推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
42 / 108

42.お礼に。

しおりを挟む




「お姉さん、お待たせ」



いつものように飄々とした態度で再び現れた千晴の手には、何故かクラスメイトの男子生徒がいた。
千晴に学ランの首根っこを掴まれている男子生徒は、顔面蒼白でガタガタと体を震わせていた。

…一体なんだ、あれは。

思わぬ、千晴の再登場に目を細め、眉間にシワを寄せる。

颯爽と現れた長身の金髪美人の手に、首根っこを掴まれ、怯えた男子生徒。

改めて思う。
…なんだ、あれは。

何を言えばいいのか、何からツッコミを入れればいいのか、悩んでいると、千晴は嬉しそうに口を開いた。



「この人がお姉さんと代わってくれるって」

「…へ?ふぇえ?」



千晴の言葉に男子生徒が、今聞きました、といった様子で目を見開く。



「お、俺、そ、そんなつもりは…」

「何?でもアンタ言ったじゃん。助けてくれるって。だから助けてよ」

「い、言いましたけれど…」

「俺、このままじゃ脱出できないし」

「え、ええ。だから俺が…」



千晴は淡々と言っている。脅しているような素振りもない。
だが、そのセリフ一つ一つが怖いのか、男子生徒の言葉はどんどん弱々しいものへとなっていった。

さすがにもう見ていられない。



「千晴!やめなさい!今すぐ、中本くんを元の場所に…」



椅子から立ち上がり、千晴の元へとずんずんと向かう。
そんな私を見て、千晴は表情を変えた。



「ねぇ?いいよね?」

「は、はいぃ!もちろんでございますぅ!」



千晴に笑顔で凄まれて、男子生徒が泡吹いて倒れそうな勢いで返事をする。
半泣きになっている彼に、私はかなり同情した。
理不尽すぎる。



「…だって。だから一緒に行こ、お姉さん?」



男子生徒の答えに満足げに瞳を細め、その手からやっと千晴は男子生徒を解放する。



「だ、大丈夫?中本くん?」

「…だ、大丈夫。ここは俺に任せて。華守くんをどうかお願い…」



解放された男子生徒の元へ行き、尋ねると、男子生徒は一粒の涙を流し、笑顔でそう言った。
まるで事切れる前のように。

男子生徒から千晴の方へと視線を戻す。
すると、私と目の合った千晴はその瞳をキラキラと輝かせた。
「一緒に行こう」とその瞳が言っている。

…おそらく、ああなっている千晴に「1人で行け」と説得するのは不可能だろう。
そんなことをすれば、周りを巻き込んで、あの手この手で私をここから動かそうとするはずだ。

ここまでされてはもう私の答えは一つだった。



「…わかったよ、行くよ」

「やったぁ」



私の答えに千晴は本当に嬉しそうに笑った。
…全く、困った後輩だ。

けれど、不思議とそれを心底迷惑だと思い、千晴のことが嫌になることはなかった。
愛犬に困らされながらも、振り回させる飼い主は、こんな感覚なのかもしれない。

 

*****


 
クラスメイトの中本くんに軽く引き継ぎをした後、急遽、私は千晴の望み通り、千晴と共に脱出ゲームに参加することになった。

私がいた教室を出た後も、もちろん様々な謎が参加者に立ちはだかる。

どこに謎があるのか、その謎を解く鍵は何なのか、最終的にどうなれば脱出できるのか。
一応、主催側なので、脱出ゲームの内容を私は全て知っていた。

だからといって、私が進んで謎を解こうとは思わない。
それではつまらないからだ。
せっかく脱出ゲームに来てくれたのだから、どうせなら千晴に脱出ゲームを楽しんで欲しい。

そう思いながら千晴とどんどんいろいろな教室へと入っていったが、千晴は私の助けなどなくとも、さくさく1人で謎を解いていった。

その姿を見て、私はすぐに「わからない」と言っていたあの千晴は嘘だったのだと察した。



「…私、いらなくない?」



ついにそう千晴に投げかけた私を、千晴が無表情に見つめる。
それから適当に先ほどもらった紙に書かれた文章を指差した。



「ここ、わかんない」



無表情なのに、どこか放っておけないオーラを放ちながら、私を上目遣いで見つめる千晴。
「わからない」と、指差した謎は、明らかに先ほどから千晴が1人で解いている謎よりも簡単なもので。

私は呆れて思わず息を吐いた。

わかりやすい嘘だ。
けれど、何故か邪険にはできない。



「…ここはあれだよ。さっき、机の上にメッセージがあったでしょ?そのメッセージがヒントになってて…」

「あー。わかったかも」



千晴にヒントを与えると、千晴はさらさらっと謎を解いて、その謎が示す、次の場所へと移動し始めた。

この脱出ゲームは、とある病気で死んでしまった女子生徒の心残りが原因で始まる。
つまりここからの脱出条件はその心残りを解消することなのだ。

その心残りとは、好きな人へ書いたラブレターを本人に渡せなかった、というもの。
そのラブレターを見つけ、その女子生徒の好きな人へと渡せれば、晴れてプレーヤーたちは脱出成功となる。

さくさくと謎を解き続けた千晴は、ついにそのラブレターを女子生徒の好きな人へと渡すことに成功した。



「おめでとうございます!…って、て、鉄崎さん!?」



見事脱出に成功した私たちをクラスメイトの女子生徒が笑顔で迎え…それから驚き表情を浮かべる。
この表情を見るのももう通算、10回以上だ。
私が各教室に現れるたびにクラスメイトたちは同じような表情で驚いていた。

まあ、仕事中の人が突然、参加者として現れたら、どうしたんだ、ともなるだろう。
私の担当場所は私1人だけだったし。

驚きを隠せないクラスメイトに見送られながら、私たちはついに教室から出た。



「…どうだった?」

「楽しかった。先輩も一緒だったし」



無事に脱出に成功した千晴に、まずは感想を聞いてみる。
すると千晴は淡々とそう答えた。
無表情だが、その瞳は輝いており、よく見れば楽しかったのだと伝わる表情だ。



「ならよかった。もう1人で入って来ないでよ?私に会いたいなら脱出ゲーム以外で会いに来て。わかった?」

「はぁい」



言い聞かせるように千晴をまっすぐ見ると、千晴は何故か嬉しそうに笑った。
何が嬉しいのか全くわからない。
どちらかと言えば、注意されているのに、本当に変なやつだ。



「お姉さん、ありがとう」



じっと千晴をおかしなものでも見る目ような目で見ていると、千晴はゆっくりと私に迫ってきた。
そしてその美しい顔を私に近づけ、私の顔に影を落とした。

…どうしたのだろうか。

さすがにこの距離まで詰められると、心臓がバクバクと暴れ出す。
いくら千晴が相手とはいえ、恥ずかしく、耐え難い。
頬に熱が帯び始め、いよいよ限界を迎えた、その時。

千晴は私のおでこにそっと唇を寄せた。



「…っ」



柔らかく熱い感触に思わず、息が止まる。
呼吸の仕方がわからない。



「じゃあね。また会いに行くから。今度は脱出ゲーム以外で」



そう言って甘く微笑み去っていく千晴の背中を、私は呆然と見つめた。

わ、私、おでこにキスされた?



「ねぇねぇねぇねぇ!今の見た!?」

「キ、キスされてたよね!?」

「きゃあ!やっぱりされてたよね!?」

「やばい!心臓止まる!破壊力!」



私たちの姿を見て、徐々にその場にいた生徒たちが黄色い声をあげ始める。
私はそんな可愛らしい悲鳴を聞きながら、ずっとバクバクと心臓を忙しなく鳴らし続けた。

え、キ、キスされたよね?
え?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。 昔、なろう様で投稿したものです。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

処理中です...