推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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66.尊死。

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「あのね、あのね、柚子ちゃん」



里奈さんと悠里くんの尊いやり取りを見ていると、里緒ちゃんが私の服の袖を嬉しそうに引っ張り、キラキラとした目でこちらに話しかけてきた。



「お兄ちゃんはね、お姫様の柚子ちゃんのことがとっても大好きなんだよ。いつもお姉ちゃんに柚子ちゃんのお話してるの。えっとねぇ、この前はねぇ、どうやったら柚子ちゃんが喜ぶかって、お話ししててぇ…。あと、柚子ちゃんが忙しいそうで、心配とかぁ…」



ニコニコの里緒ちゃんから放たれた、とんでもない内容のお話に、心臓が一瞬止まりそうになる。

お、推しが、私のことを心配してご家族にまで話してくれているのか?
だからご家族のみなさんは、私=悠里くんの大好きな彼女だと思っているのか?
尊すぎないか?



「お兄ちゃんね、柚子ちゃんが可愛すぎてしんどいって言っててねぇ。なんで可愛いとしんどいのか、わたし、聞いてみたんだけど…」



未だに話し続ける里緒ちゃんに、もう私のHPは限界に近い。おそらくあと5秒後に倒れる。
死因は〝尊死〟と、今まさに意識を手放さそうとしていた、その時。里奈さんがその形の良い口の端を上げた。



「里緒ぉー。そのくらいにしといてあげなぁ?王子様、限界みたいだからぁ」



里奈さんの視線に釣られて、王子様と呼ばれた悠里くんの方を見れば、悠里くんの顔は真っ赤で。
推しの赤面にズキューンっとまた心臓を射抜かれた。

か、可愛いがすぎる。
この可愛さは世界を救う。
いや、逆に破滅させるかも。



「も、もういいからっ!2人とも、応援来てくれてありがとう!先上がってて!」



半ばヤケクソになりながらそう言った悠里くんに、里奈さんはおかしそうに笑い、里緒ちゃんは何もわかっていない様子で明るく笑った。

尊い家族に私は心の中で合掌した。
ありがとう、世界。
この世にこんなにも尊い家族を生み出してくれて。

里奈さんと里緒ちゃんが先に2階の応援席へと上がったことによって、悠里くんと私は2人になった。



「素敵なお姉さんと妹さんだね」



2人を見送った後、悠里くんへと視線を戻す。
すると悠里くんは照れくさそうにはにかんだ。



「…うん。妹の里緒はかわいいよ」



そこで一度、悠里くんは言葉を区切る。



「まぁ、姉ちゃんはちょっとあれだけど」



それから今度は困ったように笑った。

柔らかい悠里くんの表情に、2人のことが大切で、好きな気持ちが伝わる。
美しい家族愛というやつだ。

「2人のことが大好きなんだね」と、思ったことそのまま伝えると、悠里くんは何も言わずに微笑んだ。
そのまま、私たちはいつもの調子で、他愛のない会話を始めた。



「…今日は来てくれてありがとう。応援来てくれて嬉しい。姉ちゃんたちと一緒に来た時は知らなかったから驚いたよ」

「やっぱり、悠里くんの勇姿は直接見たかったしね。試合頑張ってね」



嬉しそうに笑い、瞳を細める悠里くんに、私は力強く頷く。

何のために今まで、悠里くんの形だけ彼女をしてきたと思うのだ。
私は悠里くんがバスケに専念する為の壁だ。
今日はそのバスケの集大成の日でもある。
是が非でも、直接その成果をこの目でみたいに決まっている。
もちろん、おいしい思いをするために、悠里くんの彼女になっているというのもあるのだが。



「ありがとう、柚子。でも、本当に驚いたよ。昨日も連絡取り合ってたし、事前に言ってくれてもよかったのに」

「いや、実は会うつもりはなかったんだよね。悠里くんの邪魔になるだけだと思って」

「え」



私の言葉に、悠里くんが固まる。
しかし、私はあまり気にせず続けた。



「大事な試合前に私が来たらいろいろ大変でしょ?でも、里奈さんが悠里くんに会いに行こう、て誘ってくれて…。だから会いに来ちゃった。本当は会いたかったから。ごめんね、大事な試合前に邪魔しちゃって」



話しているうちにまた申し訳なくなってきて、視線を伏せる。
今こうして話している時間も、悠里くんにとっては惜しい時間だ。
練習に、ミーティングに、相手チームの偵察に、心の準備。やりたいことは山積みなはずだろう。
それを今、私のわがままでこうして奪っている。

罪悪感でいっぱいな私に、悠里くんは何も言わない。
続く沈黙に、おずおずと視線を上げると、そこには耳まで真っ赤にした悠里くんがいた。

な、何故?
私、何かとんでもないことでも言った?



「…かわいい」



ポツリと悠里くんが何かを呟く。
しかし、体育館のざわめきに紛れて、その言葉を私はうまく聞き取ることができなかった。
なので聞き返そうかと思ったが、それよりも早く、悠里くんは優しく続けた。



「邪魔なんかじゃないよ。柚子に俺も会いたかったし、会えた方が力出るから。勝つから見てて」



私をまっすぐと見つめる悠里くんの瞳は力強く、思わず息を呑む。

私の推しはきっと宇宙一、眩しくて尊い。

私は悠里くんの素晴らしさを噛み締めながらも、一拍置いてから、やっと悠里くんに頷いた。



「…あと、これはウィンターカップが終わってからの話なんだけど」



それだけ言って、悠里くんが一度視線を伏せる。
それから伺うように私を見た。



「クリスマス、やっぱり柚子と過ごしたかったな、て思って。ウィンターカップが終わったら、どこかで一緒に過ごさない?」

「…っ。うん!」



悠里くんの思いもよらない提案に、私は驚きながらも嬉しくて、すぐに頷く。

まさかクリスマスを一緒に過ごしたかったと言われるなんて!
もう過ぎてしまったけど、推しと過ごす日こそが、クリスマスです!
異論は認めません!



「ありがとう、柚子。じゃあ、そろそろ行くね」

「うん!悠里くん頑張って!」



こうして私たちは笑顔で別れた。
小さくなる悠里くんの背中を、私はずっと夢心地で見つめ続けた。

悠里くんの笑顔が、声が、その眩しい存在を構築する全てが、脳裏から離れない。
ーーー私の推しは最高だ。



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