推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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72.光の海で溺れた。

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すっかり日も暮れ、沢村一家とのクリスマス会はお開きとなった。
暗くなり始めた空には、ポツポツと輝く星が見え出している。もうすぐ夜だ。

名残惜しくも悠里くんの家から帰ることになった私は、寒空の下、悠里くんと共に並んで駅まで向かっていた。

私の横を歩いてくれている悠里くんを、チラリと盗み見る。
吐く息は白く、鼻先が少し赤い。
寒そうな悠里くんに私は申し訳なさと、それから嬉しさでいっぱいになった。

推しをこんな寒い中、歩かせたくない。
今すぐにでも暖かい場所に戻ってほしい。
けれど、まだ一緒に居られることが嬉しい。

幸せな気持ちを噛み締めながらも、肩にかけてあるトートバッグの紐をぎゅう、と握る。

この中には悠里くんへのクリスマスプレゼントがある。
別れ際に絶対に渡さなければ。



「…ねぇ、柚子。ちょっと寄り道してもいい?」



突然、伺うように悠里くんに瞳を覗かれて、一瞬、その尊さに息を呑む。
何をさせても絵になる罪な男。それが私の推しである。



「う、うん。もちろん」



この胸の高鳴りを悠里くんには絶対に悟られまいと、私はいつも通りの平静を保って、笑顔で頷いた。



*****



悠里くんに連れられてやってきたのは、駅からほんの少し離れた、とある広場だった。

ビル群の中にあるその開けた場所には、普段は住民たちの憩いの場として自然が広がり、ベンチや子どもたちが遊ぶ広いスペースがある。
だが、今日はそこが少しだけ違った。
生い茂る木々には、暖色のイルミネーションが施されており、その他にも様々なクリスマスに関するオブジェが並べられている。
もちろんそのオブジェたちも木々のイルミネーションのように暖色の光を放っていた。

もうクリスマスは終わってしまったが、ここはまだクリスマスのままだった。



「…うわぁ」



広がる光の海に、思わず感嘆の声を漏らす。
するとそんな私を見て、悠里くんは柔らかく笑った。



「ここ綺麗でしょ?柚子と一緒に来たかったんだ」



私をじっと見つめて離さないその瞳には、どこか甘い熱がある気がして、心臓がゆっくりと加速し始める。

すごくすごく反則な視線だ。
心臓に高負荷がかかってしまう。このままではムキムキな心臓になってしまう。

イルミネーションよりも眩しい推しに、つい瞳を細めていると、悠里くんはダウンのポケットから何か小さな箱を取り出した。



「これ、クリスマスプレゼント」



悠里くんから差し出された淡い水色の箱には、白いリボンが付けられており、すごく可愛らしい。
まさかのタイミングで出された推しからのクリスマスプレゼントに、目を白黒させながらも、私はそれをおそるおそる受け取った。

ゆ、悠里くんがわざわざ私のためにプレゼントを用意してくれていたなんて…。
恐れ多い……けど、嬉しい。

推しからの贈り物。
もうそれだけで全てが尊い。

悠里くんから頂いた小さな箱を、いつまでもいつまでも見てしまう。
すると、そんな私に悠里くんは「中、見てみて?」と、おずおずと言ってきた。

悠里くんからの要望に、私はすぐに頷いて、リボンを解く。
そして箱を開けると、そこには小さなシルバーの指輪が入っていた。

シンプルな、だが、洗練された美しい指輪。
何にでも合いそうな指輪の登場に、私は目を丸くした。

お、推しが私なんかに指輪をプレゼント?

私は確かに悠里くんの名誉ある彼女だが、本当の意味での彼女ではない。
悠里くんがただバスケに専念するための壁的な存在なのだ。そこに異性への好意はないはずだ。

いや、いやいやいや。

悠里くんはとても真面目だ。
だから彼氏としての責任感からこうして私をきちんと彼女として扱ってくれているのだろう。
この指輪に決して他意はない。そうだ、絶対にそうだ。



「…悠里くん、ありがとう。すごく素敵な指輪だね」



やっとの思いで心の整理を終え、指輪から視線を上げると、こちらをまっすぐと見つめていた悠里くんと目が合った。



「気に入ってもらえてよかった。柚子は俺の彼女だから、何か身に付けて欲しくてそれにしたんだ」



ズズズズキューン!!!!

真剣に、だが、どこか切実な表情をこちらに向ける悠里くんに、心臓が見事に撃ち抜かれる。
全く計算されていない祈るような上目遣いは、私の心臓には悪すぎた。

かっこよくて、尊くて、眩しくて、さらにはあざとくて可愛いなんて反則だ。

徐々に熱を帯び始めた頬に手を当てながら、もう一度悠里くんを見ると、イルミネーションの光が悠里くんに影を落としていた。
その影が微笑む悠里くんをどこか仄暗く見せる。



「付けられる時はそれを付けていて欲しい。俺のわがままだってわかっているけど、どうしてもそうして欲しいんだ」

「も、もちろん!肌身離さず付けます!」



おずおずと遠慮がちに、しかし、その瞳には確かな力強さを帯びた悠里くんの願いに、私は食い気味に返事をした。
推しの願いを聞かないわけがないではないか。

嬉しい気持ちでいっぱいになりながらも、今、私も悠里くんにクリスマスプレゼントを渡すべきだ、と判断し、私は指輪を一度カバンへとしまおうとする。
しかし…。



「しまわないで、柚子。今、付けて欲しい…」



と、しおらしくこちらを見る悠里くんに、それは止められた。
悠里くんのねだるような視線に心臓がまた加速する。

痛い。心臓が痛い。



「う、うん。わかった」



何とか平静を保ちながら、頬を赤くし、私はぎこちなく悠里くんにそう返事をする。
それから私は悠里くんの願い通り、箱から慎重に指輪を出して、左手の薬指に指輪を付けてみた。

大きすぎず、小さすぎず、ピッタリだ。
キラリと私の指で輝く指輪に、私は表情を綻ばせた。



「…かわいい」



推しからのプレゼントに感動して、小さく呟く。
そんな私に悠里くんは満足げに優しく微笑んでいた。

はっ。いけない。
私も悠里くんにクリスマスプレゼントを渡さなければ。

嬉しすぎて、幸せすぎて、しばし現実を忘れていたが、やっと正気を取り戻し、慌てて今度こそ、カバンから悠里くんへのクリスマスプレゼントを出す。



「はい、これ。私からのクリスマスプレゼント」



そしてクリスマスの絵柄の袋を、悠里くんにやっと差し出した。



「ありがとう、柚子。中見ていい?」

「うん」



嬉しそうにプレゼントを受け取って、悠里くんが袋の中を覗く。
すると、悠里くんは柔らかく瞳を細めた。



「うわぁ。服?めっちゃいいね」

「あ、あのね。バスケの練習着に、て思って買ったの。それ。悠里くんに似合うと思って…」

「そっか…」



私の説明に、悠里くんはさらに嬉しそうになる。
その姿があまりにも尊くて、私は神に感謝した。

こんなにも尊い存在をこの世に授けてくださり、ありがとうございます。



「好きだな…」



ポツリと呟かれた悠里くんの言葉に、胸が温かくなる。



「私も」



そう私も悠里くんに笑いかけると、悠里くんの表情は一瞬だけ、曇った。
また悠里くんの顔に暗い影が落ちる。
イルミネーションの光が悠里くんをそうさせる。

ほんの少しだけどこか暗い気がする悠里くんに疑問を抱いたが、その思考はすぐに吹っ飛ばされた。

悠里くんがゆっくりと私に迫り、優しくその唇を私の唇に落としていたからだ。



「…っ」



推しからのキスに私は息を呑んだ。
甘い、甘い、空気が、私に息の仕方を忘れさせる。

ここにいる人たちは皆、イルミネーションに夢中で、誰も私たちのことなど見ていなかった。


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