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50.私の一番星。
しおりを挟む輝く星空の下。
グランドの上空には、色とりどりの生徒お手製の提灯が吊るされており、お祭りのような雰囲気が広がっている。
文化祭の全てのプログラムを終えた生徒たちは、ここで、後夜祭という名の打ち上げをしていた。
灯を灯された提灯の下には、テーブルが並べられており、軽食や飲み物がある。
それを楽しむ生徒たちの視線の先には、メインステージがあり、そこでさまざまな催し物が行われていた。
まず、行われたのは、生徒会による文化祭の結果発表だ。
各部門の最優秀賞に選ばれたのは、出し物部門は、普通科三年の超大型迷路で、部活部門は、バドミントン部の占いの館だった。
この結果を聞いた時、「悠里くんのクラスの吸血鬼カフェが最優秀賞じゃないのかぁ」とちょっと残念に思ったが、確かにあの迷路はなかなか面白かったので、納得できた。
そして、最後。舞台部門なのだが、何と千晴たちのクラスの白雪王子が最優秀賞に選ばれた。
あの盛り上がり方、おそらくぶっちぎりだったのだろう。結果を聞かずとも、何となくそうなのだろうとは思っていた。
結果発表が終わった後、次に行われたのは、有志によるバンドのライブだった。
この後はダンス部がダンスを披露するらしい。
ステージ上のライブに、盛り上がる生徒たちの背中を見ながら、私はほっと一息ついていた。
いろいろあったが、大きな問題もなく、無事終えられた。
文化祭中の風紀委員長としての荷がやっと下りた瞬間だった。
私は今、あの生徒たちの喧騒の中にはいない。
生徒たちの喧騒の後ろ、少し高いところに用意された小さな個室のような場所で、悠里くんと2人でいた。
何故個室のような、と表現したのかというと、悠里くんといるここは上下左右、後ろが木の壁に囲まれており、
ステージの見える前方だけ壁がなく、空いているからだ。空いているそこからはグランド全体を見渡せるようになっていた。
横にはカーテンもあるので、閉めれば、プライベートな空間にもできるようだ。
この個室にぴったりと収まる2人掛けのソファに、私たちは肩を並べて座っていた。
この小さすぎるソファでは、どうしても悠里くんと肩が触れ合ってしまう。
それもタキシード姿の悠里くんと、だ。
私と悠里くんは見事、ベストカップルに選ばれていた。
その特典として、今、推しである悠里くんはタキシード姿で、私と共にカップル席にいてくれている。
悠里くんが身にまとう、タキシードは、白で統一されており、胸元には、白い薔薇まである。
吸血鬼カフェのコンセプトのまま、かきあげられた前髪は、大人っぽく、タキシードと合わせると、仄かに色気まで感じた。
私の隣で、ステージに視線を向ける横顔は、何よりも尊く、眩しい。
大人になって、結婚する悠里くんは、きっとこんな感じなのだろう。
それを一番近くで見られるなんて、何て幸せなことなのだろうか。
もうこれ以上の幸運は、私の人生には訪れないかもしれない。
感慨深く、悠里くんを盗み見ていると、ステージからこちらに視線を移した悠里くんと目が合った。
「ん?柚子?」
不思議そうにこちらを見つめる悠里くんが、あまりにも眩しすぎてつい瞳を細める。
か、かっこいいよ…。
結婚する推し…。
突然の推しからの視線に、ドキドキしながらも、目を離せずにいると、悠里くんはゆっくりと私の右手に自分の左手を重ねた。
ファファファファンサ!!!!
ファンサが凄すぎるって!!!!
推しからの供給過多に、頬がどんどん熱くなる。
嬉しさのあまりにいつかの時のように気絶してしまいそうだ。
そんな私に悠里くんは柔らかく微笑んだ。
私をまっすぐと見つめるその瞳には、何故か甘いものを感じる。
「…好きだよ」
悠里くんから呟かれた言葉はとても甘く。
この世の言葉とは思えない。
気がつけば悠里くんも私と同じように、頬を赤くしていた。
ここはカップル席。
生徒たちの後ろとはいえ、常に誰かが私たちを見てる。
つい先ほど白雪王子での、千晴の問題行動により、千晴と私が付き合っているという大嘘噂は、かなり盛り上がりを見せていた。
きっとその大嘘噂に対抗するために、今、悠里くんはこうしてる。
そこに私への好意はない。
ただバスケの為の行動にすぎない。
勘違いしてはいけない。
私は常識のある、悠里くんを推す者。
きちんとした距離で悠里くんを推すのだ。
決して、悠里くんの真面目さに絆されてはいけないのだ。
「…わ、私も、です」
けれど、推しの〝好き〟に応えずにはいられなかった。
「どのくらい好き?」
「え」
「教えて欲しい。ちゃんと一番?」
不安げに、寂しそうに、悠里くんが、こちらをおずおずと見つめる。
甘い瞳は、私からの答えを待ち、恋焦がれているようで。
甘すぎる悠里くんに私の心臓はドンドコドンドコ暴れ出した。
推し、尊い。
「一番好きだよ」
照れながらも、事実を口にする。
その時、一瞬だけ、あの金髪が頭をよぎった。
柔らかく「先輩」と呼ぶ声が何故か聞こえた気がして。
ほんの少しだけそれが胸につっかえたが、私はそれを無視した。
そんなことより、今は目の前の推しだ。
私の答えに、「よかった」と悠里くんは微笑む。
しかしその表情はどこか暗かった。
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