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69.パーティー準備。
しおりを挟む悠里くんとのいい意味で心臓に悪すぎる買い物終了後、私たちは悠里くんの家へとやってきた。
新築そうな綺麗で洗練された一軒家。
それが悠里くん家の印象だ。
私と悠里くんはさっそくクリスマスパーティーをする為に、キッチンへと立ち、その準備を始めた。
本日作らねばならないものは、チキンの代わりの唐揚げに、メインディッシュのクリームシチュー。
サイドメニューのポテトに、トマトとモッツァレラチーズのサラダに、クリスマスといえばのケーキだ。
ケーキはスポンジをもう買ってあるので、あとはデコレーションするだけだった。
…だが、ここで事件は発生した。
「…あの、その、久しぶりだし、もしかしたらできるかもって思ってて…」
包丁を持ったまま、硬い笑みを浮かべる私の額は冷や汗でいっぱいで。
包丁には、かつてトマトだったどろりとした赤い塊までついており、これでは見た目だけ殺人犯だ。
犯人である私の目の前のまな板には、無惨な姿になってしまったトマトがあり、とても申し訳ない気持ちになった。
そう、この現場を見ればわかる通り、私はものすごく料理が苦手なのだ。
とにかく力加減がわからず、無茶苦茶にしてしまうことが過去にも何度かあった。
その為、調理実習ではいつも片付ける、材料を計るに徹し、ここ5年ほど料理らしい料理を一切作ってこなかった。なので、もしかしたら成長して、できるようになっているかもしれない、と自分の力を過信した結果がこれである。
「あー…。柚子にもできないことってあるんだね」
この惨状を見て、悠里くんが困ったように笑う。
それから悠里くんは「一緒にやろっか」と、唐揚げを揚げる工程を一度中断した。
「俺がトマトを切るから、柚子は袋からモッツァレラチーズを出して?それからこのお皿にそれを盛り付けてくれる?」
「う、うん。それならできる」
悠里くんにお皿を渡されて、何度も何度も頷く。
悠里くんの優しさが胸いっぱいに広がり、私を温かくさせた。
なんて優しい人なのだろうか。
最強で究極の推し。素敵だ。
悠里くんに言われた通りに、私は作業を再開した。
その後、私は様々なことに挑戦した。
唐揚げやポテトを揚げようとしたが、勢いよく入れすぎて、油が派手に飛び散り、失敗。
材料を混ぜようとしたが、勢いよく混ぜすぎ、中身が飛び出て、失敗。
結局、私、主体では何もできないことが露見し、私は悠里くんのサポート役に回ることになった。
飾りつけと材料を測ることくらいしか、私は一人でできなかった。
「…ごめん。何もできなくて」
揚げ終わった唐揚げを一つ一つお皿に盛りながら、謝罪する。
すると、今度はポテトを揚げていた悠里くんが不思議そうな顔をした。
「何で謝るの?誰にでも得意なことと苦手なことがあるじゃん。柚子は料理が苦手だっただけだし、苦手なら俺がやればいいでしょ?もちろん、逆の時もあるしね。だから俺が料理担当ってことで」
「…っ」
ふわりと笑った悠里くんの言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
優しい、素晴らしい、尊い。
悠里くんはなんてできた人間なのだろうか。
「これからは俺が料理作るよ?だから柚子は食べる係、ね?」
少しだけイタズラっぽく笑った悠里くんに胸がどくん、と静かに跳ねる。
え、え、え。
これからは?俺が料理作る?
未来、見据えられている感じ?
結婚してる感じ?私たち?
小さな部屋で悠里くんがたくさんの料理を片手に微笑んでいる。
「できたよ、柚子。いや、俺の奥さん、召し上がれ」
カレーに、唐揚げに、サラダに、パスタに、アイスに、ピザに、味噌汁に、エビチリに…。作りすぎなくらいのメニューに圧倒される。
私の旦那様はすごすぎる…。
じゃなくて!
なんということだろうか。
悠里くんの一言に、勝手に妄想が膨らみ、気がつけば、脳内で悠里くんと楽しい新婚生活を送ってしまっていた。
本人を目の前に一体何をしているのか。
ぶんぶんと首を横に振り、とんでもない妄想をどこか遠くへ飛ばすと、私は悠里くんに頬を赤らめながら歪な笑みを浮かべた。
「…も、盛り付け係もできます」
「ふっ、そうだね。それもできるね」
絶対に人様には見せられない顔をしている私に、悠里くんが柔らかく微笑む。
普通の人なら怖がりそうなのに、その様子が悠里くんにはない。
優しさで平気なフリをしてくれているのか。
「じゃあ、ポテトも揚げられたし、今度はケーキを盛り付けよう。ね、盛り付け係さん?」
「う、うん!」
おかしそうにその瞳を細めて、私の顔を覗いた悠里くんに、私は元気よく頷いた。
そしてそのまま私たちはリビングへと向かった。
広いリビングのテーブルの上にあるお皿に、まずは悠里くんがケーキの土台となるスポンジを置く。
それからそのスポンジに悠里くんが生クリームを塗り、私が慎重に苺を並べた。
その工程を繰り返して、ケーキの形を作っていく。
最後にケーキの周りに悠里くんが生クリームを塗り、それっぽい形になると、悠里くんは私に言った。
「最後の仕上げ、柚子に任せてもいい?」
「…うん」
悠里くんの言葉に、真剣に頷いて、ケーキを睨みつける。
悠里くんが絞ってくれたクリームは、ケーキの真ん中が意図的に空けられており、おそらくそこに苺を置くのだろうとすぐにわかった。
なので、私は慎重にそこに苺を一つずつ並べていった。
なるべく綺麗になるように細心の注意を払いながら。
震える指で苺を並べ終え、最後にチョコのプレートを置くと、ついにクリスマスケーキは完成したのだった。
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