推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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67.大切な人。side悠里

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side悠里



「悠里!」



柚子と別れた後、選手控え室に戻ると、その場にいた部員たちが一斉に俺に詰め寄ってきた。



「何でここに鉄子がいたんだ!?」



まずは大きな声で問い詰めてきたのは、隆太だ。
隆太の顔色はあまりにも悪く、とてもじゃないが、柚子を歓迎しているようには見えなかった。



「偵察か?やっぱり、部費関係の偵察なのか?」



それから続くように、他の部員もあまりよくない顔色でこちらに視線を向ける。



「悠里、鉄子はバスケ部について何か言ってたか?」



さらに先輩までも、顔面蒼白で汗を流していた。
先ほどのアップで流したものではなく、確実に〝柚子〟
という存在に流れた冷や汗だろう。

緊張と恐怖で右往左往する部員たちに、俺は困ったように笑った。



「落ち着いて、みんな。柚子は普通に応援に来ただけだから」



俺の言葉に一瞬、控え室が静まり返る。
だが、それはほんの一瞬で、すぐに先ほどの賑やかさを取り戻した。



「な、何だぁ、そうかぁ」

「よ、よかった。ほんとーに。よかった」



隆太や先輩、みんなが安堵の息を漏らし、笑顔になる。
その中で陽平はこちらに近づき、からかうように口角を上げた。



「アツアツじゃん。もう立派なおしどりカップルだな」



陽平の言葉に部員たちは、一斉に笑顔で「確かに!」と頷く。
この場にいる全員がまるで自分のことのように嬉しそうにしている姿に、俺は胸がじーんと温かくなった。
そんな俺に後輩である慎も、嬉しそうに明るい声を出した。



「本当、お二人とも遠目から見てもめっちゃいい雰囲気でした!」



慎の言葉に、ふと、先ほどの柚子の姿を思い出す。

俺を見つめる可愛らしい瞳。
揺れる綺麗な黒髪から見える顔は、忙しなく表情を変え、愛らしい。

わざわざここまで観に来てくれたことも、俺に会いたくて、あそこまで来てくれたことも、全部が全部可愛い。
柚子のおかげで頑張れる。かっこいいところを見せたい。



「ぜってぇ、勝つぞ!鉄子に悠里の活躍を見せつけるんだ!」

「惚れさせようぜ!俺たちの王子様によ!」

「打倒!白銀学園!アツアツ!鉄子と悠里!」



盛り上がる部員たちの横で、俺も静かに闘志を燃やす。

ーーー絶対、勝つ。

グッと右手を握り締め、瞳を閉じる。
それから大きく深呼吸して、再び瞳を開ける。

その時、ちょうど控え室に監督が現れた。

何やら熱気を帯びた控え室に、監督は「やる気十分だな」と、したり顔で笑う。
ほんの少しだけ違うやる気なのだが、そこまではさすがに気づいていない様子だ。



「よぉーし!お前たち!今日勝ったら、ベスト8だ!気合い入れていくぞ!」

「「おぉ!!!!」」



パァァン、と両手を叩き、力強くそう言った監督に、部員たちは同じように力強く返事をしたのだった。



*****



ブーッとコート内に、試合終了の低いブザー音が響く。
得点板に表示されている得点は、鷹野高校126、白銀学園113だ。
危うい場面もあったが、この試合はうちの勝利で幕を閉じた。



「やったな!悠里!」



勝利を噛み締めていた俺に、キャプテンの先輩がガバッと勢いよく肩をかける。



「はい…!」



そんな先輩に笑顔で答えると、それを皮切りに、勝利の余韻がうちの部員に一斉に広がった。



「ベスト8だー!」



と、嬉しそうに拳を上げ、叫ぶ先輩や、



「…ゔぅ、俺、まだ先輩とバスケできるんっすね」



と、泣いている隆太の姿が見える。
それぞれが好きなように思いの丈を表現し、分かち合う中、その喜びは2階のギャラリーにも広がっていた。
俺たちの勝利を祝福する声が、この会場を包んで、鳴り止まない。

ーーー勝ったんだ。ついにベスト8だ。

勝利の余韻に浸りながらも、俺はふと、無意識に柚子が座っていた席を見た。

2階のギャラリーの前から三列目。
そこからずっと俺を応援してくれていた柚子を俺は知っている。
応援や歓声、様々な声に包まれたあの場で、俺は何度も何度も、柚子の声だけを耳にした。
それがどれほど俺の力になったことか。

やっと俺の目に入った柚子。

柚子はそこで泣いていた。
嬉しそうに、笑いながら。

泣き笑う柚子の姿に、胸がじんわりと温かくなる。

感極まってああなったのだろうか。
あんなふうに泣けるほど、心の底から俺を応援してくれていたか。
柚子が俺を全力で応援してくれていたことはわかっていたが、ここまでだったとは。

