推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

文字の大きさ
41 / 108

41.一緒にいたい。

しおりを挟む



約2時間の仕事を終えた後、私は今度は自分のクラスの出し物の仕事をしていた。

私たち2年の進学科の出し物は、廃校になった過去の鷹野高校から脱出する、という内容の脱出ゲームだ。
会場は第二校舎の3階と4階の教室全てで、各教室には、様々な謎が隠されている。その各教室にある謎を解きながら参加者は脱出を目指すのだ。
脱出ゲームをスムーズに進行する為に、各教室には、2年の進学科の生徒が1人から多ければ4人ほど配置されていた。

ボロボロのカーテンに薄汚れた黒板。
並べられた机や椅子は乱雑で、倒れているものさえもある。
さらには、古びた教科書やノートまでも散らばっており、もうここは何年も教室として機能していない、とわかる場所に私はいた。

私のここでの仕事は、決められた場所で、決められたセリフ、行動をする、というものだ。
私は窓際にある椅子に腰掛け、本を読むフリをしながら、参加者がここに来るのを待っていた。

すると、何人かの生徒たちが、この教室へと入ってきた。
それから私の存在を気にしながらも、探索を続け、私におそるおそる話しかけてきた。



「あ、あの…。何かヒントってあったりします?」



本から視線を上げると、伺うようにこちらを見る女子生徒と目が合う。
私は淡々と決められていたセリフを吐いた。



「あの子には好きな人がいた。これを…」



それだけ言って、机から一枚の紙を出す。
この紙こそが、謎を解く重要な手がかりになるのだ。

私から紙を受け取った女子生徒は「ありがとうございます!」と言い、一緒にいた他の生徒とその場を離れた。
そしてそれを見ていた他の生徒が、先ほどの女子生徒と同じように私に話しかけてきた。
なので、私は全く同じ対応をした。

この教室を担当する進学科の2年の生徒は、私しかいない。
ひっきりなしに現れる参加者たちに、1人で変わらず対応を続けていると、ようやくその人の波が途切れた。
先ほどまで誰かしらいた教室に、今は誰もいない。

やっと訪れた休息に、私は息を吐いた。
少しくらい休憩しないと、疲れる。ずっと1人で対応し続けるのは、かなり大変だ。



「…ふぅ」



窓から空を眺め、もう一度息を吐いた。

綺麗な晴天が窓の向こうにいっぱい広がっている。
さらにその下には、たくさんの文化祭を彩る装飾がされており、生徒たちの頑張りが形になっていた。

晴れてよかったな…。



「ねぇ、お姉さん」



窓の外を見ていると、聞き慣れた声が気だるげに、私に話しかけてきた。
この声は…



「お姉さんはここで何してるの?」



声の方へ視線を向けると、そこには千晴が立っていた。
首を傾げて、興味深そうにこちらを見つめる千晴にも、もちろん私は決められたセリフを吐く。



「あの子には好きな人がいた。これを…」

「ふーん。てか、セーラー可愛いね、先輩」

「…どうも」

「ずっと見てたいなぁ」

「…そう」

「先輩、中学の時、どんな制服だったの?見たい」

「…」



…この野郎。

私から紙を受け取った後もなお、全く関係のない話を続ける千晴に表情がどんどん歪んでいく。

私の邪魔でもしにきたのだろうか。
ここまで関係のない話を続けるやつは千晴が初めてだ。
はっきり言って営業妨害だ。



「先輩なら何でも似合うね。可愛いから」



未だに楽しそうに話し続ける千晴に、ついに堪忍袋の緒が切れた。



「あーもう!うるさい!さっさと行きなさい!あの子には好きな人がいたの!わかった!?」



急に叫んだ私に千晴が一瞬だけ、驚いた表情を浮かべる。
だが、それはほんの一瞬で、すぐにいつもの飄々とした表情へと戻り、そこから、さらに頬を膨らませた。



「俺、謎解きに来たんじゃなくて、先輩に会いに来たんだけど」



むくれる千晴を見て、はぁ、と大きなため息を吐く。



「知らないよ、そんなこと。こっちは真面目に仕事中なの。茶化されているようにしか見えないの、今の状況」

「茶化してない」

「茶化してんのよ、それが」



不満げに膨らませる千晴の頬をつつけば、千晴は不服そうに私から視線を逸らした。
全く、困った後輩だ。まるで言うことを聞かない大きな子犬だ。



「…ねぇ」

「ん?何?」



しばらく黙っていた千晴が伺うように私を見る。



「わかんないから一緒に来て、お姉さん」

「…」



それから甘えるように私を見た。
千晴の綺麗な瞳がどこか熱を持って、私を見据えている。
それだけ切実なのだろうが、私からの答えは決まっていた。



「行きません」



それだけ言って、首をゆるゆると横に振る。
そんな私を見て、千晴はまた黙った。
何かを思案し始めた千晴を無視して、私は再び、本へと視線を落とす。
何を考えているかわからないが、そのうち諦めて先へと進むだろう。
ここにいても何も起こらないのだから。



「お姉さんが俺と一緒に行けれないのは仕事中だから?」



しばらく沈黙が続いた後、千晴は私にそう問いかけた。



「…」



その通りだ。
本へと落としていた視線をもう一度あげ、無言の肯定をする。
私と目の合った千晴はじっと私を見つめて、「ちょっと待ってて」と言い残して、この教室から出ていった。
何故か出口ではなく、入口から。

つまり、千晴は先へと進まずに、引き返してしまったのだ。



「?」



千晴の行動に首を捻る。
意図が全くわからない。
もしかしたら、千晴の「わからない」は本気だったのか。だから引き返して誰かに助けを求める、もしくは脱出を諦め、スタートに戻ったのか。

…いや、でも「待ってて」て言ってたよね?

どんなに考えても千晴の行動の意味がわからず、首を捻り続けていると、その原因である千晴が再び私の前に現れた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。 昔、なろう様で投稿したものです。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...