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27.眩しくて尊い。
しおりを挟むside柚子
沢村くんから放たれたシュートが綺麗な弧を描き、まるで吸い込まれていくようにゴールへと落ちていく。
それから審判のホイッスルが鋭く鳴り響いた。
ーーーー得点だ。
そう理解した瞬間、会場中が沸いた。
「す、すごい!今の決めるの!?」
「かっこよすぎねぇか!」
「いいぞー!悠里ー!」
鷹野高校の生徒だけではなく、華守学園の生徒までも、先ほどの沢村くんのワンプレーにどよめき始める。
そしてそのまま2点リードで試合は終了した。
「…~っ!!!!」
おおおおおお、推しが!沢村くんが!かっこよすぎる!
さすがすぎる!
私は沢村くんのすごさ、尊さ、かっこよさ、存在、全てにやられて、周りと同じように、だが、1人で静かに興奮していたのであった。
*****
試合終了後、両校が落ち着いたところを見計らって、私は階段を降りていた。
もちろん沢村くんに一言声をかける為だ。
私と一緒にいた雪乃は今この場にはいない。
当初の予定通り、他校のイケメンと合流中だからだ。
コート内が見える扉の前まで来て中を覗くと、そこには部員に囲まれて、笑っている沢村くんの姿があった。
…やはり、とても、とても、かっこいい。
普段の沢村くんもかっこいいが、今日の本気でバスケをする沢村くんもまたいつもと違ったかっこよさがあった。
真剣な姿も、光る汗も、華麗なプレーも、何もかもよかった。
あんなにも尊く、素晴らしい存在を私は知らない。
真剣にバスケをする沢村くんのことを知らなかった今までの私はどうやら人生を半分損していたようだ。
ここから沢村くんまで結構距離がある。
未だに沢村くんは部員たちと談笑中で、声をかけづらい状況だ。
どうやって声をかけよう?と、沢村くんに声をかける方法を模索していると、たまたま沢村くんと目が合った。
私と目の合った沢村くんは一瞬、「あ」という表情になり、嬉しそうに目を細める。
それから周りの部員たちに声をかけ、なんとこちらにわざわざ駆け寄ってきてくれた。
「鉄崎さん、今日はありがとう。ちょっとあっちで話さない?」
いきなり目の前まで迫ってきた推し。
何と眩しく、尊い存在なのだろうか。
「…う、うん」
私は早鐘のように鳴る心臓をなんとか押さえて、沢村くんに頷いた。
*****
沢村くんと2人でやってきたのは、体育館の裏口の外だった。
そこには誰もおらず、私たちだけだ。
私たちは扉の前にある三段くらいの小さな階段に腰を下ろし、肩が触れそうな距離にいた。
「…沢村くん。今日は誘ってくれて本当にありがとう。すごかったし、かっこよかったし、最高だった。試合も面白くてずっと観ていられたよ。バスケって面白いね」
私の隣にいる沢村くんに、精一杯の感謝と感動を伝える。
語彙力がないせいで、上手く伝わっているかわからないが、この感動を伝えずにはいられない。
「最後の沢村くんのシュートも印象的でよかったけど、ずっとチームの中心でプレーしてた沢村くんが本当にかっこよくて、うちのエースなんだなぁ、て思ってさ。何が言いたいかというと、つまり沢村くんはすごくてかっこいいっていうことで…」
はっ!待って!喋りすぎているのでは!?
話し出すと止まらず、ついつい笑顔で喋り続けてしまっている現状に気がつき、一気に血の気が引いていく。
沢村くんに引かれていないか、恐る恐る改めて沢村くんを見てみると、沢村くんはとても嬉しそうにこちらを見ていた。
…あれ?引かれていない?
それとも「ちょっと喋りすぎじゃない?」とか思っているけど、笑顔で隠している?
いやいやいや。あの沢村くんがそんなこと思うわけないじゃん。笑顔で本音を隠すわけないじゃん。
…でも優しいから優しい嘘をついている可能性はあるかも。
急に喋らなく…いや、喋れなくなった私を見て、沢村くんは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「…あ、いや、ごめん。私ばかりがずっと喋っていたから…。沢村くん嫌な気分になってない?」
「ん?何で?自分のこと褒められているのに嫌な気分になるわけないよ」
申し訳なそうにしている私に沢村くんが優しく笑う。
それから「でも、ちょっとだけ恥ずかしいはあるかも」と照れくさそうに私から視線を逸らした。
そのタイミングで少しだけ赤い沢村くんの耳が目に入る。
そのことに気がついた時、私は思った。
推しが可愛すぎる、と。
そんなことを思っていると、沢村くんが突然、少し改まった様子で私を見た。
「…あの鉄崎さん」
こちらを伺うように、けれど、まっすぐと見つめる沢村くんの頬は耳と同じようにほんのり赤い。
どこか言いづらそうにしている沢村くんに、私はその先の言葉が気になった。
一体、沢村くんは私に何を言いたいのだろうか。
「お願いがあるんだけど。いい?」
「お願い?」
全く予想していなかった沢村くんからのお言葉に、今度は私が不思議そうに首を傾げる。
だが、私はすぐに「もちろん」と頷いた。
推しからのお願いに応えないわけがないではないか。
どんなことだって叶えてみせる。絶対に。
「…名前で呼んで欲しいんだ。俺のことも」
「…へ」
名前で呼んで欲しい?
私よりもずっと身長の高い沢村くんが、伺うように上目遣いでこちらを見ている。
絶対に狙ってそうしていないことはわかっているのだが、とてもそれがあざとく見えて仕方がない。
まるで子犬のような沢村くんに私の脳内は爆発した。
目の前に大きな大きな可愛い子犬がいる。
すごくすごく可愛い。
抱きしめたい。
「…な、名前で呼んで欲しいって、下の名前でってことだよね?なんで急に?」
脳内は沢村くんの尊さでわけのわからない思考になっていたが、何とか表面上は平静を装って、笑顔で沢村くんに理由を問いかける。
すると沢村くんは言いづらそうに視線を伏せた。
「…鉄崎さん、華守のことは名前で呼ぶでしょ?でも俺のことは名字だし…。鉄崎さん…いや、柚子の彼氏は俺なんだし、彼氏として名前で呼ばれたくて…」
目の前で未だに頭に犬耳を生やし垂れさせている沢村くんの言動に鼓動が早くなる。
な、何と可愛らしい理由なのだろうか。
私の彼氏だから、ただそれだけの理由で、下の名前で呼ばれたがっているなんて…。
しかも今、さらっと私のことを〝柚子〟と名前で呼んでくれた。
我が人生に一片の悔いなし、だ。
胸がいっぱいになり、今すぐにでも衝動のまま、首を縦に振りたいと思う。
…だが、私にはどうしてもそれができなかった。
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