うちの勝利に本気で泣いてくれている柚子が、俺は愛おしくて愛おしくて、堪らなくなった。

ーーーああ、今すぐ、会いに行きたい。



*****



試合終了後の挨拶を終え、監督から、

「ミーティングはあと!各自ストレッチ等、試合後のケアに専念するように!」

と、次の指示を受けた。
その為、俺たちは再びサブ体育館で、クールダウンをすることになった。
しかし、俺はどうしても柚子に一目会いたかったので、キャプテンから許可を得て、少しの時間だけだが、柚子と会う時間をもらった。

まだユニフォームのまま、はやる気持ちを抑えて、2階のギャラリーへ行き、柚子の背中を探す。
すると、柚子は先ほどと同じ席で、姉ちゃんたちと共にいた。



「柚子!」



会いたかった背中に、つい声が上ずる。
その瞬間、「きゃー!」と黄色い歓声が上がった。
そしてその場にいた女の人たち全員の熱い視線が、俺に注がれた。



「さ、沢村悠里くんだぁ!かっこいいぃ!」



熱い視線の中から、高校生くらいの女の子が、まるでアイドルでも見ているかのような反応を示す。



「王子と柚子さん、お似合いだね…」



また他の大学生くらいの女の人は、どこか悟りを開いたかのような温かい目で、こちらを見つめていた。

バスケに専念する為とはいえ、柚子と付き合って、約4ヶ月。
柚子と俺の姿をいろいろな形で静かに見守っていた、俺を好いている人たちは、いつの間にか、柚子と俺を陰ながら応援する存在へと変わっていた。

憧れや温もり、好意の視線を向けられながらも、俺は柚子の元へとまっすぐ向かう。
俺の声に反応し、振り向いた柚子は、まだその大きな瞳に涙を溢れさせ、鼻と頬を赤くしていた。



「ゆ、悠里くん」



俺を見つけた柚子が慌てて目をこする。
それでもその涙は簡単には止まらず、柚子の頬を濡らし続けた。



「か、勝ったね…悠里くん。すごかった、本当に…おめでとう」



流れる涙を抑えながらも、柚子は一生懸命言葉を紡ぐ。
その姿があまりにも愛おしくて、俺は思わず柚子の傍まで寄り、指先でその涙を拭った。



「柚子が来てくれたから頑張れたんだよ。ありがとう、柚子」

「ふぇ…」



真剣な眼差しで柚子を見つめる俺に、柚子はさらに頬を赤くする。

ーーーああ、何て可愛いのだろうか。

そんな柚子があまりにも愛らしくて、胸がぎゅうっと締め付けられた。

今すぐ、この手の中に入れてしまいたい。
けれど、ここには人の目がありすぎる。
それに、試合後すぐに来た今の状況では、とてもじゃないが、柚子を抱きしめることなんてできない。
汗をかきすぎている俺なんかに抱きしめられたら、きっと柚子も不快だろう。

1人でそんな葛藤をしていると、柚子越しに、里緒と姉ちゃんの姿が目に入った。

里緒がキラキラと期待に満ちた目で、姉ちゃんがニヤニヤと意味深な目で、こちらを見ている。
2人の視線に、俺の葛藤はあっという間に消えた。

…今はその時ではなかった。



「悠里くん、本当にかっこよかったよ。プレー、一つ一つが輝いてて、エースとしてチームの中心で大活躍してて。感動した。こんな素敵な人を少しでも支えられている自分が誇らしいよ」



やっと先ほどまで流れていた涙を止め、清々しく笑う柚子の言葉は、どれも柔らかく、温かく、俺の心をどんどん満たしていく。

嬉しさでいっぱいになる。
こんなにもまっすぐ思われて、嬉しくならないわけがない。



「ありがとう、柚子。俺、これからも頑張るから。だから応援してね」

「うん!もちろん!」



柔らかく微笑む俺に、柚子はいつものようにまっすぐとこちらを見て、笑顔で頷いた。

柚子はいつもまっすぐだ。
俺をその目で見つめて、決して離さない。
その目が俺は好きだ。
そこにはいつも俺を想う、まっすぐな想いがあるから。

じっと、俺の目を見つめて離さない柚子の瞳を覗く。
そこにはやはり、いつもの熱がある。

だが、ふと、俺は思った。

ーーー何かが違う気がする、と。

何が違うのかはもちろんわからない。
柚子の瞳には確かに俺を想う、熱があるはずなのに。

この違和感の正体は一体なんなのか。

考えかけて、俺はそれをやめた。
きっと大した問題ではない。
考えなくてもいいことのはずだ。



「柚子」

「ん?」



俺が優しく名前を呼べば、柚子が愛らしく小首を傾げる。その姿があまりにも愛らしくて俺はさらに瞳を緩めた。

穏やかな2人だけの世界。
今はそれだけで十分だ。

柚子のことをこれからも彼女として大切にしよう。

俺は改めて、そう心に刻んだ。



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