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10.最悪の二面性
しおりを挟む初めてウィリアム様とお茶会をした夜。
私はいつものようにレイラ様の部屋で、授業の予習と復習をしていた。
もちろん私の隣には、今日もピッタリと椅子をくっつけて座っているセオドアもいる。
セオドアの手には何やら難しそうな本があり、セオドアは勉強をする私の横でその本を読んでいるようだった。
「今日、シャロンで水浴びをしてきたって聞いたんだけど。犬でもないのに何しているんだよ?姉さんはそんなことしない。姉さんの代わりをするならちゃんとしろ」
読んでいた本を突然パタンっと閉めて、こちらを睨むセオドアに不満しかない。
セオドアの言い方では、私が好きで噴水に入ったようではないか。
「…好きでそうなったんじゃない」
「そんなのどうでもいい。水浴びをしたのは事実だろ?お前の不注意で」
「…まあ、そうだけど」
私の不注意ではない。ウィリアム様の悪意100での出来事だ。
けれどそれをセオドアに言ったところで、現状は変わらないので、本当のことを言おうとは思わなかった。
セオドアは自身の姉さんであるレイラ様の味方であって、レイラ様のニセモノである私の味方ではないのだ。
不満そうな私を見てセオドアは「何?」と冷たい視線を私に向けてきた。
「…ウィリアム様ってサイコパスだったりする?」
冷たい視線を私に送り続けるセオドアに何となく〝ウィリア様〟について聞いてみる。
レイラ様とウィリアム様が幼馴染なら、きっとセオドアも同じようにウィリアム様と幼馴染であり、私よりもずっとウィリアム様について知っているはずだ。
私の質問にセオドアは「は?」と怪訝な顔をした。
「姉さんの婚約者であるウィリアム様がサイコパスなわけないだろ?完璧な姉さんの婚約者なんだから、当然ウィリアム様も完璧なお方だ。そうでなければ、姉さんとの婚約を許していない」
「いや、けどそんな完璧な人にも裏があるとかさ?」
「ない。あのお方は完璧なお方だ」
「でもほら、実は使用人をいじめていた、とか、どこかの娘さんを泣かせた、とかそういう噂の一つくらいは…」
「ない」
私がどんなにウィリアム様の裏を探ろうとしても、セオドアはキッパリと首を横に振る。
ウィリアム様はどうやらセオドアの前でも性格の良い完璧な人らしい。
ウィリアム様の性格の悪い完璧ではない一面をセオドアは知らないようだ。
では、何故、そんな完璧な人が急に私にあんな悪意のある行為と言葉を吐いてきたのか。
すっかり勉強する手の止まった私は机を何となく睨んで、うんうんと考え込んだ。
ーーー思い当たる節は一つだけある。
ウィリアム様もセオドアと同じように、私がレイラ様の代わりであることが、気に食わないのではないだろうか。
だから私に嫌がらせをしてきた。
怒りの表れとして。
きっとウィリアム様もセオドアと同じで、レイラ様のことが大切でかけがえのない存在なのだろう。
ウィリアム様とレイラ様は幼馴染件婚約者なのだ。
普通に考えてそんなレイラ様に成り代わろうとするものがいるなんて到底許せないはずだ。
ウィリアム様なりの拒絶があの嫌がらせだったのかもしれない。
「…はぁ」
地雷のような男2人に愛されすぎるているレイラ様に私は小さく息を漏らした。
レイラ様がいない今、レイラ様の代わりにあの地雷2人組の相手をしなければならないのは私だ。
全ての地雷を踏んで焼け野原にしてしまいそうで怖い。
*****
「はぁ…」
今日の嫌すぎる予定のことを思い、私からため息が漏れる。
馬車から見える景色をぼーっと見つめながら、私は憂鬱な気分になっていた。
正直もうウィリアム様とは会いたくない。
ウィリアム様と初めて会ったあの日から2週間。
ウィリアム様の婚約者という立場上、会いたくなくても、数日に一度はウィリアム様に会いに行かなければならず、今日も私は重い腰を上げ、嫌々ウィリアム様に会いに1人で馬車に乗っていた。
毎回毎回、ウィリアム様と会う時は私の方からウィリアム様の元へと行く。
その度に私は伯爵家であるこちらの方がウィリアム様よりも身分が下なのだと痛いほど感じ、緊張した。
そしてその伯爵家よりも身分が上であるウィリアム様はあの日以来、私と会うたびに私に様々な嫌がらせをしてきた。
あの日のように頭から紅茶をかけられた回数3回、噴水に突き落とされた回数2回。
ある時は「君が気に入っている本を知りたい」とか言われたので、適当に選んだ本を持って行けば、それを私の目の前で一枚ずつビリビリに破られた。
そんなことを毎度毎度繰り返されては会いたくもなくなる。さらにはどんなことをされても伯爵家の為、レイラ様の為に私は怒れないのだ。
脳内で何度、ウィリアム様に悪態をつき、その美しい王子様フェイスを殴ってきたことか。
しかも嫌がらせをしてきた後、ウィリアム様は決まっていつも私のことを心配してきた。
紅茶や噴水の水でびしょ濡れの私に「大丈夫?」と心底心配そうな顔で手を伸ばし、本を破られて固まる私に「辛いよね」と労うような顔で私の頬を撫でられた時は本当に意味がわからなかった。
ウィリアム様はきっとサイコパスなのだと私はいつも思っていた。
会うたびに笑顔で私に嫌がらせをするくらい私のことが気に食わないのなら私に会わなければいい、ホンモノのレイラ様が帰ってくるまで待てばいいではないか、と思う。
だが、ウィリアム様は何故かいつも帰り際に次の約束を取り付け、私がウィリアム様から離れることを許さなかった。
そしてウィリアム様は嫌々会いに来る私を見ていつもどこか嬉しそうにしていた。
ああ、私が没落寸前の男爵家の娘ではなかったら。
男爵家の再建の為にレイラ様の代わりをしていなかったら。
絶対にもう会いたくない相手なのに。
「はぁ…」
窓の外に見えてきた伯爵家よりも立派なお屋敷に私は本日何度目かわからない深いため息を吐いた。
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