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29.突然の来訪者。
しおりを挟むあの素晴らしすぎる練習試合から数日後。
平日の夜、私は自分の部屋でくつろぎながらスマホの画面を見ていた。
スワイプしても、スワイプしても、出てくるのはデートの時に死ぬほど撮った、私の推しである悠里くんの写真だ。
整った顔立ちも、爽やかな笑顔も、黒いサラサラな髪から覗く優しげな瞳も。全部全部、尊く、眩しい。
推しの神々しさに、ついついだらしない表情を浮かべていると、スマホの画面に悠里くんではない人物が現れた。
異様に整っている顔立ちの美人、千晴だ。
スマホの画面に映っている千晴はキラキラと輝く夜のメルヘンランドを背景に、私と共に笑っていた。
私とお揃いのバケハとサングラスを身につけて。
「ふふ」
その写真を見て思わず頬が緩む。
それからあの特別で楽しかった1日に私は思いを馳せた。
どのアトラクションも待ち時間0分で体験でき、疲れたらVIP専用の特別なラウンジで休める。
アトラクションはどれも楽しく、日常を忘れさせ、ラウンジの食べ物や飲み物は全てチケットに含まれている為、食べ飲み放題でどれも最高に美味しかった。
きっとあの特別な体験は今後一切できないものだろう。
そこに千晴がいて、私はとても楽しいと思えた。
特別を1人ではなく、2人で味わえたことによって、さらに最高の1日を過ごすことができた。
素行は悪いし、学校のルールもろくに守らないし、マイペースでめちゃくちゃなやつだけど、ちゃんといいところもあるやつなんだよね、千晴は。
メルヘンランドでも、私が行きたい、と言えばどんなアトラクションにでも付き合ってくれたし、苦手らしいお化け屋敷でも私を守るように歩いてくれていた。
まっすぐ曲げずに思ったことを相手に伝えられる素直さもあるし、本気でスポーツに打ち込む熱意や強さもある。
みんなももっと私のように千晴のいいところを知れば、あんなふうに怖がることもなくなるだろう…と言いたい。
だが、実際は千晴には申し訳ないが、胸を張ってそうだとは言い切れないのが現状だった。
結局は千晴のあの周りを圧倒する態度、素行の悪さが、今の千晴の現状を招いているのだ。
少なくとも学校生活の中では100%千晴が悪い。
千晴の評判が悪いのも、怖がられているのも、全部千晴のせいだ。周りの誰も悪くない。
千晴のことをたまたま深く考えていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
ご近所の佐藤さんでも来たのだろうか。
そんなことを思いながらも、その場で扉の方へと聞き耳を立てると、その声は聞こえてきた。
「あらあらぁ~。ご丁寧にどうもぉ」
お母さんの声は高く、よく響く。
どこか嬉しそうだが、丁寧なお母さんの声に、私はすぐに相手は佐藤さんではないな、と察した。
仲の良いご近所さんを相手にするには、なんだか他人行儀な雰囲気を感じたからだ。
では、一体誰が我が家にやってきたのか推測していると、扉の外、一階の玄関からお母さんがこちらに声をかけてきた。
「柚子ー!柚子の彼氏さんの妹さんがいらしたわよー!」
私の彼氏さんの妹さん?
お母さんの言葉に首を捻る。
私の彼氏さん=悠里くんだ。
つまり、今、我が家の玄関には悠里くんの妹さんがいらっしゃるということなのか。
推しの妹。絶対に可愛い。
ご挨拶しなければ。
「アナタのお兄さまとお付き合いしております!」と。
そこまで考えた私はドタバタと自分の部屋から飛び出て、そしてすごい勢いで階段を駆け降りた。
まず目に入ったのは、お母さんの見慣れた背中だ。
お母さんの手には高級そうな紙袋があり、今そこにいる推しの妹さんからいただいたのだ、と私はすぐに理解した。
それからお母さんの視線の先を辿ると、そこには上等そうな白いワンピースに身を包む中学生くらいの少女と、その少女の背後に並ぶ、ゴリマッチョスーツ4人組がいた。
…とても異様な光景である。
うちの一般的な玄関にはとてもじゃないが、収まらない人数と大きさなので、ゴリマッチョスーツたちは玄関の外にいる。
あの少女は何者なのか、と階段を降りながらも、まじまじと見ると、何だか見覚えのある顔立ちをしていた。
透明感のある栗色のふわふわの髪。
その綺麗な髪を高めにハーフツインにしている彼女の顔はとても整っており、美人だ。
悠里くんの妹さんのはずなのに、その美しさがあまりにも悠里くんではなく、千晴を感じさせた。
つい先ほどまで、千晴の写真を見ていたから、そう思ってしまうのか。
美少女は玄関までやってきた私と目が合うと、その美しい瞳を細めて、膝を軽く曲げた。
「初めまして。わたくし、華守千晴の妹、華守千夏と申します」
可憐に挨拶をする美少女、千夏ちゃんに、思わず眉間にシワを寄せ、口をぽかーんと開けてしまう。
ツ、ツッコミどころが多すぎる!
私の彼氏は悠里くんのはずなのに、ここでは何故か千晴が私の彼氏になってるし!
千晴の妹を名乗る美少女が何故かうちにご訪問しているし!
その美少女の後ろにはゴリマッチョスーツが真面目な顔で控えているし!
一体これは何!?
どこからツッコミを入れるべきなの!?
現状に頭が追いつかず、どうすればいいのかよくわからなくなり、固まってしまう。
しかしそんな私なんてお構いなしに、相変わらず強引でマイペースなお母さんは「それじゃあ、ごゆっくり~」と、いつの間にか千夏ちゃんを私の部屋へと案内していた。
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