグイッと私の腕を引き、その場に引き留めた。
それから「もう行っちゃうの」と、どこか寂しげに問いかけてきた。
…不覚にも自分よりも遥かに大きいこの男のことを、可愛いと思ってしまう。
「アンタがあんな顔してたからね。注意くらいはしようと思って」
有名人だからと、目立つからと、何でも言っていいわけではない。あることないこと言うのは間違っている。
私の腕を未だに掴んだまま離さない千晴は、私の言葉を聞いて少し考えてから口を開いた。
「アイツら先輩のこと〝鉄子〟て言うから。それであんな顔してた」
「は?」
あまり感情を感じさせない表情でそう言った千晴に、私は首を傾げる。
私が〝鉄子〟て言われることはもう定着していることだし、千晴が気にするようなことではないんだけど…。
「先輩にはちゃんと柚子っていう可愛い名前があるのに」
少し拗ねたようにぷくっと小さく頬を膨らませる千晴に、どんどん顔の温度が上昇していく。
真っ赤だ。私の顔は今、とんでもなく赤いことだろう。
「…柚子先輩、かわいい」
そんな私を見て、千晴は私の耳元に自身の唇を寄せると、そうを囁いてきた。
「ち、近い!耳元で言うな!耳元で!」
あまりにも近すぎる千晴に、バクバクとうるさい心臓を誤魔化すように、ぐいーっと千晴の顔を右手で押す。
すると、その手を千晴に掴まれて、千晴はその手のひらにまさかのキスをしてきた。
「耳まで真っ赤だね」
その瞬間、色っぽく微笑む千晴に、反射的に、私は左手で握り拳を作り、みぞおちを思いっきり殴ったのであった。
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