推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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10.許せないこと。

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あの後すぐに女の子のお母さんが現れたので、私たちは女の子をお母さんに引き渡した。
女の子のお母さんは、最初、目が真っ赤な我が子を見て、とても狼狽えていたが、沢村くんから丁寧な説明を受け、状況を理解すると、私たちに感謝と謝罪をした。


『ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。娘を助けていただきありがとうございます。ポップコーンもごめんなさい』


と、申し訳なさそうに頭を下げた後、女の子のお母さんがポップコーン代として、数千円を私たちに渡そうとしてきたが、私たちはそれを断り、あの場を後にした。

泣いている女の子に対してあんなにも優しく、狼狽えているお母さんに対しても、冷静に丁寧に対応できる私の推しは、やっぱりすごい人だと改めて思う。
また一つ、推しの素晴らしいところを見つけてしまった。



『…私たち戦うしかないの?』

『ああ、そうだ』



大きなスクリーンに運命diaryの主人公たちのやり取りが映し出される。
残酷な定めに気づいてしまい、信じたくないと苦々しげな表情を浮かべる主人公の少女に、少年が難しい顔で淡々と事実を述べる、そんなシリアスなワンシーンだ。

彼らが今後どうなるのかわかってはいるのだが、ハラハラする展開に、私はずっとドキドキしっぱなしだった。

原作の漫画に忠実な登場人物にストーリー展開。
あえてアレンジは入れず、真っ直ぐに原作の面白さを表現しているこの映画に、まだ数十分しか見ていないが、感動すら覚えていた。

泣いていた女の子の対応をしていたこともあり、沢村くんとここへ来た時には、映画がもう始まっていた。
だが、最初の数分を見逃してしまっても、やはりこの映画はとても面白かった。

そんなことを思いながらも、映画に釘付けになっていると、斜め前の座席から小さな光を感じた。
気になって光の方へと視線を向けると、そこには若そうな2人の男の人がこそこそと何かをしている姿があった。

何をしているんだ?

彼らのことが気になって、映画ではなく、彼らのことをじっと見る。
すると、彼らのうちの1人が、こっそりと鞄からスマホの一部を出し、スクリーンへと向けたのだ。



「…」



目撃してしまった犯罪行為に私は言葉を失った。

あれはどう見ても盗撮だ。
何と許せない行為なのだろうか。

彼らのしていることに気づき、怒りが湧いてくる。
だが、大事にはしたくない、と思った。
ここには沢村くんを始め、運命diaryの映画を楽しみに来ている人たちがたくさんいる。
ここで騒ぎを起こし、映画を台無しにするなんて絶対に嫌だ。



「ちょっと、お手洗いに行ってくる」



なので、私は小声で沢村くんにそう言うと、一度このシアター内から出た。



*****



シアター内から出て数分後。
私は劇場内廊下で仁王立ちし、その場に正座している20代くらいの男二人組を睨みつけていた。
仁王立ちしている私の後ろには、映画館スタッフの大男が2人もいる。
私の後ろに控える映画館スタッフの方は、なかなか迫力のある方で、この状況に男二人組は、ダラダラと冷や汗を流しながら下を向いていた。



「盗撮していたことはわかっているのよ?さっさとスマホを出しなさい」



私にそう言われて、凄まれる男二人組だが、先ほどからずっと黙って下を向いたままで、何も言おうとしない。
一体何故、このような状況が、この劇場内廊下で完成してしまったのか。

その理由を簡単に説明するとこうだ。
シアター内から出た私が、すぐに映画館のスタッフの方に状況を報告し、そしてそれを聞いたスタッフの方が、大男2人を招集、その大男2人と私でシアター内へ乗り込み、盗撮犯二人組を連行したからだ。

連行中、たまたま沢村くんと目が合い、沢村くんがとても驚いた様子でこちらを見ていたが、私はそんな沢村くんに申し訳なさそうに会釈して、さっさとあの場から離れた。
会釈の意味はもちろん「ごめんなさい」だ。

沢村くんは優しいので、きっとあんな場面を見てしまえば、私のことが気になり、映画に集中できなくなってしまうだろう。
私が沢村くんの貴重な映画時間を邪魔しているのだ。

とても申し訳ない気持ちになるが、それでも悪いのは盗撮犯で、それを許す私ではない。
なので今現在私は盗撮犯の前で仁王立ちをしていた。



「ずっとそうやって黙ってるつもり?」



もう数分は黙り続けている男たちに、私を始め、映画館スタッフの方も圧をかけ続けるのだが、男たちは何も言わない。
しかしずっとこちらからネチネチと言われ続けることに耐えかねたのか、盗撮犯の1人がやっと口を開いた。



「…マジで撮ってないから。連絡が来てたから見てただけだし」



こちらと目も合わせようとせず、吐き捨てるようにそう言ったのだが、全く説得力のない言葉だ。
1人が喋り出したことによって、もう1人もやっと言葉を発した。



「…コ、コイツ撮ってないよ。お、俺、隣にいたからわかる…」



こちらもまたこちらと全く目を合わせようとせず、下を向いたまま、落ち着かない様子で自身が掛けているメガネをしきりに触っている。
そんな盗撮犯2人の姿に、やはり嘘をついているな、と私は感じた。
学校でよく見る嘘をつく生徒と雰囲気が2人揃ってよく似てるのだ。



