11 / 33
11.花咲く場所で
しおりを挟む今日のウィリアム様との予定はシャロン公爵邸内にあるガラスドームの園庭内を共に散策する、というものだった。
「やぁ、レイラ」
今日も今日とて嫌々ウィリアム様の前に現れた私に、ウィリアム様はとても嬉しそうに柔らかく微笑む。
…本当に意味がわからない。
私のことが嫌いなはずなのにどうしてそんな顔ができるのだろうか。
「こんにちは、ウィリアム様」
「こんにちは、レイラ。今日は散策にうってつけの日だね」
「そうですね」
ウィリアム様がガラス越しの空にほんの少しだけ視線を向けたので、私も同じように空に視線を向ける。
ここは園庭とはいえ、ガラスドームの中なので、外の天気の影響を一切受けない。
外がどんなに寒くてもここだけは暖かいのだ。
しかし温度の影響は受けないが、園庭内の美しさについては違った。
晴れている方が、園庭内に太陽の光が降り注ぎ、この園庭をより一層美しく輝かせるのだ。
今日の天気は晴れだった。
園庭を輝かせる太陽の光が降り注ぐ今日はウィリアム様の言う通り、散策するにはうってつけの日なのだ。
簡単な挨拶を済ませた私たちはいつものように他愛のない会話をしながら、園庭内の散策を始めた。
「今日のスタイリングも全部セオドアが?」
「はい、そうです」
「ふふ、相変わらず仲のいい姉弟だね」
「…まぁ、はい。たった1人の弟ですし」
「でも実際に血は繋がっていないよね?」
「…私とはそうですね」
クスクスとどこか楽しそうに笑うウィリアム様に気まずくて曖昧な返事をしてしまう。
ウィリアム様はこうしてたまにレイラ様としてではなく、私を私として扱う時がある。
そしてここにいる私はいつでもレイラ様だったので、その度に私は戸惑った。
苦笑いを浮かべる私と優しい微笑みを浮かべるウィリアム様。
表向きは一応、にこやかな私たちだが、もちろん私の心はにこやかなものではなかった。
ウィリアム様はいつも何かしらの嫌がらせを突然してくる。今日も私に何をしてくるかわからない。
警戒するに越したことはない。
「レイラ、こっち」
心の中でウィリアム様のことをずっと警戒していると、ウィリアム様はそんな私の手を引き、狭い木々の隙間を歩き始めた。
ウィリアム様が進む方向には人1人分のスペースしかなく、複雑に変わる方向によって、自分が今歩いてきた道でさえもよくわからなくなる。
そんな道なき道をウィリアム様と歩き続けること数分。
突然、私たちの目の前に開けた場所が現れた。
「わぁ…!」
その開けた場所のあまりの美しさに、思わずレイラ様としてではなく、私、リリーとして感嘆の声をあげる。
私たちの目の前に広がる開けた場所には、見たことのない色とりどりの花が咲いており、その花の周りには数匹の蝶々がふわふわと舞っていた。
さらにそこに太陽の光が差し込まれ、キラキラと輝くことによって、今は冬だというのに、そこだけはまるで春のような暖かさのある場所になっていた。
あまりにも暖かく、美しい景色に見惚れていると、隣にいたウィリアム様が私に優しく微笑んできた。
「ここは俺のお気に入りの秘密の場所だよ。レイラをここへ連れて来たのは初めてだね?」
ふわりと笑うウィリアム様に私は思う。
レイラとはどちらのレイラのことを言っているのだろうか、と。
ホンモノのレイラ様も含めてなのか、ニセモノである私になのか。
…全くわからない。
考えてもわからないことを考えても時間の無駄だ。
私は早々にウィリアム様の言った言葉の真意について考えることをやめ、改めて美しい景色へと視線を向けた。
「綺麗ですね…」
ふらふらとウィリアム様から離れて、花を潰さないようにその場に腰を落とす。
それから目に付いた一輪にそっと触れてみた。
とても美しく愛らしい花だ。
おまけに太陽の光の影響か輝いているようにも見える。
「ここの花には特別な魔法が使われていてね。太陽の光を浴びると輝くようにされているんだよ」
「そうなんですね」
頭の上から聞こえてくるウィリアム様の説明を受け、改めて花のことをじっと見つめる。
この不思議な輝きは太陽ではなく、魔法によるものなのか。
「ふふ」
ふと、頭の上からウィリアム様の楽しそうな笑い声が聞こえる。
どうしたのかと顔をあげれば、美しいウィリアム様の黄金の瞳と目が合った。
「…何か面白いものでもありましたか?」
おそらく私を見て笑っているウィリアム様に私はそう質問してみる。
すると、ウィリアム様はその瞳をスッと細めた。
「そうだね。あったね」
クスクスと笑いながらこちらを何故か愛おしげに見つめるウィリアム様に訳がわからず首を傾げる。
何がそんなに面白いのか。
そして何故、そのような慈愛に満ちた瞳を私に向けるのか。
よくわからなかったが、私はまた考えることをやめた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
花の周りをふわふわと舞う蝶々もどこか特別な感じがする。
普通の蝶々とは違う輝きを感じるのは、ここの花の蜜で生きているからなのだろうか。
それとも太陽の光を浴びて輝いているのか、単に花の輝きを受けて輝いて見えるのか。
夢中になってここの観察を続けて数分。
私はずっと1人でただただこの幻想的な景色を楽しんでいた。
正直、ウィリアム様に絡まれず、この景色をただただ楽しめる今の状況は有り難すぎるし、楽しすぎる。
ウィリアム様の顔色を伺わなくていいとはなんて気が楽なのだろう。
だが、そこまで考えて私はふと思った。
その気を使うべき相手は今どこにいるのだろう、と。
先ほどまですぐ後ろに感じていたウィリアム様の気配が今はもうない。
つまりウィリアム様はここから離れたどこかにいるということだ。
そう思った私は座っていたが一度立って、周りを見渡した。
見渡す限り美しい景色。開けた場所の周りは木々に囲まれており、その先が全く見えない。
どこかにウィリアム様がいるはずだ、といろいろな場所へと視線を向けるが、その姿はどこにも見当たらない。
この自然の中でゆっくり寝ているからこちらからは見えない、とか?
「ウィリアム様!どこにいるんですか!」
私は見えない場所にいるウィリアム様を探す為に、その場で目一杯叫んでみた。
だが、ウィリアム様から返事はない。
「ウィリアム様!ウィリアム様!」
なので、私は今度はその場から駆け出して、この開けた場所中を探してみることにした。
だが、やはりどこにもウィリアム様の姿はない。
…嘘でしょ?
ここまで複雑な道をウィリアム様と共に来た。
木と木の間を縫うように歩いてきた為、当然帰り道なんて覚えていない。
今日の嫌がらせはこれなの?
「…はぁ」
1人で帰れる気がしないが、ここにいても仕方がない。
私は大きなため息を吐いてから、ウィリアム様と共に最初に来た場所へと戻った。
そこから道なき道を何となく勘と薄れすぎている記憶を頼りに突き進んだ結果、約1時間後、私は何とか知っている道に辿り着いた。
ウィリアム様と一緒だった時はたった数分しかかからなかったのに。
やはりウィリアム様の嫌がらせはかつてのセオドアとはまた違った方向で最悪だ。
320
あなたにおすすめの小説
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
いい加減な夜食
秋川滝美
恋愛
ハウスクリーニングのバイトをして学費を稼ぐ大学生、谷本佳乃。ある日彼女が、とある豪邸の厨房を清掃していたところ、その屋敷の使用人頭が困り顔でやってきた。聞けば、主が急に帰ってきて、夜食を所望しているという。料理人もとっくに帰った深夜の出来事。軽い気持ちで夜食づくりを引き受けた佳乃が出したのは、賞味期限切れの食材で作り上げた、いい加減なリゾットだった。それから1ヶ月後。突然その家の主に呼び出されたかと思うと、佳乃は専属の夜食係として強引に雇用契約を結ばされてしまい……。ひょんなことから始まる、一風変わった恋物語。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる