2 / 108
2.手のかかる後輩。
しおりを挟む鉄崎柚子。鷹野高校進学科所属の風紀委員会委員長。
その真面目さと圧倒的迫力からくる怖さから、生徒たちから〝鉄子〟と呼ばれ、恐れられており、高校1年生の秋、前風紀委員長から異例の抜擢を受け、風紀委員会委員長となった。
その後、2年生でもその役目を務め、今、校門の前で腕組みをして立っている。
昨日の出来事によって、今にもにやけてしまいそうな顔に目一杯力を入れて。
「お、おい。鉄子がとんでもない剣幕で立っているぞ」
1人の男子生徒が、不安げにこちらを見る。
「しっ、聞こえるぞ、バカ。夏休み明けだから気合い入ってるんだよ。昨日も何人の生徒が泣かされていたか」
そんな男子生徒に、もう1人の男性生徒が声をひそめた。
「と、とりあえずちゃんとした服装だよね?校則違反していないよね?私」
私の前を今、まさに通ろうとしている女子生徒は、顔面蒼白で、自身の服装の再確認をしている。
校門前にいる私をチラチラと見ながら、複数の生徒たちが校舎へと向かっていく。
そんな生徒たちに、私は一人一人視線を向け、校則違反者はいないか確認していた。
そう、今は夏休み明けの9月。
夏休み明けといえば、みんな気が緩む時期だ。
そんな時期だからこそ、校則違反をする者も多い。
じっと生徒の波を見ていると、向こうの方から一際目立つ存在が現れた。
あの校則を派手に破っている金髪は…。
「 華守千晴!止まりなさい!」
私は強い口調で、金髪の男、千晴の前に立ちはだかった。
「あ、先輩だ。おはよー」
私に声をかけられて、何故か嬉しそうに笑うこの男は、驚くほど校則を破っていた。
まずは特徴的なふわふわの猫毛の金髪。
さらには制服まで着崩しており、ネクタイもゆるゆる。
目鼻立ちが整っており、スッとした美人で、さらに細身だが、高身長でスタイルもいい為、全てがまるでおしゃれに見え、そういうものかもしれないと思ってしまうが、全部が全部、校則違反だ。
このオール校則違反で、何とうちの高校の進学科の1生生だとは、驚きを通り越して、信じられないものがある。
うちの高校は普通科、進学科、スポーツ科の3つの科があり、進学科の生徒は比較的真面目な生徒が多く、校則もちろん守る生徒が多いのだ。
だいたい校則を破っているのは、普通科の生徒かスポーツ科の生徒だ。
それが何故、進学科の生徒であるコイツが、こんなダイナミックに校則違反をしているのか。
「ネクタイくらいちゃんと締める!」
千晴に近づき、乱暴に千晴のネクタイを締める。
だが、千晴はそんな私に抵抗することなく、されるがままだった。
いつもいつも何故かこれなのだ。
「全く毎度毎度!服装くらいちゃんとしなさい!髪も似合ってるけど戻しなさい!」
「えぇ?別にいいじゃん。服は先輩が直してくれるし、髪もこの方が先輩構ってくれるし。似合ってるみたいだしよくない?」
「よくないわ!校則くらい守れ!」
目の前でヘラヘラしている千晴の耳を、怒りに任せて、思いっきり引っ張ってみるが、千晴は「痛ぁーい」と言うだけで、何故か嬉しそうだ。
頭が痛くなる。
そんな私たちのやり取りを生徒たちは、今日も遠巻きに見ていた。
「さすが鉄子先輩だ…。あの華守相手に引けを取らないなんて…」
1人の男子生徒は、感心したようにこちらを見ている。
「は、華守くんって、イケメンだけど怖いよね…」
1人の女子生徒は、怖がりながらも同じように。
「この前も街でガラの悪い人たちといたらしいよ。ヤクザとかあっち系の人と交流があるんだって」
「目が合うと殴られるらしいぜ」
「で、でもかっこいいよねぇ…」
「鉄子すげぇ」
様々な生徒がこちらに視線を向けて、思い思いに好きなことを口にしていた。
憧れ、恐怖、羨望。
様々な視線を一斉に集める千晴に、私は大変だな、と思う。
だが、同時に仕方ないとも思っていた。
この見た目というだけで噂の的なのに、素行まで悪いとなると、目立って仕方ない上に、いろいろ言いたくもなる。
生徒たちの声が聞こえたのか、千晴はどこか不満そうな顔をしていた。
何を言われても平気そうな顔をしている千晴だったが、思うところがあるみたいだ。
ここはちょっと注意するべきか。
「ちょっと…」
遠巻きに見ていた生徒たちに注意する為に、千晴から離れようとしたその時、千晴がグイッと私の腕を引き、その場に引き留めた。
それから「もう行っちゃうの」と、どこか寂しげに問いかけてきた。
…不覚にも自分よりも遥かに大きいこの男のことを、可愛いと思ってしまう。
「アンタがあんな顔してたからね。注意くらいはしようと思って」
有名人だからと、目立つからと、何でも言っていいわけではない。あることないこと言うのは間違っている。
私の腕を未だに掴んだまま離さない千晴は、私の言葉を聞いて少し考えてから口を開いた。
「アイツら先輩のこと〝鉄子〟て言うから。それであんな顔してた」
「は?」
あまり感情を感じさせない表情でそう言った千晴に、私は首を傾げる。
私が〝鉄子〟て言われることはもう定着していることだし、千晴が気にするようなことではないんだけど…。
「先輩にはちゃんと柚子っていう可愛い名前があるのに」
少し拗ねたようにぷくっと小さく頬を膨らませる千晴に、どんどん顔の温度が上昇していく。
真っ赤だ。私の顔は今、とんでもなく赤いことだろう。
「…柚子先輩、かわいい」
そんな私を見て、千晴は私の耳元に自身の唇を寄せると、そうを囁いてきた。
「ち、近い!耳元で言うな!耳元で!」
あまりにも近すぎる千晴に、バクバクとうるさい心臓を誤魔化すように、ぐいーっと千晴の顔を右手で押す。
すると、その手を千晴に掴まれて、千晴はその手のひらにまさかのキスをしてきた。
「耳まで真っ赤だね」
その瞬間、色っぽく微笑む千晴に、反射的に、私は左手で握り拳を作り、みぞおちを思いっきり殴ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
生まれ変わったら極道の娘になっていた
白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。
昔、なろう様で投稿したものです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる