推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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76.失えない。side悠里

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side悠里



「あの時は確かに玉砕覚悟で本気じゃなかったけど、今はちゃんと本気だから」



賑やかな部室内に、俺の真剣な声が響いた。
それによってあんなにも自由に喋っていた部員たちの声がピタリと止まる。
しかしそれはほんの一瞬で、すぐにその場にいた部員たちはいつもの調子で声を上げた。



「わかってるよ!」



最初に明るくそう言って、ガバッと俺の肩を抱いたのは隆太だ。



「俺たちはお前の味方だぁー!なぁ、みんな!」



それから部員全員にそう同意を求めた。



「「おおー!」」



隆太の声に部員たちは、部活と同じ声量で応える。
みんなの温かさに俺は胸が熱くなった。
彼らは大切でかけがえのない存在だ。



「お疲れ様でーす」



その時だった。
盛り上がっている部室内に、大きな茶封筒を抱えた後輩、慎がいつもの調子で現れた。



「これ、そこで鉄崎先輩から預かりました。なんか監督からみたいで」



慎がたまたま扉の近くにいた陽平に、抱えていた茶封筒を渡す。
陽平はそれを目を丸くして受け取った。



「そこ?」



ぱちぱちと大きくまばたきをする陽平に、部員たちもざわつき始める。



「慎のやつ、そこって言ったか?」

「そこってどこだ?」

「てか、鉄崎先輩、て言ったよな?鉄崎先輩って、て、鉄子であってるよな?」



それぞれが顔を見合わせて、慎の言葉を確認し合う。
その中で俺は頭を真っ白にしていた。

先ほどと同じように賑やかなはずの部室内が、やけに静かに思える。
誰の言葉も耳に入ってこない。



「…慎。そこってどこ?」



ざわつく部員たちの中で、陽平は冷や汗を浮かべながらも、冷静に慎にそう問いかけた。



「え?部室の前ですけど…」

「い、いつから!いつからいたかわかるか!?」



部員たちの反応に戸惑う慎に、今度は隆太が俺から離れて食い気味に質問する。
すると、慎は首を傾げてこう答えた。



「いつからかはわかりませんけど、少なくとも今、そこにいましたよ」

「「な、何ぃ!?」」



慎の言葉に部室内にいた全員が大きな声をあげる。



「つまり、〝鉄子に玉砕大作戦!〟が聞かれていた可能性があるぞ!」

「さすがにやばいって!」

「ど、どうする!?」



それからそれぞれが顔面蒼白で、悲鳴にも聞き取れる声を出した。
俺はその中でやっと聞き取れた声に、顔を青くしていた。

…柚子に聞かれた。
作戦のことも、告白が嘘だったことも。

ーーー柚子にフラれる。

まだ何も起きていないはずなのに、足元から全てが崩れ落ちて、地獄へと突き落とされた気分になる。
息の仕方がわからない。



「…悠里、落ち着け。まだ全部聞かれたかどうかはわからないだろ?」



苦しい胸を必死で抑えていると、そんな俺を陽平が心配そうに覗き、背中を軽く叩いた。



「でも万が一もある。もし聞かれていたら、鉄子は怒っているだろうから、謝りに…」

「怒りはしないと思う。悲しむだろうけど」



陽平の言葉に、ポツリと俺の本音が漏れる。

柚子は決して怒らない。
けれど、間違いなく悲しむだろう。
それから残念だと寂しげに笑って、簡単に別れを切り出すのだ。



「…」



心の中で、すとん、と何かが落ちる。

ああ、わかってしまった。
柚子が俺へ向けていた気持ちの正体を。

柚子はいつも俺をまっすぐ見る。
その瞳には確かな愛がずっとあると思っていたが、あれは愛ではなかった。

ーーー憧れだ。

芸能人やインフルエンサーに向ける、それだ。
柚子が愛を持って、見つめる先には…。

そこまで考えて、一度、俺は首を横に振った。

知りたくなかった。知らないままでいたかった。
けれど、頭の中に、アイツを見つめる柚子の姿が嫌というほど鮮明に思い浮かぶ。

華守を見つめる柚子は俺と同じ目をしていた。
愛しさと相手にもそれを求める葛藤。
キラキラと綺麗なだけではないもの。

それが愛なのだ。

柚子は俺ではなく、アイツが好きなのだ。
だが、それでも俺は柚子を離したくなかった。



「ちょっと行ってくる」



俺はそれだけ言って、さっさと部室から出た。



「なぁ、悠里、いつもと雰囲気違くね?」

「大丈夫か、あれ?」

「それだけ切実ってことだろ?」



大変な状況にしては冷静な態度で消えた俺に、部員たちは心配の色を浮かべた。
だが、それを俺は知る由もなかった。




*****



部室から飛び出し、校舎内を駆け回る。
柚子がいそうな場所を片っ端から探し続け、数十分が過ぎた頃。
ついに俺は柚子の姿を見つけた。



「スカートが短すぎる。今すぐ直しなさい」



2人の女子生徒の前に立ち、厳しい声を出している柚子の背中に俺は迷うことなく、ずんずんと近づく。
俺の存在に気がついた女子生徒たちは、顔面蒼白のまま、けれど驚きを隠せない様子で、柚子と俺を忙しなく交互に見つめていた。
だが、柚子はそれでも後ろから迫る俺に全く気づくことなく、注意を続けていた。



「ちょっと柚子借りていい?」



そんな柚子の肩に俺は後ろから触れる。
すると柚子はビクンッと肩を弾ませ、「…っ!?」と声にならない悲鳴をあげた。



「「は、はい!ど、どうぞ!」」



俺の言葉に女子生徒2人は何度も何度も頷いている。



「ありがとう。じゃあ、柚子、ちょっといい?」

「へ?え?」



俺は女子生徒2人にお礼を言うと、あまり状況を理解していない様子の柚子の手を引いて歩き出した。
大きなその目をぱちぱちさせ、不思議そうにこちらを見ている柚子が可愛くて仕方ない。
こんな時でさえもそう思える俺は、やはり相当柚子が好きなようだ。


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