13 / 108
13.VIPなデートの幕開け。
しおりを挟む私が千晴とメルヘンランドに行く、と言ってから、まだ1週間も経っていない。
だが、気がつけばその話をした週末、土曜日には、千晴と共にメルヘンランドに行くことが決まっていた。
『じゃあ土曜日の10時に先輩の家に迎えに行くから』
と、特に何か決めるわけでもなく、ただ一方的に千晴にそう言われて迎えた、約束の土曜日。
私は千晴に言われた通り、家で私を迎えにくる予定の千晴を待っていた。
ここからメルヘンランドまでは車で約1時間ほどだ。
当然、学生である私たちの交通手段に車などなく、行くなら電車かバスでだろう。
どちらで行ってもいいのだが、まあ、電車で行くのが無難だ。
私たちはまだあちらまで行く交通手段でさえもきちんと決めていなかった。
しかし、千晴がうちに来てからそれを決めても、決して遅くはないと考え、私は何も決まっていない現状に何も思っていなかった。
約束の時間、10時になった頃。
ピンポーンと家のチャイムが鳴り、「あらぁ。どうもぉ」という、お母さんの明るい声が聞こえてきた。
おそらく千晴が来たのだろう。
そう判断した私は鞄の中身をざっと最終確認すると、階段へと向かった。
我が家は階段を降りてすぐそこに玄関がある構造だ。
「とっても美人さんねぇ、まさか柚子の彼氏さん?」
階段を降りている途中で、そんなことを聞くお母さんの後ろ姿と、お母さんと向き合う千晴の姿が見える。
違う違う。彼氏じゃない。
それ後輩。
お母さんの千晴への質問に思わず私は心の中でツッコミを入れた。
「はい、彼氏です」
「…っ!?」
だが、千晴は私の心の中のツッコミとは裏腹に、さも当然のようにお母さんに自分が彼氏だと頷いた。
「違う違う違う!」
千晴の衝撃の大嘘に慌てて階段を駆け降りる。
そんな私を見てお母さんは「まあ、照れちゃって~」と、どこか楽しそうにしていた。
全く私の言葉など信じていない様子だ。
照れていない!
訂正しているだけなのに!
「先輩、おはよう」
慌てて降りてきた私に、混乱の元凶である千晴が平然と微笑む。
千晴の今日の格好は、黒の大きめの半袖シャツに黒のスラックスと、全身黒コーデだ。
制服姿の千晴しか見たことがなかったので、私服姿の千晴はどこか新鮮で、とても大人っぽかった。
ちなみに私の今日の格好は、動きやすいワイドデニムパンツに肩に大きなフリルのある白のキャミだ。
髪はいつもとは違い、おろしていた。
「可愛いね、先輩」
「ん?そう?ありがと」
千晴にいろいろと言いたいが、とりあえず千晴の挨拶ついでの褒め言葉を軽く受け取り、「いってらっしゃぁい」と言うお母さんの明るい声を背に玄関から出る。
すると普通の住宅街の路肩に、何故かとんでもなく立派なリムジンが停まっていた。
随分この普通の住宅街に似つかわしくない車だ。
一体誰かこんなところに停めたのだろう。
そう思っていると、私たちがリムジンに近づいたタイミングで、突然リムジンの扉がひとりでに開いた。
「先輩、乗って」
「え。…え?」
千晴に乗るように促されたので、訳のわからないままリムジンに乗り、とりあえず座る。
気がつけば千晴もこのリムジンに乗っており、私の横に当然のように腰を下ろしてきた。
「…」
車内とは思えない立派な空間に固まってしまう。
私たちが座る椅子はソファのようにふわふわで、目の前には長いテーブルまであり、その上には飲み物やちょっとした軽食まで置いてあった。
下手すれば私の部屋の半分くらいはありそうな空間だ。
ここがまさか車内だというのか。
信じられない。
「な、何でリムジン…」
あまりにも衝撃すぎて、私から何とか絞り出せた言葉は、たったこれだけで。
私の言葉を聞き、千晴は、
「遠いから車のほうがいいと思って」
と、当然のように淡々と答えた。
…違う。違うのだ。
車に乗って移動することに説明を求めているのではなく、この金持ちしか乗れないリムジンに乗っているこの現状に説明を求めているのだ。
ただの高校生が当然のように使う移動手段ではないのだ、リムジンは。
「こ、このリムジンとのご関係は…」
「え、関係?うちのリムジンだけど」
「…へぇ」
私の質問に不思議そうに答える千晴に、私は表情をひきつらせた。
メルヘンランドのVIPチケットをどこかから貰い、リムジンを所有するコイツは一体何者なんだ?
…千晴、まさかただの高校生ではない?
*****
メルヘンランドとは。
童話をモチーフにした8つのエリアで構成された日本有数の超大型テーマパークだ。
リムジンで優雅にメルヘンランドに到着した私たちは、まず私の提案でメルヘンランド内にあるお店へと入った。
テーマパークで遊ぶなら、まずは見た目からテーマパークの世界へ入らなければならないからだ。
「テーマパークといえば、カチューシャだと思う」
猫耳のカチューシャを片手に真剣にそう言った私の視線の先には、先ほどからその美しさで人の目を集めまくっている千晴がいる。
私はそんな千晴に、とりあえず手に持っていた不思議の国のアリスのチェシャ猫のカチューシャを付けてみた。
…うん。すごい。普通に似合う。
「ちょっと、今度はこれ付けてみようか」
「うん」
猫耳カチューシャの次はメルヘンランド限定のおしゃれなバケハを被せ、また私は頷く。
これも似合う。
それから私にされるがままの千晴をいいことに、他のものもどんどん被せては脱がせを繰り返した。
すごい。似合わないものがない。
さすが美形。さすが美人。
「んー。悩む…」
一体どれが千晴に一番いいのかわからず、1人で考え込んでしまう。
すると、そんな私に千晴がふわりと笑った。
「今度は俺の番ね」
…俺の番?
バケハを被ったまま、こちらを見る千晴の綺麗な目はどこか期待に満ちており、首を傾げる。
何をそんなに期待しているのだろうか?
いや、待って。俺の番ってまさか…。
「まずこれね、はい」
私がちょうど状況を理解したタイミングで、千晴は私に何かのカチューシャを付けてきた。
千晴も先ほどの私と同じように、私にいろいろな被り物やカチューシャを試すつもりだ。
「…」
恥ずかしいのでやめてもらいたいが、つい先ほどまさにそれを私が千晴にやっていたので、やめろとは言いづらい。
「え、犬耳の先輩可愛い。うちで飼いたい。次、これね」
「…」
「えー。キャップも可愛すぎない?てか頭ちっさいね、先輩。可愛い」
「…」
「バケハもいいね。サングラスもいい。全部いい。全部買う?」
「…」
今度は私が千晴にされるがままとなり、恥ずかしさのボルテージがどんどん上がっていく。
心なしか周りの人の視線がこちらに集まっているような気さえした。
「先輩は何でも似合うね。かわいい」
「~っ!うるさい!」
まじまじと私を見る千晴についに我慢の限界を迎えた私は、ぐーっと千晴の胸を押し、距離を取った。
ここここいつ!可愛い可愛い本当にうるさい!
恥ずかしい!
そんな私を何故か千晴は嬉しそうに見つめていた。
その後私たちは日差しの強さからお揃いのバケハとサングラスを買ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた
ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」
三十二歳、独身同士。
幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。
付き合ってもないのに。
夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。
断る理由が、ない。
こうして、交際0日で結婚することが決まった。
「とりあえず同棲すっか」
軽いノリで決まってゆく未来。
ゆるっとだらっと流れていく物語。
※本編は全7話。
※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。
※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。
三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。
新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。
ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる!
実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。
新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。
しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。
ややヤンデレな心の声!?
それでも――――。
七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。
『俺、失恋で、死んじゃうな……』
自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。
傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される?
【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』
【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる