推しに告白(嘘)されまして。

朝比奈未涼

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84.最初のチョコ。

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やっとの思いで生チョコタルトを完成させ、いよいよラッピングの工程へと入った。
最初の生チョコタルトこそ、元気いっぱい欲張りタルトになったが、残り二つは千夏ちゃんのアドバイスのおかげで、少しはマシになった。

千夏ちゃん曰く、二つ目のタルトは、〝恐れすぎ、貧相タルト〟で、三つ目が、〝バランス最悪、アンバランスタルト〟なのだが。
そんな辛辣な千夏ちゃんだが、最後には「でも頑張りは認めるわ。さすがお義姉様、苦手なことにも、逃げず立ち向かう姿は圧巻だったわ」と、どこか上から目線な笑顔で拍手を送ってくれた。

大きなテーブルの上には、もう生チョコ作りに使われた調理器具たちはない。
それらは先ほど片付け、今は小さな箱やリボン、紙など、ラッピングに必要なものが並べられていた。

そこから私は小さな箱を手に取り、生チョコタルトを入れながらも、ふと思ったことを口にした。



「そういえば、千夏ちゃんは今日作ったやつ誰にあげるの?」

「あら、そういえば言ってなかったわね。お父様とお兄様とそれから婚約者によ」

「へぇ…。お父様とお兄様と婚約者にね…。ん?」



千夏ちゃんの淡々とした答えに、一瞬、私は固まる。

お父様にあげる、わかる。
お兄様にあげる、わかる。
婚約者にあげる…?
婚約者?



「え、え!?千夏ちゃん中学生だよね!?こ、婚約者がい、いるの!?え!?」

「ええ。もちろん。華守の娘だもの」



何でもないことのように答えた千夏ちゃんに、私は大きく目を見開き、思わず千夏ちゃんを凝視した。
だが、そんな私とは違い、千夏ちゃんは平然としており、手際よく、箱にリボンを巻き付けていく。

その姿に私は思った。
婚約者がいるということは、千夏ちゃんにとっては、当たり前で、普通なのだ、と。

お金持ちの世界、すごすぎる。
庶民には全く理解できない世界だ。

未知の世界に衝撃で固まっていると、そんな私に気がついた千夏ちゃんは、作業を続けながら言った。



「華守と繋がりたいのよ、みんなね。つい最近まで婚約者がいなかったお兄様の方が異例なのよ?」

「…は、はぁ」



千夏ちゃんの説明に、つい間の抜けた返事をしてしまう。
千夏ちゃんのお兄様、つまり千晴の婚約者は千夏ちゃんにとっては私なのだが、もうそこにいちいちツッコミを入れるのはやめた。



「それで?アナタは一体誰にあげるのかしら?沢村悠里と、残りのものは誰に?」



全ての箱のラッピングを終えた千夏ちゃんが、興味深そうに私を見る。
そんな千夏ちゃんに私は作業を続けながら、淡々と口を開いた。



「悠里くんと、お父さんと…」



そこで一旦、言葉を止めて、箱に巻き付けたリボンをギュッと結ぶ。
それから視線を上げて、ある場所へと視線を向けた。



「そこにいる私の後輩に」

「え」



私の言葉に千晴が珍しく、目を白黒させる。
まさかここで自分の名前が出るとは、夢にも思っていなかったようだ。

優雅に椅子に腰掛けていた千晴は前のめりになり、「本当?」と信じられない様子で私を見た。



「本当」



それだけ言って、今まさにラッピングし終えた箱を持ち、千晴の元へと向かう。
私の手の中にある、金色のリボンが巻かれた白い箱。
ちゃんと千晴のことを考えて選んだものだ。



「ずっと見てたからわかってると思うけど、これはほぼ千夏ちゃん作だから…。それでもよかったら…」



何だか照れ臭くて、千晴から視線を逸らしてしまう。
頬に熱まで感じて、何故こんな感覚になっているのか自分でもわからない。

これは今日のお礼のチョコだ。
ただの後輩へ渡すものだ。
こんな感情になるものではないはずなのに。

ズイッと千晴に箱を差し出すと、千晴はそれを受け取った。



「ふふ、ありがとう」



私の耳に千晴の柔らかい声が届く。
その声があまりにも嬉しそうで、ゆっくりと視線を千晴へと戻すと、千晴は本当に幸せそうに瞳を細め、笑っていた。



「…こういうの初めて?誰かに手作りのバレンタインチョコあげるの」

「ん?んー。まぁ、お父さんをカウントしなかったら初めてだね」

「そっか…」



私の答えに、千晴がますます嬉しそうにその瞳を細め、どこか愛おしげに私が渡した箱を見る。
それからゆっくりと、優しく箱を撫で、口元を緩めた。



「また先輩の初めてもらえた」



ふわりと笑う千晴に、ドクン、と小さく心臓が跳ねる。
整った美しい顔が何故かいつもよりもキラキラと輝いて見え、眩しくて、体の芯が熱くてふわふわした感覚が徐々に私の中で広がっていく。

な、何だろう、これ。

今は別に千晴との距離が近いわけでもない。
当然、今日の鬼門であった料理ももう終わっている。
それなのに心臓がどんどん加速していく。

千晴が笑っただけなのに、どうしてこんなにも嬉しい、と思えてしまうのか。
今日一日、ずっとこんな動悸に襲われていたが、これは何かへの不安でも緊張でもないのだろうか。

…まさか、病気?

わけのわからない感覚に頭を悩ませていると、突然、千晴が椅子から立ち、私との距離を詰めた。

千晴の顔に長いまつ毛が影を落としている。
そう思った、次の瞬間。

千晴は私の唇のすぐ横に、自身の唇を落としていた。
チュッと音を立てて、千晴の顔がゆっくりと私から離れる。
またあの文化祭の時と同じ、柔らかい感触だ。

急な出来事に私は何もできず、ただただ固まっていた。



「な、へ、え」



何度も何度もぱちぱちとまばたきをし、状況を何とか飲み込もうとする。

え、今、私は、な、何された?
唇が触れた?私の唇の横に?
え、唇が触れた?

…キス?接吻?kiss?



「な、な、な、なんで!?」



やっと状況を理解した私は、顔を真っ赤にして、千晴に叫んだ。
そんな私に千晴は「かわいい、先輩」と、とても楽しそうだ。



「先輩のそこにチョコがついてたから取ったんだよ。美味しいね、このチョコ」



私の唇辺りを指差し、悪びれる様子もなく、千晴は笑う。
その様子に私の中の何かが、ブチン!と切れた。



「だったら口で取るな!手で取れ!」

「えぇ。だってチョコだし、食べたいじゃん?」

「手で取った後に食べればいいでしょう!?」

「先輩から食べたかったんだもん」



鬼の形相で怒鳴る私に、千晴は何故かとても楽しそうだ。
ふざけた態度を取り続ける千晴に、「この野郎!」と怒りの感情が湧くが、それでも嫌いにはやっぱりなれなかった。
この生意気で、マイペースな後輩を、私は何故か好意的に思えた。

顔を真っ赤にして怒鳴る私に、楽しそうに笑う千晴。
私たち2人のやり取りに、千夏ちゃんは満足げに微笑んだ。



「やっぱり、2人は未来のラブラブおしどり夫婦。完璧な2人だわ。…ただ、沢村悠里、彼だけが唯一の欠点ね。あのお義姉様の浮気癖、どうにか治さないと…。いくら言ってもダメな時は、沢村悠里を愛人枠として許すしかないのかしら…」



ぶつぶつと千夏ちゃんが何か呟いていたが、それは私の怒号によって、かき消され、私の元までは届かなかった。



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