71 / 108
71.好きなところ。
しおりを挟むそれから私たち4人でのクリスマスパーティーは始まった。
リビングの大きなテーブルには、悠里くんと私が作った料理が並べられており、それをみんなで食べながら、話に花を咲かす。
時間を忘れて楽しいひと時を過ごしていると、机を挟んで向こう側に座る里緒ちゃんが、ふと、明るい顔で口を開いた。
「ねぇ、柚子ちゃん。柚子ちゃんはお兄ちゃんのどんなところが好き?」
「え?」
里緒ちゃんの可愛らしい質問に私は目を丸くする。
「んー。いっぱいあるなぁ…」
そして箸を置き、視線を左上へと向けた。
正直、好きなところをあげるとなると、一日中でもあげ続けられる。
しかし、それは流石によくないだろう。
重要な部分だけでも伝えなければ。
そう思い、じっくり思案していると、隣にいた悠里くんは「無理に答えなくてもいいよ」と、気遣うようにこちらを見てきた。
里緒ちゃんの隣にいる里奈さんは「いい質問だねぇ」と楽しそうだ。
全員の視線を浴びながら、私はゆっくりと話始めた。
「えっと…、まずは誰にでも優しいところが好きで、周りをよく見てて、気配りができるところも好き。あとはバスケをしているところもかっこいいし、笑顔も眩しいし、たまに見せてくれる男の子っぽいところも好きだし、見た目も非の打ち所がなくて…」
「ま、待って!もういい!もういいから!」
まだ重要な部分を全て伝えきれていないのだが、真っ赤な顔の悠里くんからストップが入り、もう喋れなくなる。
強制終了だ。
まだまだ言い足りず不満げに悠里くんを見ると、悠里くんは恥ずかしそうに、フイっと、私から視線を逸らした。
…か、可愛い。耳まで真っ赤だ。
ついつい可愛らしい悠里くんに頬が緩む。
すると、今度は里奈さんが怪しく笑った。
「柚子ちゃんだけ悠里の好きなところを言うのはフェアじゃないよね?悠里も言おうか」
ふふふ、と笑う里奈さんに、少しだけ悠里くんが嫌そうな顔をする。
だが、すぐに「…わかった」と小さく頷いた。
おおおおおおお、推しが!?私の好きなところを言ってくれるぅ!!!!????
今まさに大決定されたとんでもないことに嬉しさのあまり、叫び出したくなる。
もちろん、表向きはあくまで冷静に、にこやかにしているが、内なるリトル柚子は喜びで大はしゃぎだ。
今から悠里くんが言ってくれる私の好きなところを、一言一句聞き逃してはいけない。
今日からそこが私のウィークポイントになるのだから。
「…誰にでも平等で、正義感が強いところが好き」
隣から恥ずかしそうに、しかし、しっかりとした口ぶりで、私の好きなところが紡がれ始める。
私はその心地の良い言葉にうんうんと頷き、しっかりと噛み締めた。
なるほど、悠里くんはそう思ってくれているのか。
ならば、今後も風紀委員長として、頑張って働かなくては。
「しっかりしているのに、抜けているところも可愛くて好き」
へへ、可愛いだなんて、嬉しいな。
抜けている自覚はないけど、推しがそう言うのならきっとそうだ。
「実は表情豊かで、いろいろな顔を見せてくれるところも好き」
そ、そうかなぁ。そうなのかなぁ…。
「笑顔も、真面目な顔も、泣きそうな顔も、全部好き。見た目も小さくて、可愛い。小さいのに頑張ってて…」
「…」
続く推しからの有り難い言葉に、どんどん体温が上昇していく。
恥ずかしくて仕方がない。
「あと…」
「ス、ストップ!も、もういいです!限界です!」
まだまだ何か出てきそうな悠里くんに、流石に心臓が破裂しそうになり、私は声を上げた。
まさか、好きだと言われ続けることがこんなにも心臓に悪かったとは。
「…でも俺はもっと言いたいんだけど」
「いい、いい!もう十分!これ以上は私が死んじゃうから!」
眉を少し下げ、まるで子犬のような瞳で不満げにこちらを見る悠里くんに、私は強い意志で首を横に振る。
これ以上は本当に耐えられないのだ。
だが、そんな私を見た悠里くんは柔らかくその瞳を細めた。
「照れてる顔も可愛くて好き。俺しか見られない顔だよね」
「~っ!!!!」
嬉しそうな悠里くんに声にならない悲鳴をあげる。
推しが…、推しが…、尊すぎる…!
一瞬、推しが尊すぎて、意識が飛びそうになったが、私はそこをぐっと堪えて、必死で隣へと手を伸ばした。
そしてそのまま「もう!」と、危険すぎる悠里くんの口を左手で塞いだ。
好き攻撃強制封印だ。
「好きはおしまいです!」
顔を真っ赤にする私に、悠里くんが目を丸くする。
だが、その瞳はすぐに愛おしげに細められ、次の瞬間には私の手のひらに、チュッと何か柔らかいものが当てられていた。
何かではない。
…この尊い感触は悠里くんの唇ではないか?
「ひゃあ…っ」
ほんの数秒固まった後、やっと状況を飲み込み、情けない声をあげて、悠里くんの口から左手を離す。
すると、そんな私に悠里くんは満足げに笑い、「やっぱり、可愛い」と言った。
とんでもない。とんでもないぞ、私の推しは。
ラブテロリストだ。私を甘さで殺す気だ。
甘い空気の中、おろおろと狼狽えていると、その声は聞こえた。
「悠里、場所」
呆れたようにそう言ったのは里奈さんだ。
里奈さんは苦笑いを浮かべながら、隣にいる里緒ちゃんの目元を手で覆っていた。
「ねぇ!ねぇ!?何が起きているの!?お兄ちゃん、柚子ちゃんに何したの!?ねぇ!!!!」
里緒ちゃんが里奈さんに目隠しされたまま、興奮気味に両手をバタバタと動かしている。
里奈さんの目隠しのおかげで、里緒ちゃんは状況をよくわかっていないようだったが、知りたくて知りたくて仕方ないようだった。
里奈さんと里緒ちゃんに今のやり取りを見られ、聞かれていたことを知り、私はますます恥ずかしくなる。
…人一人分入れる穴はどこですか。
ちらりと悠里くんを見ると、さすがに悠里くんも気まずそうに「…ごめん」と謝っていた。
そんな中、やっと里奈さんの目隠しから解放された里緒ちゃんは、声高らかに言った。
「わたしわかったよ!お兄ちゃんが柚子ちゃんのこと、とぉても、大好きなんだってこと!」
キラキラと輝く里緒ちゃんの瞳には曇り一つなく、無邪気そのものだった。
0
あなたにおすすめの小説
生まれ変わったら極道の娘になっていた
白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。
昔、なろう様で投稿したものです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる