68 / 108
68.クリスマスをもう一度。
しおりを挟むside柚子
12月30日。
年末の駅内は、様々な人で溢れ、賑わっていた。
カップルや子連れの家族、若そうな夫婦に、大きなキャリーケースを引く若者。
たくさんの人が行き交う、ここで、私は軽やかな足取りで、ある場所へと向かっていた。
そのある場所とは、もちろん悠里くんとの集合場所である駅前の時計塔だ。
鷹野高校バスケ部は、私が観戦した次の日、準々決勝で惜しくも敗退し、ウィンターカップの成績は、ベスト8に終わった。負けてしまったが、晴れて目標であったベスト8を達成することができたのだ。
準々決勝の日は予定があったので、配信で悠里くんの勇姿を見守っていたが、準々決勝もとてもいい試合で、涙なしでは見られなかった。
偽の彼女として壁となり、支えた結果が、少しでもあのベスト8に繋がったのだと思うと、感慨深く、誇らしい。
私はきっと、悠里くんを推す者、ファンとして素晴らしい仕事をしている。
悠里くんはウィンターカップが終わり、昨日こちらに帰ってきた。
そして、2人とも予定が空いていた今日、約束のクリスマスパーティーをすることにした。
だが、私は少しだけ心配だった。
激闘から帰ってきたばかりの悠里くんは、かなりお疲れなのではないのか、と。
私なんかとクリスマスパーティーなんてして大丈夫なのだろうか。
そんなことを思いながら集合時間よりも1時間早く、時計塔前に着くと、そこにはもうダウンにマフラーの冬装備悠里くんがいた。
心なしか冬の太陽の光が悠里くんにだけ射しているように見える。
…神々しい。じゃない!
思わず見惚れてしまったが、それどころではないことに私は気づいた。
お、推しを寒空の下、待たせるなんて!
ファン失格だ!
1時間前集合では遅すぎだった!
「悠里くん!ごめん!」
軽やかだった足取りは、いつの間にか駆け足へと変わっていた。
「柚子、早いね」
私を見つけて、微笑んだ悠里くんから白い息が漏れる。
ああ、推しが寒そうだ。
なんたる失態。
「ご、ごめんね。待たせちゃって」
申し訳なさすぎて、あわあわしていると、悠里くんはそんな私に表情を和らげた。
「いや、俺が早く来ただけだから」
それだけ言って、「行こう」と悠里くんが私の手を引く。
冷たい指先に、私は胸がぎゅうと締め付けられた。
この冷え切った手を私が温めなければ。
*****
悠里くんと向かった場所はとあるスーパーだった。
そこで私たちは2人並んで買い物を始めた。
買い物かごは当然、私が…と、持とうとしたのだが、それはスマートに悠里くんに取られてしまった。
「お肉はどれにする?」
かごを持つ悠里くんに聞かれて、精肉コーナーを睨む。
「メインは唐揚げとクリームシチューだから、これかな?値段的にはこっちもいいけど…」
悩みながら指差す先には、値段の違う鶏肉がある。
悩む私の横で、悠里くんは「じゃあ…」と続けた。
「高い方にしちゃう?せっかくだし」
少しだけイタズラっぽく笑う悠里くんは、どこか少年のようで、可愛らしい。
あまりにも素敵すぎる推しに、私は今日もやられながら、うんうんと何度も頷いた。
それから高い方のパックを手に取ると、悠里くんが持つかごへと入れた。
悠里くんと私は今日、悠里くんの家でクリスマスパーティーをする。
その準備として今、スーパーで買い物をしていた。
悠里くんの家には今日は誰もいないらしく、心置きなく二人でパーティーができるらしい。
悠里くんのご両親は旅行に、里緒ちゃんと里奈さんはお出かけに行っているそうだ。
里緒ちゃんと里奈さんに会えないのは少し残念ではあるが、悠里くんと二人で1日過ごせることが、私は楽しみで楽しみで仕方なかった。
クリスマスパーティーに必要なものはもう事前に話していたので、あとは決まっている材料を買うだけだ。
野菜にお肉、フルーツ、とどんどん悠里くんと話し合いながら、かごに入れていく過程で、私は思った。
「…なんか新婚さんみたい」
つい思ったことが口から出てしまう。
なんと罪深い思考なのか。
もし、こんな妄想が推しに聞かれていたら…。
恐る恐る推しである悠里くんの方を見ると、悠里くんはきょとん、とした顔をしていた。
まさかそんなこと言われるとは微塵も思っていなかった、という表情だ。
しかしその表情はすぐに消え、悠里くんは嬉しそうにはにかんだ。
「…うん。そうだね。柚子は俺の奥さんかぁ」
ズズズズキューン!
本当に嬉しそうにしている悠里くんに、心臓が見事に狙撃される。
推しのサービス精神、恐るべし。
言っていいことと、悪いことがある、と推しは知らないのか。分別がないのか。
私じゃなければ、無事に勘違いして、恋に落ちるところだったぞ。
0
あなたにおすすめの小説
付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた
ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」
三十二歳、独身同士。
幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。
付き合ってもないのに。
夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。
断る理由が、ない。
こうして、交際0日で結婚することが決まった。
「とりあえず同棲すっか」
軽いノリで決まってゆく未来。
ゆるっとだらっと流れていく物語。
※本編は全7話。
※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。
※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。
心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。
三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。
新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。
ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる!
実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。
新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。
しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。
ややヤンデレな心の声!?
それでも――――。
七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。
『俺、失恋で、死んじゃうな……』
自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。
傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される?
【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』
【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる