推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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65.沢村家に感謝を。

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里奈さん、里緒ちゃん、私。
この並びで、私たちは体育館内へと入った。

やはりウィンターカップ会場であるここは、地元の体育館とはスケールが違い、その迫力に思わず息を呑む。

高い天井に、広く開けた場所。
少し向こうには大きな階段があり、さらに別の場所には、バスケの試合を行うコートに続く廊下のようなものが見える。
その廊下の手前には、関係者限定、と書かれた紙まであった。

ここが推しの晴れ舞台か…。

黙ったまま、まじまじといろいろなところを見ていると、里奈さんがふと口を開いた。



「そういえば、悠里は今日、柚子ちゃんがここにいること知ってるの?」

「いえ、悠里くんの邪魔はしたくないので黙って来ました」

「ええ!?」



私の答えに、里奈さんが驚きの表情を浮かべる。

一体、何に驚いているのだろうか。

里奈さんの驚きの理由がわからず、首を傾げていると、私たちの間を歩いていた里緒ちゃんが明るい声で言った。



「お兄ちゃん、絶対、柚子お姫様に会いたいよ!」



曇り一つない綺麗な眼差しに「ま、まさか!」とつい首を横に振る。
悠里くんは晴れ舞台に全集中したいはずだ。
それなのに気を使わなければならない相手、対モテ防止彼女が急に現れても大変なだけだろう。

…で、でも、里緒ちゃんの言う通り、会いたいと思われていたらとても嬉しい。

顔を青くしたり、赤くしたり、煮え切らない態度でおろおろしていると、今度は里奈さんが明るい声を出した。



「里緒の言う通りだよ!アイツ、絶対柚子ちゃんに会いたいって!むしろ、会ってあげてよ!その方が何倍も力出るから!」

「…え、えぇ?」



美しく、可愛い、最強の姉妹から念を押されて、だじたじになる。

ほ、本当かな…。
けど、悠里くんのことを私よりも遥かに知っているお二人が言っていることだし…。



「会ってくれますかね?」

「むしろ会いたがるって」



弱々しく里奈さんを見れば、里奈さんはそんな私に力強く頷いた。
そしてその後も私たちの問答は続いた。



「邪魔とかには…」

「ならない、ならない」

「気を使わせるかも…」

「そんなことより、柚子ちゃんに会えた喜びの方が勝つって」



里奈さんの言葉の後に、里緒ちゃんも、「うん。ならない」や、「勝つ勝つ」と、お姉ちゃんの真似をしている。



「さっき、サブの体育館で、アップしてたし、顔だけでも見せに行こ」

「…は、はい」



微笑む里奈さんに、私はいつの間にか頷いていた。

ごめんなさい。悠里くん。
私は欲望に負けました。

本当ならここで強く、「推しのことを第一に考え、断腸の思いで、悠里くんと会うことを諦めます」と言わなければならなかった。
けれど、私にはそれができなかった。
やはりこの目で、晴れ舞台に立つ前の推しを見たい。
あわよくば、挨拶くらいしたい。

申し訳なさとこれから推しに会えるウキウキで、わけのわからない状態になりながらも、里奈さんと里緒ちゃんとサブ体育館を目指す。
そしてその扉がちょうど見えたところで、そこから鷹野高校バスケ部が現れた。

この日まで勝ち抜いてきた強豪校らしいオーラをまとう選手たち。
全員同じ赤と黒の特注の鷹野高校ジャージを着ており、普段の彼らとは、どこか違う雰囲気がある。
そんな強そうな数十人の選手たちの中に、明らかに一人だけ輝きを放つ存在がいた。

歩くたびに揺れる、サラサラの黒髪。
そこから覗く、整った爽やかな顔立ち。
いつもの柔らかな表情とは違い、試合前の真剣な表情。

私は選手たちの中からいとも簡単に、推しである悠里くんの姿を見つけていた。

み、見れた。推しの姿をこんなにも近くで…!
真剣な表情、かっこよすぎる!!!

悠里くん登場に自然と口元が緩む。
先ほどの葛藤が嘘かのように心の中で舞い上がっていたーーーその時。

バチっと悠里くんと目が合った。
それから真剣さで溢れていたその瞳は、私と目が合ったことによって、ふっと柔らかいものへと変わった。

…す、好きぃ!

推しの尊さに体温が一気に上昇する。
すると私の視界いっぱいに映る悠里くんは、何やら周りにいた部員たちと二、三言交わし、そのまま迷いなくこちらへと駆け寄ってきてくれた。

そんな悠里くんの後ろには、恐怖に慄いているバスケ部員たちがいる。
もちろん、私の姿を見つけて。



「て、鉄子が何でここに…」

「ま、まさか、バスケ部の活動の偵察に?」

「部費に関する何かじゃないか!?」



私を認識する少し前まで確かにあった強豪校オーラがすっかり消え、普通の男子高校生のように、右往左往している部員たち。
いつもと変わらぬ彼らを横目に、私は推しをまっすぐ見た。



「柚子、来てくれたんだ」



私のところまで来てくれた悠里くんが、嬉しそうに瞳を細め、柔らかく笑う。
…が、その表情はある場所を見て、気まずそうなものへと変わった。

悠里くんの視線の先、私の横には、面白そうにニヤニヤしている里奈さんがいた。



「へぇ、ふぅん。愛しの彼女ちゃんの前ではそんな顔するんだぁ。ふぅん」

「お兄ちゃん、お姫様大好きだもんね!」



からかうように笑う里奈さんに、可愛らしく笑う里緒ちゃん。
二人の真逆の微笑みに、悠里くんは照れくさそうに視線を落とした。
その頬はほんのり赤い。



「まぁ、うん。…というか、姉ちゃんはその顔やめて」



弱々しく里奈さんに抗議する悠里くんの姿は新鮮で、つい、ガン見してしまう。

お姉ちゃんに弱い、弟ムーブ悠里くん、とてもとても可愛いのだが?

そんな愛らしい悠里くんの頬を、里奈さんはその綺麗な手で鷲掴んだ。



「お姉さまに対しての態度はそれで合ってんのか?うん?まずは、来てくれてありがとうございます、よねぇ?」

「…ゔ、はい、ありがとうございます」



ああー!お姉さまー!
悠里くんのご尊顔が!ご尊顔がぁあああ!!!!

強気に微笑まれ、とても低いテンションで頷いた悠里くんの顔は、里奈さんの手によって、潰されている。

やめてぇ!と一瞬思ったが、それでも素晴らしい悠里くんの顔の新たな一面を見れた気がして、ついドキドキしてしまった。

まるでご主人様には逆らえず、なすがままにされている忠犬のようだ。
ちょっと可愛いと思えてしまう。
家族の絆、素晴らしい。



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