12 / 108
12.お誘い。
しおりを挟む最高すぎた推しとのデートの翌日の放課後。
私は今日も風紀委員室にいた。
そして机を挟んで目の前に座る千晴のことを睨んでいた。
今日こそはきちんと反省文を書かせる為に。
先日は仕事のついでに千晴の反省文の監督をしたせいで、酷い目にあった。
だから今日は仕事もせずに、千晴から片時も目を離さないつもりだ。
少しでもおかしなことを書き始めたら止めてやる。
「ねぇ、先輩」
「ん?」
先日とは違い、一応真面目に反省文を書いていた千晴を睨みつけていると、ふと千晴が思い出したかのように手を止め、顔を上げた。
急にどうした?
「先輩は土日何やってたの?」
「え?土日?」
「そう土日」
千晴からの突然の質問に首を傾げる。
私を見る千晴には、何か意図があるようには見えず、本当に今思ったことをそのまま口にした、という感じだ。
「推し…じゃなくて、沢村くんとデート」
なので、私も特に何も考えずにただ淡々と千晴からの質問に答えた。
「…」
私の答えを聞いた後も、千晴は何も言わずに、ただじっとこちらを見続ける。
そんな千晴の様子に、まだ続きが聞きたいのかな、と思い、私は続けて喋ることにした。
「運命diaryっていう漫画が原作の映画を観に行ったんだけど、その前にその漫画に出てきた神社に行ってきたの。近場にまさかあんな神スポットがあるなんて知らなかったよ」
そこまで言って、制服からスマホを取り出し、ライブラリを開く。そしてその中にある風景の写真や沢村くんの写真を千晴に見せた。
ここまで喋り出すともう止まらない。
「沢村くんかっこいいでしょ?デートのプランも沢村くんが考えてくれて、めっちゃ楽しかったんだよ。沢村くん、すごいスマートで、子どもには優しいし、盗撮犯には毅然と立ち向かうし。困っている人には、平等に手を差し伸べられる素敵な人だったの」
昨日のことを思い出し、思わず締まりのない表情になる。推しが尊すぎて、語っても語っても、語り足りない。
あんな素晴らしい人の彼女になれた私は世界一の幸せ者だ。
ついヘラヘラしたまま千晴を見ると、千晴はどこか面白くなさそうにこちらを見ていた。
…少し語りすぎたようだ。
この話はこれで終わりだ、とライブラリを閉じ、ホーム画面に戻してから、スマホの画面を消す。
すると、暗くなったスマホの画面に一瞬だけ、不満げな千晴が映った。
どうやら面白くないを通り越して、機嫌を損ねてしまったらしい。私の話が長すぎるあまりに。
語りすぎてごめん、千晴。
興味のない話を永遠に聞かされればそうなるよね。
反省し、千晴に謝罪しようとした。
その時。
「…先輩、俺ともデートしよ」
「へ?」
突然、千晴から耳を疑うようなことを言われた。
不満そうだが、どこか真剣な気もする千晴を、私はついまじまじと見る。
今、デートに誘われた?
まさか。そんなまさかね。
『先輩、俺のデートの話も聞いて』とか、そんなことを言ったのだろう。
…だが一応、万が一もあるので、聞き直した方がいいだろう。
「もう一回言える?」
「俺ともデートしよ」
「…はぁ?」
無表情だが、どこか焦がれるような視線を私に向ける千晴に、表情がひきつる。
聞き間違いではなかったようだ。
「ごめんけど、私はあくまで沢村くんの彼女なので。千晴とデートはできません」
きっぱりとそう千晴に告げると、千晴は黙ったまま視線を落とした。
一体何なんだ。
*****
そう、きっぱりと告げたはずなのだが。
次の日の朝、いつものように校門前で委員会活動をしていると、千晴が私の前に現れた。
2枚のチケットを見せながら。
「これ、メルヘンランドのチケット。もらったから一緒に行こ、先輩」
そう淡々と誘ってきた千晴に、呆れて苦笑いを浮かべてしまう。
メルヘンランドとは、日本でも有数の超大型テーマパークで、老若男女問わず大人気の場所だ。
「いや、私は沢村くんの彼女…」
昨日も同じ理由で断ったはずなのに何故誘う、と思いながらも、何となく千晴の手にあるチケットを見て、私は言葉を止める。
千晴の手にあるチケットが普通のチケットには見えないのだ。
そもそもメルヘンランドのチケットは基本電子チケットで、あまり紙のチケットは見ない。
紙のチケットだから違和感を覚えているだけなのだろうか。
どうしてもこの違和感の正体が気になって、よくチケットを観察する。するとチケットにはVIPという文字が記載されていた。
え、VIP?
