推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
37 / 108

37.盛大な勘違い。

しおりを挟む




「改めてさっきは助けてくれてありがとう。助かったわ」



机を挟んで目の前に座る千夏ちゃんが、優雅に瞳を伏せ、お礼を言う。
私はそんな千夏ちゃんと、その後ろに広がる異世界のような光景に、ぽかーんと口を開いていた。

ここは千夏ちゃんに連れられてやってきた、とても高級な雰囲気のカフェ。
内装は、中世ヨーロッパ風のお城のように煌びやかでありながら落ち着いた雰囲気があり、庶民なのでその価値はよくわからないが、カフェ内を彩る装飾や家具は、明らかに特別で高そうだった。

メニュー表に値段が書かれていないことも怖い。
果たしてここのカフェ代を私の所持金…いや、全財産で払えるのだろうか。

たくさんの上品な方々が高そうな服を着て優雅にお茶をする中、明らかに制服姿の私は浮いていた。
そんな私と周りに馴染んでいるお嬢様、千夏ちゃんをゴリマッチョSPたちは、通路を挟んで隣のテーブルでじっとただただ見守っていた。

…なんとも不思議な光景だ。



「…あのお礼はいいんだけど、事情を聞いてもいいかな?どうしてあんなことに?」

「ああ、あれね。実は…」



私に遠慮がちに説明を求められて、千夏ちゃんはなんでもないように口を開いた。



「アナタがたまたま近くにいると聞いてね?わたくし自身の目で、アナタを改めて見てやろうと思って、急いで移動していたの。けれど、途中でどうやらトラブルがあったみたいで、SPたちと一時的にはぐれてしまって…。それであのようなことになったのよ」

「…はぁ」



簡潔に説明を終え、高そうなカップを手に取り、優雅に口にする千夏ちゃんに、間の抜けた返事をしてしまう。
一応きちんと説明してくれているのだが、ちょっと意味がわからない。
何故、千夏ちゃんは私をそんなに急ぐほど見たかったのか。別に見たいのならこの前のように家にでも来ればいいではないか。

そのことを千夏ちゃんに伝えると、千夏ちゃんは呆れたように笑った。



「あら?忘れたの?わたくし、アナタが華守の女に相応しいか見極めると言ったじゃない。あれからわたくし、ずっとアナタを見ていたのよ?あらゆる手段を使ってずっとね」

「…」



千夏ちゃんの言葉に唖然とする。

千夏ちゃんのあの「見極める」発言を、私はもちろんしっかりと覚えていた。
あんなにも強烈な出会いを忘れるはずがない。

…が、千夏ちゃんが実際どのように私のことを見極めるのかまでは全く知らなかった。
だからまさか物理的に見られ、見極められるとは、微塵も思っていなかったのだ。



「アナタ、何も持たない庶民にしては、とても素晴らしいお方なのね。学校での成績も上々、一年の時には異例の風紀委員長に大抜擢され、現在も任され、一目置かれている、正義感も強く、誰にでも平等に優しい。わたくしのことも、危険をかえりみず、すぐに助けた行動力。人格も申し分なく、見た目も悪くないわ」



突然始まった千夏ちゃんからの評価に、なんだかむずむずする。
こんなにも他人からまっすぐハッキリと褒められる機会はなかなかない為、気恥ずかしい。
このストレートさ、さすが、千晴の妹だ。

気恥ずかしいが気分よく千夏ちゃんのお話を聞いていると、突然、千夏ちゃんはその表情を曇らせた。



「アナタは本当に素晴らしいお方だったわ。お兄様がアナタを選んだのも頷ける。ただ…」



そこまで言い、千夏ちゃんは一度、言葉を止める。
それから意を決したように、私をその綺麗な瞳でギロリと睨みつけた。



「男癖が悪すぎるわ!アナタ!」



ビシッ!と千夏ちゃんに人差し指で勢いよく指されて、何故、と思う。

男癖が悪いとは、すなわちたくさんの男に手を出し、関係を築いている、ということだ。
雪乃がそう言われるのはまだしも、私がそう言われてしまう理由がわからない。
私はただ1人、悠里くんしか推していない。
しかも、推すことしかしていないのだ。
ちょっと彼女ポジションに収まっているが、それだけなのだ。



「あの千夏ちゃん?私、男癖悪くないと思うんだけど…」



あまりにもおかしなことを言っている千夏ちゃんに、恐る恐る伺うと、キッとキツく睨まれた。



「男癖が悪くない?まぁ、それは何かしら?自分は正常だと言いたいのかしら?」

「…え、うん。まあ、そうだけど」

「はっ、片腹痛いわ、全く」

「え、えぇ?」



眉間にシワを寄せる千夏ちゃんに私はただただ戸惑う。
千夏ちゃんが何故、ここまで自信を持って、私に「男癖が悪い!」と言い切れるのか本当にわからない。

疑問を抱き続けていると、千夏ちゃんは呆れたように笑い、口を開いた。



「お兄様という恋人がいながら、アナタは鷹野高校バスケ部の王子様と呼ばれるお方、沢村悠里と関係を持っているわよね?まるで恋人のように振る舞い、周りにそうであると勘違いさせ続けるその行為。表では沢村悠里と、裏ではわたくしのお兄様と付き合うとは、ふしだらすぎるわ!よってアナタは華守にふさわしくない!この最低女!」

「…」



最初こそまるでわかっていない私におかしそうに説明していた千夏ちゃんだが、どんどんそこに熱が入っていき、最後にはまるで私を断罪するように叫ぶ。
そんな千夏ちゃんに私は苦笑いを浮かべた。

…何もかも違うからだ。
とんでもない誤解だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。 昔、なろう様で投稿したものです。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...