推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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49.お姫様にキスを。

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まずは観客に背を向けて、両膝をつくと、私は千晴が眠っている棺桶を覗き込んだ。



「お姫様は白雪王子を見て思いました。何と、美しい方なのだろう、と」



ナレーションは止まることなく、予定通り進んでいく。
そのナレーションに合わせて、改めて、私はじっと千晴を見た。

色とりどりの花に囲まれて眠る千晴は、どこか幻想的で儚かった。
正直棺桶内は観客席からはあまり見えない。
ここまで精巧に作られているのは、きっとクラスメイトたちの趣味からなのだろう。

長いまつ毛が白い肌に影を落とし、その可憐さに拍車をかけている。
相変わらず、黙ってさえいれば、美しい子だ。

千晴の美しさに見惚れながらも、私は練習通り、棺桶の蓋に手を置いた。
それからゆっくりと、千晴に顔を近づけた。

キスをするフリをするだけ。

わかっているのに、心臓が早鐘を打つ。
どんどんそれはスピードをあげ、今にも壊れてしまいそうだ。

照れるところではない。これは演技だ。

そう言い聞かせて、目を閉じた。
頬に熱を感じながら。



「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」



ナレーションに合わせて、キスをするフリをし終え、ゆっくりと顔をあげる。
今の体勢が観客に背を向けるもので良かったと、心の底から思う。
きっと今の私の顔は、真っ赤で、人様には見せられない。



「すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」



それから今度は千晴が、ナレーションに合わせて、ゆっくりと上半身を起こした。



「素敵なお方、どうか私と結婚を…」



そんな千晴の手を取り、私は続ける。
しかしナレーションの途中で、何故か千晴は私に迫ってきた。

吐息が当たる、そんな距離。
そこからまっすぐと千晴に私の瞳を覗かれて、ゆっくりと私の唇に千晴の唇が重ねられる。
私のおでこにも触れた、あの熱だ。



「…っ!」



キスされた。
数秒して、私はやっと状況を理解した。

一瞬だけ触れた唇は、熱を帯びたまま、名残惜しそうに離れていく。



「「「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!!」」」



次に会場を包んだのは、殺人事件でも起きたのではないか、と思うほどのとんでもない叫び声だった。
間違いなく、数名は倒れているのでは?と、心配になる熱を背中に確かに感じる。

この千晴の突然の行動に、ここまで予定通り進められていたナレーションも、さすがに止まってしまっていた。
そして私は顔を真っ赤にして固まっていた。

千晴は満足げに私を見て、舌をぺろりと舐めている。
その姿にまた会場がとんでもない叫び声をあけだ。



「お、おおお、王子は!白雪王子は!キ、キスで!お姫様の気持ちに答えたのでした!末長くお幸せに!2人は結婚します!」



興奮気味にアドリブを効かせたナレーションが会場中に響き渡る。



「おめでとう!白雪王子!」

「ありがとう!ありがとう!」

「最高だった!」



それから観客たちはスタンディングオベーションでその感動を叫び、幕はゆっくりと下ろされていった。

幕が下ろされた後、私は顔を真っ赤にしたまま動けないでいた。

…キスされた。
千晴にキスされた。

頭の中でただただその事実がぐるぐるぐるぐると回る。



「おーい、せんぱーい?」

「…」

「せ、ん、ぱ、い」

「…」

「もぉ、もう一回しようか?キス」

「…」



千晴が楽しそうに何か言っているが、よく理解できない。

今、何て言った?
もう一回しようか?キス?



「ダメダメダメ!何考えんの!」



やっと意識が覚醒した私は、今まさにまたキスをしようとしていた千晴の口を両手で押さえた。
そんな私に「えぇ」と千晴は残念そうにしている。

全く油断も隙もない!



「というか!おかしいでしょう!?あんなの台本になかったじゃん!?」

「なかったね」

「なのに何で台本にないことするの!?」



怒る私に、千晴は変わらず楽しそうで、ますます腹が立ってくる。
飄々としている千晴には、全く反省の色がない。
そもそもここで反省するやつがあんなところでキスなんてしないだろうが。

千晴を鬼の形相で睨み続ける私に、千晴は何でもないように言った。



「だって、ああした方が盛り上がるじゃん。これで最優秀賞、確定でしょ?」

「そういう問題じゃない!」



一発どころか二発、三発と殴ってやりたい気持ちをぐっと抑えて、千晴をとにかく睨む。



「いい?千晴?世の中にはやっていいことと悪いことがあるの。今のキスはどう考えてもやってはいけないことだった。最優秀賞が取りたいからってやるべきことじゃなかった」



それから私は一旦深呼吸して、感情に任せて怒鳴ることをやめた。
冷静に問題を千晴に伝えることにした。

だが、それで伝わる千晴ではなかった。
それで伝わってしまえば、今の千晴はいない。



「普通に悪いのは先輩の方じゃない?先輩が可愛すぎるのが悪い」

「は?」



無表情に自分は悪くないと主張し始めた千晴に思わず、間の抜けた声が出る。

何を言っているんだ?コイツ?



「あんな可愛いキス顔見せられて、我慢するとか無理だから」

「はぁ?」



何故か私を責め始めた千晴に、呆れてしまう。
私に責められる要素なんて、一つもないのに。



「先輩が悪い。可愛すぎる」

「それはおかしいでしょ!?」



変なことを言い始めた千晴が、私の肩に両腕を回す。
急に近くなった距離にまた心臓が跳ねたが、そんなもの気にしている場合ではなかった。



「悪いのはお前じゃああ!!!」



自分の非を認めない千晴に、私はそう叫んだ。

ーーー私たちの言い合いが収まらず、恐る恐る進学科の一年生に声をかけられるまで、あと3分。


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