推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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58.本来の目的。

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いくつもある大きな窓の外から、すっかり太陽が消え、星が瞬き出した頃。
華守家の大豪邸内にある広すぎるホールは、外とは対照的に、煌びやかなシャンデリアによって、眩しく光り輝いていた。
まるで中世ヨーロッパの貴族でも現れそうな格式高いホール内には、当然、煌びやかで上品な人たちしかいない。

私はそんな異世界で、必死に歩いていた。
千晴の腕に、手を置いて。



「…」



何故、こんなことに…。

戸惑いながらも、あくまで、平静を装う。
風紀委員長として培ってきたものが、まさか今、役に立つとは。

緊張している私とは対照的に、私をリードして歩く千晴は、飄々としており、とても慣れた様子だった。

ふわふわの金髪は今日は綺麗にセットされており、前髪はかきあげられている。
その髪型は普段は自由でマイペースな千晴を、しっかりとした落ち着きのある人に見せた。
キラキラと輝く金髪も何故か映えていて、あまりにも似合っている為、フォーマルな気さえしてしまう。
ベストやシャツ、ネクタイまで黒で揃えられたスーツ姿は、千晴をシックでかっこよく、大人っぽくさせていた。

今日の千晴は気品があり、高校生には見えない風貌だった。



「柚子はどんな格好でも似合うね。今日の姿も綺麗だよ」



ずっと満足そうに私を見ていた千晴が、ふと、甘く笑う。
そんな千晴に私も口角をぎこちなくあげて微笑んだ。



「ア、アリガトウ、チハル」



慣れない演技に、つい棒読みになってしまう。
こんなことは初めてで、正直正解がわからない。

周りから見れば、仲睦まじい私たちの姿に、ホール内にいた人々はざわめいた。



「華守の千晴様がついに婚約者を決めたとは本当だったのか」

「しかも噂通り、相当溺愛されているようですな」

「庶民の出らしいが、なるほど美しい。あれでは惚れてしまわれるのも無理はない」

「しかし庶民とはいえ、かなりの才女だとか」

「さすが千晴様だ」



どこかの会長であろうオーラを放つ、80歳くらいの男性に、上品に微笑む貴婦人。
しっかりとした風格の50代くらいの男性は、どこからどう見ても、社長のようだし、かと思えば、華族のような雰囲気の男性や女性もいる。

とにかく上品で高貴な人々は、私と千晴をずっと様々な目で見ていた。

聞こえてくる雲の上の人たちの上品な噂話に、思わずため息が漏れそうになるが、それを私はぐっと堪える。

彼らが噂していることは、何もかも違う。

私は溺愛されている婚約者ではないし、誰かの目を奪うような美しさもないし、かなりの才女でもない。
ただの千晴の面倒をよく見る先輩で、千晴の横に立つとかすむような見た目で、ほどほどに努力した分だけの優秀さしかない存在だ。

しっかり合っていることは、〝庶民〟、ただ、それだけだ。
あまりにも違いすぎる彼らの私の印象に、げんなりしていると、その声は聞こえてきた。



「お兄様!お義姉様!」



凛とした可憐な声が、この広いホール内に響く。
美しい声音と共に、私たちの前に現れたのは、千夏ちゃんだった。



「お会いできて嬉しいですわ。今日という大事な日を、お二人と過ごせて、わたくし、とても嬉しい」



ふふ、とまるで天使のように可憐に微笑み、瞳を細める千夏ちゃんに、ホール中が感嘆の息を漏らす。



「やはり、千夏様は可憐でいらっしゃる」

「あの千夏様にまで認められているお方だったとは…」

「〝お義姉様〟と呼ばれているということは、結婚も近いのかしら」



またざわめき出したホールに、私は心の中で、はは、小さく苦笑した。

さすが、千夏ちゃん。
とても策士で、実行までがスムーズだ。

千晴が私をとにかく大事に扱い、千夏ちゃんまでもが、ああいうふうに私を扱えば、誰もが私を、〝千晴の大切な婚約者〟だと思わざるを得ないだろう。

私が今、何故黙って、千晴の婚約者であることを受け入れているのか。
それは、それこそが、私の本来の仕事だったからだった。

千晴は将来有望すぎる人材だ。
見た目の美しさもさることながら、あの華守の跡取りであり、何をやらせても完璧にこなす技量まである。
全てが揃いすぎている千晴を、世界中のお金持ちたちは喉から手が出るほど欲していた。

その為、こういった集まりでは、本人にその気がないにも関わらず、頻繁に婚約話を持ち出されたり、時には既成事実を作ろうと、あらゆる女の人が送り込まれたりしたそうだ。
そういった厄介ごとから身を守る為に、千晴には私という〝偽の婚約者〟が必要だった。

千晴が「私でないといけない」と言っていた理由が、これだったのだ。
もちろん、私は千晴からのお願いを聞く、と約束していた以上、かなり戸惑ったが、婚約者役を受け入れた。



「柚子、大丈夫?」

「ウン、ダイジョブ」



私の顔をどこか心配そうに覗く千晴に、私はぎこちなく頷く。
千晴が私のことを、先輩と呼ばず、呼び捨てにしているのも、私が婚約者役だからだ。



「千晴様、ご無沙汰しております。そちらのお方が千晴が仰っていた大切なお方ですよね?」



たくさんの視線を受ける私たちの元に、とても丁寧な態度で50代くらいの紳士的な男性が現れる。



「ああ、そうだ」



そんな男性に千晴はいつもとは違う、高圧的で、だがそれだけではない、高貴な態度を取った。



「やはり、そうでしたか。お名前をお伺いしても?」

「柚子、自己紹介できる?」



しかし、その圧も、高貴さも、私には向けられなかった。
千晴は男性からこちらに視線を移し、柔らかく私に微笑む。



「…鉄崎柚子と申します」



私は本日何度目かわからない挨拶を何とか作った笑顔で言葉にした。



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