推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
2 / 9

2.手のかかる後輩。

しおりを挟む




鉄崎柚子。鷹野高校進学科所属の風紀委員会委員長。
その真面目さと圧倒的迫力からくる怖さから、生徒たちから〝鉄子〟と呼ばれ、恐れられており、高校1年生の秋、前風紀委員長から異例の抜擢を受け、風紀委員会委員長となった。
その後、2年生でもその役目を務め、今、校門の前で腕組みをして立っている。
昨日の出来事によって、今にもにやけてしまいそうな顔に目一杯力を入れて。

 

「お、おい。鉄子がとんでもない剣幕で立っているぞ」



1人の男子生徒が、不安げにこちらを見る。



「しっ、聞こえるぞ、バカ。夏休み明けだから気合い入ってるんだよ。昨日も何人の生徒が泣かされていたか」


そんな男子生徒に、もう1人の男性生徒が声をひそめた。



「と、とりあえずちゃんとした服装だよね?校則違反していないよね?私」



私の前を今、まさに通ろうとしている女子生徒は、顔面蒼白で、自身の服装の再確認をしている。

校門前にいる私をチラチラと見ながら、複数の生徒たちが校舎へと向かっていく。
そんな生徒たちに、私は一人一人視線を向け、校則違反者はいないか確認していた。

そう、今は夏休み明けの9月。
夏休み明けといえば、みんな気が緩む時期だ。
そんな時期だからこそ、校則違反をする者も多い。

じっと生徒の波を見ていると、向こうの方から一際目立つ存在が現れた。

あの校則を派手に破っている金髪は…。

 

 華守千晴はなもりちはる!止まりなさい!」

 

私は強い口調で、金髪の男、千晴の前に立ちはだかった。

 

「あ、先輩だ。おはよー」

 

私に声をかけられて、何故か嬉しそうに笑うこの男は、驚くほど校則を破っていた。

まずは特徴的なふわふわの猫毛の金髪。
さらには制服まで着崩しており、ネクタイもゆるゆる。
目鼻立ちが整っており、スッとした美人で、さらに細身だが、高身長でスタイルもいい為、全てがまるでおしゃれに見え、そういうものかもしれないと思ってしまうが、全部が全部、校則違反だ。

このオール校則違反で、何とうちの高校の進学科の1生生だとは、驚きを通り越して、信じられないものがある。
うちの高校は普通科、進学科、スポーツ科の3つの科があり、進学科の生徒は比較的真面目な生徒が多く、校則もちろん守る生徒が多いのだ。
だいたい校則を破っているのは、普通科の生徒かスポーツ科の生徒だ。

それが何故、進学科の生徒であるコイツが、こんなダイナミックに校則違反をしているのか。


 
「ネクタイくらいちゃんと締める!」

 

千晴に近づき、乱暴に千晴のネクタイを締める。
だが、千晴はそんな私に抵抗することなく、されるがままだった。
いつもいつも何故かこれなのだ。

 

「全く毎度毎度!服装くらいちゃんとしなさい!髪も似合ってるけど戻しなさい!」

「えぇ?別にいいじゃん。服は先輩が直してくれるし、髪もこの方が先輩構ってくれるし。似合ってるみたいだしよくない?」

「よくないわ!校則くらい守れ!」

 

目の前でヘラヘラしている千晴の耳を、怒りに任せて、思いっきり引っ張ってみるが、千晴は「痛ぁーい」と言うだけで、何故か嬉しそうだ。
頭が痛くなる。

そんな私たちのやり取りを生徒たちは、今日も遠巻きに見ていた。

 

「さすが鉄子先輩だ…。あの華守相手に引けを取らないなんて…」

 

1人の男子生徒は、感心したようにこちらを見ている。



「は、華守くんって、イケメンだけど怖いよね…」



1人の女子生徒は、怖がりながらも同じように。



「この前も街でガラの悪い人たちといたらしいよ。ヤクザとかあっち系の人と交流があるんだって」

「目が合うと殴られるらしいぜ」

「で、でもかっこいいよねぇ…」

「鉄子すげぇ」



様々な生徒がこちらに視線を向けて、思い思いに好きなことを口にしていた。

憧れ、恐怖、羨望。
様々な視線を一斉に集める千晴に、私は大変だな、と思う。
だが、同時に仕方ないとも思っていた。
この見た目というだけで噂の的なのに、素行まで悪いとなると、目立って仕方ない上に、いろいろ言いたくもなる。

生徒たちの声が聞こえたのか、千晴はどこか不満そうな顔をしていた。

何を言われても平気そうな顔をしている千晴だったが、思うところがあるみたいだ。
ここはちょっと注意するべきか。

 

「ちょっと…」


 
遠巻きに見ていた生徒たちに注意する為に、千晴から離れようとしたその時、千晴がグイッと私の腕を引き、その場に引き留めた。
それから「もう行っちゃうの」と、どこか寂しげに問いかけてきた。

…不覚にも自分よりも遥かに大きいこの男のことを、可愛いと思ってしまう。


 
「アンタがあんな顔してたからね。注意くらいはしようと思って」

 

有名人だからと、目立つからと、何でも言っていいわけではない。あることないこと言うのは間違っている。
私の腕を未だに掴んだまま離さない千晴は、私の言葉を聞いて少し考えてから口を開いた。

 

「アイツら先輩のこと〝鉄子〟て言うから。それであんな顔してた」

「は?」


 
あまり感情を感じさせない表情でそう言った千晴に、私は首を傾げる。
私が〝鉄子〟て言われることはもう定着していることだし、千晴が気にするようなことではないんだけど…。

 

「先輩にはちゃんと柚子っていう可愛い名前があるのに」

 

少し拗ねたようにぷくっと小さく頬を膨らませる千晴に、どんどん顔の温度が上昇していく。
真っ赤だ。私の顔は今、とんでもなく赤いことだろう。

 

「…柚子先輩、かわいい」

 

そんな私を見て、千晴は私の耳元に自身の唇を寄せると、そうを囁いてきた。

 

「ち、近い!耳元で言うな!耳元で!」

 

あまりにも近すぎる千晴に、バクバクとうるさい心臓を誤魔化すように、ぐいーっと千晴の顔を右手で押す。
すると、その手を千晴に掴まれて、千晴はその手のひらにまさかのキスをしてきた。

 

「耳まで真っ赤だね」

 

その瞬間、色っぽく微笑む千晴に、反射的に、私は左手で握り拳を作り、みぞおちを思いっきり殴ったのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

処理中です...