「じゃあ、スマホを見せなさい。ロック解除して」

「「…っ」」



正座をする盗撮犯2人にズイッと顔を近づけ、さらに凄むと、盗撮犯2人は顔を青くして、肩に力を入れた。
そしてついに観念したのか、2人は互いに見つめ合った後、私にようやくスマホを渡した。

全く手のかかる。

ため息が出そうになりながらも、私は大男スタッフの方とスマホの中を確認する。
だが、ここで想定外の事態が発生した。



「…え」



スマホのライブラリの中に盗撮動画が一切なかったのだ。

おかしい。確かに彼らは盗撮をしていたし、様子だって明らかに怪しいのに。
それなのに動画が出てこないなんて。

内心焦っている私の横で、大男スタッフの方も「どこにもないですね」とおかしそうに首を傾げていた。



「ほら、撮ってないだろ?」



盗撮犯の1人が、はは、と冷や汗を流しながらもおかしそうに笑う。
盗撮犯のもう1人、メガネをかけている方もへらりと笑った。



「そっちが勘違いしてこうなったんだよね?本当いい迷惑なんだけど?謝ってくれる?」



勝ち誇ったようにこちらを見る盗撮犯2人組に「私の目は誤魔化せない!嘘つくな!」と怒鳴ってやりたいが、証拠がないことにはこれ以上何もできない。

クソッ。悔しいっ。

何も言えずに奥歯を噛みしめていると、その声は聞こえてきた。



「ちょっといい?鉄崎さん」



突然私の横に現れた沢村くんが、スッと私の持っていた盗撮犯のスマホを取る。



「え」


さ、沢村くん?な、何でここに?

沢村くんの突然の登場に困惑する私なんてよそに、沢村くんは慣れた手つきでスマホを触り始めた。



「…このスマホ、どっちのスマホ?」



少しスマホを触った後、沢村くんが真剣な表情で私に質問する。



「…あ、えっとそっちの人」



なので私は。沢村くんの手の中にあるスマホの持ち主を戸惑いながらも指差した。
すると沢村くんは「ありがとう」と私にお礼を言い、その男に近づいた。



「顔あげてください。ロック解除したいんで」

「…」



正座する盗撮犯の前にしゃがみ、私が指差した男の方へと沢村くんがスマホの画面を向ける。
だが、盗撮犯はまた黙り込み、サッと下を向いた。

アイツ!沢村くんの言うことを無視するなんて!



「顔をあげなさい!」



盗撮犯の態度に腹が立ち、私は盗撮犯の顔を両手で勢いよく掴む。そしてそのままグイッと無理やり顔をあげさせた。
私に無理やり顔をあげさせられた盗撮犯と私の目が合い、盗撮犯が顔をまた青くする。

やっぱりこの態度は何かを隠しているもので、確実に無実の人間がする表情ではない。

ギロリと盗撮犯を睨んでいると、「ありがとう、鉄崎さん」と沢村くんが私に優しく微笑み、スマホの画面を盗撮犯の方へと向けた。



「あ、やっぱり」



その場から立ち、ロックが解除されたらしいスマホを触り始めた沢村くんがそう呟く。
それからこの場にいる全員にスマホの画面を見せた。



『…私たち戦うしかないの?』

『ああ、そうだ』



そこに映し出されていたのは先ほど私も見ていた運命diaryの映像で。



「盗撮映像を隠す為にライブラリじゃなくて別の場所にロックかけて保存してたみたい」



沢村くんはそう言うと私にまた優しく笑った。



「そのメガネも怪しいですよね。右にある小さい穴ってカメラのレンズじゃないですか?」

「え!いや、ちが…」



沢村くんに微笑まれて、メガネを掛けている方の盗撮犯が気まずそうに下を向く。

絶対そうじゃん!

沢村くんの言葉に私はすぐに盗撮犯のメガネを奪う。
それからすぐに大男映画館スタッフの方にそれを渡した。



「現行犯ですね、連れて行きます」



メガネとスマホを確認した大男スタッフの1人が、淡々とそう言い、盗撮犯の1人を無理やり立たせる。
さらにもう1人も同じように立たされて、連行させることになった。

これでやっと解決である。
…と思っていたのだが。


「このクソ女!お前のせいで計画が台無しだ!」

「お前みたいな凶暴な女、誰も女として見ねぇよ!このゴリラ!」



盗撮犯2人組が去り際に急にしおらしい態度から一変し、荒々しい口調でこちらに叫ぶ。

何と失礼なやつらだ。逆恨みもいいところだ。

こちらを睨みながらも去っていく盗撮犯たちに「うるっさい!この犯罪者!」と叫ぶ。
すると私の横にいた沢村くんが突然私の頭を自身の肩へと寄せた。

な、な、な、な、突然、何!?



「ここにちゃんと女の子として見ているやつがいるから」



突然のことに動揺する私なんて気にもせず、沢村くんは今まで聞いたことのないほど低い声でそう言う。
声だけで沢村くんの怒りが伝わってくる。

推しが私の為に怒ってくれている。
推しが私を〝女の子〟として見てくれている。
推しが私の頭を抱き寄せている。

推しが…。私の推しが…。

推しからの供給があまりにも多すぎて、意識が遠のきそうになる。


ここは天国かな?


あまりの衝撃に意識を失いそうになったが、私は何とかそれに耐え、ただただ精神を統一する為に、遠くを睨み続けた。


 
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