「え、えぇぇぇ!?」
千晴の手にある信じられないものに、思わず大きな声を出してしまう。
それから私は慌てて自身の口を塞いだ。
いけない!こんなたくさんの生徒の目があるところで取り乱してしまうなんて!
だが、今、千晴が手に持っているものは、そうなってしまってもおかしくないものなのだ。
千晴の手にあるメルヘンランドのチケットは、どうやらVIPチケットらしく、本物であれば、なかなか簡単には手に入らない価格帯のものだった。
私の記憶が正しければ、確か10万以上はするものだったはずだ。それをただの高校生の千晴がもらったとは…。
一体どういう関係の人からもらったんだ。
「と、とりあえず、それ、しまって」
千晴の手にあるものの価値に気づき、青ざめながらもそれをしまうように千晴に指示する。
すると、千晴は「はーい」と適当に返事をし、さらに適当に制服のポケットにチケットを入れようとしたので、私は慌てて鞄にしまうように強く言った。
千晴はきっとあのチケットの値段や価値をちゃんとわかっていないのだ。
あれはレシートと同じような扱いをしていいものではない。
「で、一緒に行ってくれるの?先輩?」
千晴の何もわかっていない言動にやきもきしていると、どこか甘えるようにこちらを見る千晴と目が合った。
キラキラと輝く日本人ならまず似合わせることの難しい金髪から覗く、綺麗な瞳がこちらをまっすぐと見つめている。
私と一緒に行きたい、と訴えるその瞳に、私は複雑な気持ちになった。
「…千晴の先輩ってだけで、そんな高価なチケットでメルヘンランドには行けないよ」
私は千晴にとってただの口うるさいだけの先輩だ。
そんな私がこんな貴重なチケットを使える訳がない。
VIPチケットでメルヘンランドに行ってみたい気持ちももちろんあるが、さすがにそれは気が引けるし、受け取れない。
「だから私じゃなくて、もっと仲のいい人とか大切な人とかと行き…」
「そんな人先輩しかいない」
「え」
「だからそんな人俺には先輩しかいないよ」
寂しそうにこちらを見る千晴の言葉に、嘘だ、と一瞬思う。
だが、それは本当に一瞬だけで、すぐに千晴の言葉は本当かもしれない、と思った。
悪い噂が絶えず、生徒たちに恐れられ、距離を取られている千晴が、学校で誰かといるところを私は見たことがないのだ。
「柚子先輩が一緒に行ってくれないなら、俺、メルヘンランドに行けない」
私よりも倍大きい男がシュンとした表情で私を見る。
「わ、私は沢村くんの彼女で…」
「チケットはあるからあとは行くだけなのに」
「だから私は…」
「柚子先輩しか一緒に行く人がいないのに」
「だから、わ、私はっ」
「行きたかったな…」
「~っ」
どこか辛そうに私から視線を逸らした千晴に、私の良心がとうとう限界を迎える。
「…わかった。一緒に行くよ」
「本当?ありがとう、先輩」
ついに頷いた私に、千晴は先ほどの辛そうな表情が嘘かのように嬉しそうに笑った。
…ま、負けた。
あんな寂しそうな顔をされては良心が痛んで断れない。
0
あなたにおすすめの小説
生まれ変わったら極道の娘になっていた
白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。
昔、なろう様で投稿したものです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる