推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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17.お土産と影。

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side柚子



沢村くんの名誉ある彼女(上辺だけ)になり、もう1ヶ月。10月に入り、暑さも和らいできた今日この頃。
私は今日も朝の委員会活動を終え、教室へと移動していた。
そしてその道中、下駄箱でなんと朝練後の私の推しと遭遇した。



「おはよう、沢村くん」

「あ、鉄崎さん。おはよう」



私に挨拶を返して、爽やかに笑う沢村くんは今日も相変わらず眩しすぎる。

練習後で暑いだろうに、着崩すことなく、きちんと着ている制服。
汗を拭くために首にかけられているタオル。
少しだけ乱れているが様になっている髪。
練習後にしか得られないかっこよさがそこには確かにあった。

推しが尊すぎる。
かっこよすぎる。

今日も沢村くんのかっこよさに密かに目を奪われていると、ふと、沢村くんの肩にかかった大きな黒リュックでゆらゆらと揺れているあるものに目がいった。
沢村くんのリュックでゆらゆらと揺れているのは、メルヘンランドのマスコットキャラクターである、メルヘン猫のぬいぐるみキーホルダーだ。
あのふわふわで可愛らしすぎるキーホルダーは以前、私が沢村くんにお土産としてあげたものだった。

ーーーーそれは遡ること、約2週間前のこと。



*****



放課後、たまたま時間が合い、沢村くんと一緒に帰っていた私は満を持して、鞄から可愛くラッピングされた袋を取り出した。



「沢村くん!これ!」

「…?」



私にずいっと袋を押し付けられて、沢村くんが不思議そうにそれを受け取る。



「どうしたの、これ?」



それから伺うように私を見た。



「…あ、あのね。この前、メルヘンランドに行ったから、そのお土産で…」



迷惑ではないだろうか、と不安に思いながらも、おずおずと沢村くんを見る。
すると、そんな私の不安なんてよそに、沢村くんはまじまじと私が渡した袋を見つめて、とても嬉しそうに目を細めた。



「俺のためにわざわざお土産を買ってきてくれたの?嬉しい…。ありがとう、鉄崎さん」

「…へ、あ、あ、うん」



まさかこんなにも喜んでもらえるとは思わず、私まで嬉しくなり、声がうわずる。

推しが私なんかのお土産でこんなにも喜んでくれるとは。
買った甲斐があったし、今後どこへ行くにも必ず沢村くんへのお土産を買おうと思えてしまう。
推しに貢ごう。絶対…!

舞い上がっている私の横で、沢村くんは早速袋を開け、中身を確認すると、「メルヘン猫だ。かわいい」と顔を綻ばせていた。

…絶対、貢ごう。うん。絶対。大決定。



「ところでメルヘンランドには誰と行ったの?」



決意を新たにしていると、メルヘン猫から私に視線を移した沢村くんがそんな質問をする。



「千晴とだよ。千晴がVIPチケットをもらってね。それで行ったんだけど、VIPの力がすごくって…」



なので、私は沢村くんに笑顔で答え、ついでに週末の思い出を話し始めた。

ーーーが、それを私は途中で止めた。
沢村くんの表情が突然どこか暗くなったからだ。



「…華守、くんと?」



先ほどまでと同じ笑顔なのだが、どこか違う気がする沢村くんの笑顔。
決定的に何が違うのかはわからないが、やはりそこには先ほどまではなかった違和感がある。

急に雰囲気が変わった気がする沢村くんを凝視していると、沢村くんは優しい笑顔で口を開いた。



「2人だけで行ったの?」

「…うん。2人で行ったよ。もらったVIPチケットが2枚しかなかったから…。もちろん、最初は断ったんだけど、千晴、友達が1人もいないから行ける人、私しかいなくて」

「…そっか」



沢村くんの様子を伺いながらも答えた私に、沢村くんが力なく笑う。
何で急に沢村くんから元気がなくなったのだろうか。



「…鉄崎さん」

「…う、うん?」

「俺ともまたメルヘンランド行こう?」

「っ!も、もちろん!」



突然元気をなくした沢村くんを心配していると、いつもの眩しい笑顔で沢村くんは、なんと私をメルヘンランドへと誘ってくれた。
胸がいっぱいになった私は笑顔ですぐにその誘いに頷いた。

なんと名誉なことなのだろうか。
また沢村くんとデートができるだなんて!

そこから私はメルヘンランドの何が楽しかったか、次沢村くんと行く時の為に、たくさん思いつく限り話した。
途中で千晴の名前が出ると、沢村くんの表情が一瞬だけ暗くなった気もしたが、おそらく気のせいだろう。



*****



約2週間前のことを思い出し、思わず頬が緩む。
あの時、一瞬だけ沢村くんから元気がなくなった気もしたが、私からのお土産にとても喜んでくれ、さらにはメルヘンランドに一緒に行けることも確定し、とにかくもう最高だった。
やはり、千晴のアドバイス通り、沢村くんにお土産を買ったことは正解だったみたいだ。

沢村くんのメルヘン猫を見ながらそんなことを思っていると、私の視線に気づいた沢村くんはにっこりと笑った。



「これ、可愛くて気に入ってるんだよね。ありがとう、鉄崎さん」



リュックの横にぶら下がるメルヘン猫に視線を落とし、ちょんちょんと嬉しそうにメルヘン猫を触っている沢村くんに、胸がきゅーっと締め付けられる。
柔らかく細められた瞳には、メルヘン猫を慈しむ優しさが確かにあり、胸がいっぱいになった。

私があげたものをあんなにも大切そうにしてくれているだなんて、嬉しすぎて昇天しそうだ。
そもそも私があげたものを身につけてくれている時点でもう最高なわけで。

ありがとうございます。
またお土産買います。絶対。



「ところで鉄崎さん」

「…ん?」



嬉しくて嬉しくてついニコニコしていると、そんな私の顔を沢村くんが覗き込んできた。

こちらを伺うように少しだけ上目遣いで私を見る推しの破壊力は相変わらずだ。
死人が出てしまうぞ。



「今日からテスト週間でしょ?部活も委員会活動も禁止だからいつもと帰る時間違うけど、一緒に帰らない?」

「うん、もちろ…「せーんぱい」



心では沢村くんの魅力にやられながらも、表では平静を装い、沢村くんの誘いに当然頷こうとした、その時。
私の声を突然現れた千晴が遮った。



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