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43.自覚。side悠里
しおりを挟むside悠里
慌ただしく時間は過ぎていき、あっという間に午後になった。
先ほどまでクラスのカフェにいた俺は、今度はバスケ部の出し物の為に、ユニフォーム姿で体育館にいた。
バスケ部の出し物は、スリーポイントラインから3回シュートを打つ、というシンプルなスリーポイントシュートゲームだ。
3回中1回でもシュートが決まれば、ユニフォーム姿の部員、もしくはジャージ姿のマネージャーとチェキが撮れる、という特典もある。
体育館の壁には、部員やマネージャーの写真が、まるでホストクラブのようにデカデカと貼られており、そこから誰とチェキを撮るのか決められるようになっていた。
ちなみにうちの部のマネージャーは男なので、写真相手は男しかいない。
二日間行われる文化祭の中で、俺の自由時間は、明日の午後だけだった。その午後の時間はもちろん、柚子と過ごす予定になっている。
そんなことを考えていると、ふと、先ほど会えた柚子の姿が頭に思い浮かんだ。
いつもと変わらない長い綺麗な黒髪をポニーテールにしている柚子。
けれど、その格好はいつもとは違い、紺色のセーラーで。
…セーラーも可愛かったな。
頬を赤らめてこちらを見つめる柚子の姿を改めて思い出し、俺はその可愛さを噛み締めた。
最初は本当に最低だが、フラれるつもりで告白した。
それがたくさんの人から向けられる俺への好意を止める手段の一つだったからだ。
けれど、一緒にいるうちに、いろいろな柚子を一つ一つ知っていくうちに、確実に惹かれていった。
きっと少しでも一緒にいたいと思うのも、ふとした瞬間に思い出して可愛いと思うのも、華守相手につい嫉妬してしまうのも、全て柚子が好きだからだ。
きっとこの想いこそが〝恋〟なのだ。
「悠里、最近、鉄子といい感じじゃん」
バスケゴールの下で、お客さんを待っていると、陽平が気だるげな笑顔でそう話しかけてきた。
「…そう、かも。これも全部、相談に乗ってくれた、みんなや陽平のおかげだよ」
「ん。よかったな」
「うん。ありがとう」
俺の答えに優しく目を細めた陽平に、俺は改めてお礼を言った。
やはり持つべきものは何でも言い合える仲間だ。
みんなのおかげで、あの謎のモヤモヤの正体を知ることができたし、どうすればいいのか解決策もわかった。
きっとみんなに相談せず、1人で悩み続けていたら、答えに辿り着くまでに相当時間がかかっただろう。
彼らのおかげで俺は今、まっすぐと柚子を好きだと言えるのだ。
俺の気持ちを知ったバスケ部のみんなは、いつも俺の相談に乗ってくれ、応援してくれていた。
「おいおいおーい!悠里ー!来たぞ、お前の彼女がー!」
陽平と話していると、体育館の入り口からそんな明るい隆太の声が聞こえてきた。
大きくこちらに手を振る隆太の横には、セーラー服姿の柚子と柚子の友達、浪川さんがいた。
俺と目の合った柚子は、その大きく愛らしい瞳を一瞬だけ大きく見開き、すぐに柔らかく細めた。
ほんのりと赤い頬に、緩んだ口元は本当に愛らしく、胸がきゅーっと、鷲掴みにされる。
一度好きだと気づいてしまってからの柚子が可愛らしくて可愛らしくて仕方がない。
目が離せない。
隆太に連れられてこちらにきた柚子は、俺にふわりと笑った。
「この前のユニフォームとは違うんだね。かっこいい」
瞳をキラキラと輝かせ、こちらを見つめる柚子が、あまりにも可愛らしすぎて、思わず頬が緩む。
「この前着てたのはセカンドユニだったから。こっちの方がよく着るよ」
そう言って、ユニフォームを軽く掴み、柚子に見せるように引っ張ると、柚子は変わらずキラキラした目で興味深そうに、俺のことを上から下までじっくりと見つめていた。
「見過ぎ」
そんな柚子の観察を止めたのは浪川さんだった。
呆れたようにそれだけ言い放つと、「私たちはバスケ部のゲームをしに来たんでしょ?」と気だるげに確認していた。
「どっちが先にする?」
柚子と浪川さんの様子を見て、陽平がそう淡々と2人に聞く。
2人は顔を見合わせて、しばらく黙った後、「じゃあ私が」と無表情に浪川さんが前に出て、「雪乃から」と真剣な表情で柚子は浪川さんに最初を譲った。
一言も喋っていないのによく意見が一致したな、と2人の仲の良さに思わず感心してしまう。
それだけお互いのことを〝知っている〟のだろう。
だからできることだ。
2人の答えに陽平は「はい、どうぞ」とまずは浪川さんにバスケットボールを渡した。
ボールを渡された浪川さんがスリーポイントラインに立つ。
それからその場にいる全員に見守られながら、シュートを放った。
ーーーシュートを放つこと、3回。
どのシュートも、ゴールに届くことさえできなかった。
「えー。チェキ撮りたかったなぁ」
残念な結果に浪川さんは肩を落とし、ラインから離れていく。
しかし、そんな浪川さんをバスケ部員たちは放っておかなかった。
「ま、待って!浪川さん!」
「こ、今回は特別!特別にチェキ撮影できます!」
「え?いいの?」
頬を赤く染め、一生懸命声を張り上げる部員たちに、浪川さんはぱちぱちとまばたきをする。
戸惑っているようにも見える浪川さんに部員たちは、「いいんです!」と元気よく宣言していた。
それから浪川さんは嬉しそうに部員の中から、一番筋肉のある先輩を指名し、チェキ撮影を始めた。
浪川さんの番が終わり、次はいよいよ柚子の番だ。
ゴールを睨みつけている柚子に俺はボールを渡した。
「頑張って、柚子」
俺の言葉に真剣な表情のまま、柚子はこくりと頷く。
コートに立つ柚子は気迫こそあるが、誰よりも小さく見えた。
普段あそこに立つのが、俺のような男ばかりだからだろうか。
本当に小さく見えて、可愛らしく思ってしまう。
あの小ささ、細さなら、浪川さんのようにゴールにボールを届けることすらもできないだろう。
そう思って見ていると、柚子はまるで経験者の、それも上級者のような綺麗なフォームでボールを放った。
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